かんごノート by logical nurse

現役ICUナースによるoutput&どこかのナースのためになればいいなのブログ。キーワードはロジカルシンキング。

腹部コンパートメント症候群(ACS)看護師が知っておくべきポイント

2018/6/23

本日は腹部コンパートメント症候群(ACS:Abdominal Compartment Syndrome)についてです。
クリティカルな場面では近年、目にすることも増えてきている病態(正式には病態の総称)ではないでしょうか?

発症すると重症化するため、ERやICUでの管理が殆どになります。
ダメージコントロール手術が日常的に行われるようになり、二期的加療への移行段階で発症したりとICUにいても経験することが多くなってきました。
おかしいなと感じた時に「あ、もしかして?」と疑える引き出しを持てるよう、知っておくと良いと思います。 

  

腹部コンパートメント症候群を知って看護に活かす

◉まず概要をさらっと

腹腔内圧の上昇が有害であることは古くから知られていましたが、腹部コンパートメント症候群というワードとして急速に認知され、一般的な概念となったのはここ十数年ではないでしょうか。近年、世界でも関心が高く早期対応が救命率を上げるともいわれています。
2004年に世界腹部コンパートメント症候群学会(WSACS:World Society of ACS)が発足し、IAH/ACSについてのガイドラインを発表。2013年に更新。
腹腔内圧測定のデバイスも増えてますが、膀胱内圧測定が主流なようです。 

 

【本日の内容でよく出てくる略語・用語】

ACS:腹部コンパートメント症候群
Abdominal Compartment Syndrom

IAP:腹腔内圧
Intra Abdominal Pressure

IAH:腹腔内高血圧
Intra Abdominal Hypertension

腹部コンパートメント症候群とは

ACSの定義
「IAP>20mmHgの遷延、かつ新規に臓器不全が発症した状態」 

IAHの定義
「IAP>12mmHgが持続、もしくは反復する状態」 

ICM32(11):2006より引用 

と、されています。 

平たく言うと出血や血腫・腸管浮腫などにより腹腔内圧が上昇し、それにより呼吸・循環障害が起こる病態の総称をACSと言います。

重篤な症状を引き起こすまではいってないけれど、「腹腔内圧上がってるよーそろそろACSになりそうだよー危険だよー。」というのがIAHといった感じでしょうか。

◉ちなみに、IAPの測定は臥位、呼気終末時、腹筋弛緩、中腋窩線を0とします。

ACSの発生機序

では、IAPの上昇がどのようにACSを引き起こすのでしょうか?

①IAPの上昇、腹壁コンプライアンスの低下(→腹壁の伸展も限界をむかえる)

②腹腔を目一杯使って、逃げ場を失った圧は周囲へと圧を分散させようとする

③腹腔の周囲にあるのは血管や臓器

④主に横隔膜・下大静脈・大動脈・内臓(肝臓・腸管)への圧排

⑤循環障害発生

⑥アシドーシス

⑦多臓器不全

と、大まかにはこのような流れになります。

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plainこの流れを見ると一目瞭然で、①IAPの上昇の時点もしくはそれ以前で気付くことが大切だということがわかりますね。

 

ACSの病態 

次に、IAP上昇により引き起こされる病態についてみていきましょう。

コンパートメントとは区画のことであり、ACSは腹部の区画内圧が高まり周囲を圧排することで様々な症状が併発する症候群です。よって、圧排されて起こる主な症状は前項の④の部分にあたります。

【横隔膜の圧迫で起こること】 
・胸腔内圧の上昇(無気肺・換気量低下)
 →気道内圧の上昇
 →心収縮能低下(心臓圧迫による)

【下大静脈の圧排で起こること】
・静脈還流の障害
 →心拍出量の減少
 →循環血液量の減少
 →DVTリスクの上昇
 →頭蓋内圧上昇

【大動脈の圧迫で起こること】
・後負荷の上昇
 →心拍出量の低下
・腎静脈圧迫による乏尿

【内臓の圧迫で起こること】
・循環障害による臓器虚血
 →肝障害・腎障害
バクテリアルトランスロケーション
 
などが挙げられますが、圧迫が続くことにより抹消循環障害、虚血による臓器及び細胞レベルでの障害を引き起こします。これらの侵襲により、サイトカイン・フリーラジカルなどが産生され全身性の炎症が引き起こされ、細胞障害・代謝障害などからアシドーシス、多臓器不全へと悪循環を起こしていくわけです。

 

ACSの分類とグレード

ACSは原因により「primary ACS」と「secondary ACS」に分類されます。

primary ACS
→腹腔内の病変によるIAPの上昇
 原因:血腫・腫瘍など

secondary ACS
→腹腔内に直接的な原因となる病変がないIAPの上昇
 原因:出血による大量輸血、膵炎や腹部外科手術などの大量輸液後の腸管浮腫、敗血症のEGDT、重症熱傷、人工呼吸器管理、低体温なども因子とされます。

◉発症頻度としては、secondary ACSの方が高い。 

IAHのグレード
GradeⅠ  IAP12-15mmHg
GradeⅡ      IAP16-20mmHg
GradeⅢ     IAP21-25mmHg
GradeⅣ     IAP25mmHg

WSACSガイドラインICM2013より

f:id:logicalnurse:20171126082601j:plainダメージコントロールサージェリーとの関連って?

腹部救急や重症外傷において、①全身状態の改善を待たずに、出血と感染コントロールを主にクリティカルな状態から引き上げるための初回手術、②ICUでの全身状態の改善を図る、③根治のための予定再手術という3段階で行われる外科的アプローチのことをダメージコントロール手術といいます。現在、積極的にダメージコントロールが選択されることが多いですが、著明な腸管浮腫、後腹膜血腫、パッキングなどによるACSの合併が高いことも知っておかなければなりません。一番の要因は、減圧しきれていないのに、無理な閉腹を行うことでACSをきたします。

この場合、腹部の創部を開放のままICUで加療を行い、閉腹が可能となった時点で創閉鎖を行います。

  ACSに対する治療

治療についても詳細はWSACSのガイドラインに内科的治療のアルゴリズムが示されています。参考元:WSACSガイドラインICM2013

①腸管内減圧
 →NG・肛門管挿入、経腸栄養減量・中止、CF
②腹腔内減圧
 →エコー・CT、ドレナージ
③腹壁コンプライアンスの改善
 →鎮痛・鎮静・筋弛緩、逆トレンデレンブルグ体位
④輸液管理の適正化
 →輸液・体液バランス管理、利尿薬、透析考慮
⑤全身及び局所血液還流の適正化
 →循環動態モニタリング及びEnd pointを設定した輸液管理

以上5項目を管理指針とし、前項グレードのGradeⅠ以上(=IAP12mmHg以上)で内科的治療を開始。以降は項目ごとに病態に応じて段階的に治療を提示している。(エビデンスは様々)最終ステップとして、IAP>20mmHgで新たな臓器障害/不全の合併がある場合は開腹による外科的腹部減圧を行うべきとされています。

結局のところ治療は、いかに減圧するか

そして、いかにACSへ移行させずに早期発見・予防できるか

が、とても大切です。

 

ACSをどう予防するか 

診断基準であるIAPの上昇をいち早くキャッチすることが、予防へ繋がります。
そのため、WSACSでも4時間毎のIAP測定が推奨されています。

腹腔内圧測定方法

IAP測定方法としては、膀胱内圧測定が近似値が得られ一般的かつ主流です。

専用のデバイスでの測定、もしくはBaカテーテルにモニタリングキットをつないでの測定になります。専用デバイスの場合は、各メーカーの取扱説明書を参照して下さい。

【Baカテーテルでの膀胱内圧測定方法】
 ①Baカテーテルより膀胱内へ生食25〜50mlを注入しクランプ
 ②採尿ポートに針を留置しモニタリングキットへ繋ぐ(CVP測定用などで代用可)

 

IAHにおいては、定期的なIAPの測定と前項治療に加え、直接的な影響を受けない血中乳酸値やBE、ScvO2と共に指標としていきます。

 

 

ACS/IAHの看護でのポイント

✔︎定期的なIAPの測定(測定方法と測定基準の理解)

✔︎定期的な血液ガス(ABG)の測定
 →Lac、BE、酸素化能など呼吸・代謝障害のチェック

✔︎IAP上昇による身体への影響を考慮してケアを行う
 →頭部挙上や体位変換でのIAP上昇・循環障害への対応
 →IAPを考慮した人工呼吸器設定
 →IAP上昇による無気肺などの呼吸障害への対応

△腹囲測定
 →腹部膨隆が著明であり測定されることも多いですが、IAPとの関連はなし。
  個人的には、医師の指示があれば行うくらいで良いと思います。

 

これらを ICUでの一般的な全身管理に加えて行っていけると、ACSの予防へ繋がる看護ができるのではないでしょうか。ACS重篤化しやすく救命率も一層低くなるため、自信を持って看護が行えるように、確実な知識と手技を身につけ、チームでの情報共有を行い、常に予測を立てながら患者さんの状態をみていきましょう。

 

それでは、今日はこの辺で。

おとーふ。

人工呼吸器の自発呼吸の見方を知りたい!-お困りナースへおくる先輩ノートNo.3-

2018/6/12

第3回「お困りナースへ送る先輩ノート」
〜人工呼吸器の自発呼吸の見方〜についてです。

 

新卒で入ったナースも病棟などでは、そろそろ本格的に受け持ちを始めているところも多いでしょうし、呼吸器などの医療機器がついた患者さんの受け持ちもするようになってきているのではないでしょうか。

また、既卒者でも転職や異動で「今まで呼吸器は見たことがない。」なんてナースもいるでしょう。

 

教育体制が整っている現場であれば、困ることはないようなお題ですが・・・
いざ、受け持ちを始めてみると

「そもそも人工呼吸器がなんとなくしか分からない。」

「自発呼吸があるとかないとか、みんな記録に書いているけどどこを見るの?」

「アラームなったけど、どうすればいいか分からない。」

・・・などなど、人工呼吸器にまつわる疑問は絶えないと思います。

 

わからないまま患者さんを受け持つことほど、不安でコワイことはないですよね。

 

本来は、分からなければすぐに先輩ナースや医師へ確認する。ができれば良いのですが、「聞きづらい・・・。」「聞いても勉強してきて!って言われる」古〜い教育体制の現場も多いかと思います。

 

そこで、人工呼吸器でまず始めにぶつかるであろう

「自発呼吸ってどこでどう見るの!?」

について取り上げたいと思います。

 

これ意外に初歩的すぎるがゆえに、呼吸器の本やサイトなどでも分かっている前提で話が進んでいることがとても多いです(笑)。

 

それでは、本日のノート始めていきましょう。 

 

自発呼吸は人工呼吸器のココをチェック

チェックするのはたった2つ。

グラフィックの圧波形に吸気努力があるかないか。
 (呼吸器にグラフィック波形がでる場合)

実測の呼吸回数と設定換気回数(呼吸回数)に差があるかないか。

 

基本的にはこの2つが簡単に自発呼吸を知る術になります。
最近の人工呼吸器にはほとんどグラフィックモニターが搭載されていますが、旧型やコンパクトなものなどはグラフィックの出ないものもあります。

その場合は②で見るか、吸引の時など呼吸器を外した際に自発呼吸があるかないかを見たりします。

f:id:logicalnurse:20171126082601j:plainただし、自発呼吸がなくて呼吸器でサポートをしている方は、外している時間は呼吸ができていません!
「自発呼吸を見るために呼吸器を外す。」
「吸引が終わっても、観察するためにすぐに呼吸器を装着しない。」

などは、NGです!!吸引で外した際など、手技の合間の一瞬で確認できればよしぐらいにしておきましょう。

 

それでは、1つずつ見ていきます。

グラフィックで見る自発呼吸

上記の「①グラフィックの圧波形に吸気努力があるかないか」についてです。
基本的なグラフィック波形として、気道内圧・流量・換気量が表示されます。
下図では、モードごとにPCV・VCV・PSVの順に上記3種類の基本波形を示しています。

f:id:logicalnurse:20180612094912j:plain

人工呼吸器 自発呼吸のグラフィック波形


まず始めに、グラフィックの気道内圧波形に注目します。ピンクの丸で囲んだ部分の波形にを見ると、波形が基線より下側に少し下がっていますよね。それが、吸気努力(=息を吸おうとしている)=自発呼吸になります。

自発呼吸は陰圧、人工呼吸は陽圧での呼吸になります。自発呼吸は吸気時に肺を広げるため陰圧になります。そのため、圧波形が陰圧方向(下向き)に吸気努力として現れます。

呼吸器の機種によっては、自発呼吸だけ赤色の波形で出るなど、色分けされている場合もありますね。

自発呼吸をみたい場合には、この吸気努力があるかないかをチェックします。

↓グラフィックの基本については前回取り上げていますので、コチラをどうぞ。 

www.logicalnurse.com

 

実測の呼吸回数と設定換気回数からみる自発呼吸

次に、「②の実測の呼吸回数と設定換気回数に差があるかないか」についてです。

人工呼吸器のモニターには、常に実測値が色々と表示されていますね。
呼吸回数・TV(一回換気量)・MV(分時換気量)・PIP(最高気道内圧)など測定項目やウィンドウの種類も各呼吸器のメーカーによって異なると思います。

ここで注目するのは「呼吸(換気)回数」です。
「設定換気回数<実測の呼吸回数=自発呼吸がある」とも言えますが、ミスカウントなどもあるため一概に絶対とは言い切れません。

 

そもそも、最低限のモードを理解していなければなりませんが、ものすごくシンプルに細かいことは抜きにしておさらいすると・・・

A/C:自発呼吸があればアシスト、なければコントロール(=強制換気)

SIMV:設定回数分だけA/Cと同じように強制換気。設定回数以上は、強制換気によるサポートはなし。加えてPSを付加していれば、自発呼吸の時に呼吸器任せのタイミングでPSがかかる。ただし、自発呼吸全てにPSがかかるわけではない。ゆえに、サポートなしの自発呼吸以外に2種類の換気様式が混在するため、呼吸仕事量が増加しやすいモード。

PSV/CPAP:すべて自発呼吸(無呼吸の場合はバックアップ設定で強制換気) 

ということになります。

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plainここで大切なのは、「モードごとに、換気回数の示す意味合いが異なる」ということです。

 

↓人工呼吸器のモードについてのおさらいはコチラ。

www.logicalnurse.com

 

 

モードごとに見ていきましょう。 

A/Cの場合

上記のまま、自発呼吸があればアシスト・なければコントロールで強制換気が入ります。が、基本的にこのモードを選択する場合は、自発呼吸がないためフルサポートを行う場合です。

なので、基本的に設定換気回数=実測の呼吸回数になっていると思います。

設定換気回数を上回っている場合には、自発呼吸があるということになります。

自発呼吸が多く呼吸状態が良いようであればモードの変更も考えなくてはなりませんし、自発呼吸があって非同調となっている場合・肺の状態としてまだ休ませなければならない場合などは、鎮静剤や筋弛緩剤の調整などが必要なので先輩ナースや医師へ相談してみましょう。

 

SIMVの場合

設定換気回数=実測の呼吸回数
→設定された機械換気回数しか行っていないので、この場合は「自発呼吸がない」ということになります。要するに、先ほどのA/Cと同じ状態なわけです。この場合には、SIMVである必要はないのでA/Cへのモード変更を検討しても良いと思います。

 

設定換気回数<実測の呼吸回数

→設定換気回数以上の呼吸は「自発呼吸がある」ということです。この場合、アシストコントロールする必要がないので、PSVCPAPへモード変更が可能です。

 

PSV/CPAPの場合

このモードは「自発呼吸があることが前提」になりますので、言うまでもなくすべて自発呼吸になりますね(笑)。

無呼吸時のバックアップで強制換気が入るように設定されていると思いますが、その場合には無呼吸アラームなどが鳴るのですぐに気づくでしょう。

 

 

以上が「自発呼吸の見方」になります。少しはコツが掴めたでしょうか?
4月からの集中力の糸もそろそろ途切れ、疲れが溜まってきた頃ではないでしょうか?
あなたの人生全てが看護・看護師である必要はありません。休息をとったり、他の楽しみも見つけながら、バランスよくナースのお仕事もできるといいですね。

わからないことはそのままにせず、どんどん解決していきましょ〜その方が安心して自信を持って看護できると思いますよ。焦ったり時間に追われたら、一度止まって深呼吸。意外と時間はつくれるものです、一緒に頑張っていきましょうね〜ブログを通じて新入職の皆さんはじめ、ナースの皆さんを応援しています。

 

それでは、今日のノートはこの辺で。

 

おとーふ。

人工呼吸器管理⑷グラフィック波形を見てみよう!

2018/5/28→6/7追記・書きかけ分upしました☆

約1ヶ月ぶりの更新になってしまいました。4・5月・・・どこの病院でも新入職を迎え、忙しくなる時期ではないでしょうか?

みなさんが良いスタートアップをきれたことを願って!

 

本日は「人工呼吸器のグラフィック波形」についてです。

 

「グラフィックなんて今更?いつも見てるし、見て当たり前。」

「グラフィック・・なんか波形が出ているけど、気にしたことない。」

「なんとなく見ているけど、正直グラフィックがうまく活用できてない。」

 

など、いろんなナースがいると思います。

ICUなどの重症管理やクリティカルケアでは、人工呼吸器管理は必須となります。そこでグラフィックが活用できると、呼吸器装着中の患者さんの状態が倍以上見えるようになる!と言ってもいいくらい見え方が変わってきます。きっと(笑)。

今日は、グラフィックの基本的な見方とポイントを整理していこうと思います。

 

 グラフィックのチェックポイント5つ

まず、グラフィック波形のチェック項目は下記5つが一般的です。

気道抵抗・コンプライアンス

非同調

Auto PEEP

エアリーク

基線からの逸脱・波形の乱れ

 

気道抵抗が上がる、コンプライアンスが低下する、Auto PEEPが発生するなどどれも呼吸の評価としてはマイナスポイントになってきますね。

人工呼吸器は同調性が良いに越したことはないですが、みなさんはどうやって同調性の良し悪しを見分けているでしょうか?ファイティングだけですか?

もしファイティングだけが非同調と思っているのならば、グラフィックについてもっと知識を深めなければなりません。

非同調はトリガーやフロー、タイミングなど様々な因子の影響で発生します。それを見極める大事なツールの1つがグラフィックになります。

「いかに人工呼吸が快適に同調するか」をポイントに、グラフィックを学び日々のケアプランへ役立てていきましょう。

 

1)グラフィックの基本波形を知ろう

代表的なグラフィックの基本波形は3つ+ループ波形2つの計5種類。

気道内圧波形

吸気流量波形

換気量波形

   +

ループ波形2つ

圧-換気量曲線
(Pressure-Volume Curve)

吸気流量-換気量曲線
(Flow-Volume Curve)

 

 

換気様式による基本波形の違い

ここでは①〜③まずの基本波形をチェックしていきます。

f:id:logicalnurse:20180527202006j:plain

グラフィック換気様式による基本波形

縦軸は①〜③の項目、横軸は時間を表します。

呼吸の1サイクルに必要な時間がA〜Fとし、吸気がA〜C、呼気がD〜Fとなります。
A:吸気開始
B:吸気
C:吸気終了
D:呼気開始
E:呼気
F:呼気終了

この吸気:呼気の比率がI:E比です。

波形だけをみると混乱するかもしれませんが、縦軸の気道内圧・流量・換気量を換気様式ごとに表しているだけです。そのため、換気様式を理解していると、波形もすんなりと納得できると思います。

では、換気様式の特徴を思い出してもう一度波形を見てみましょう。
換気様式のおさらいはコチラ↓ 

www.logicalnurse.com

 

細かいことはさておき、一定なのか変化があるのかだけにポイントをおきます。

f:id:logicalnurse:20180527204537j:plain

換気様式による気道内圧・流量・換気量の特徴

人工呼吸は基本的に吸気のサポートになりますので、吸気相に注目して先ほどの基本波形をみてください。この特徴を波形に置き換えると、一定のところは四角い波形、変化があるところは山なりの波形というように、言葉通りの波形となっていますね。

 

f:id:logicalnurse:20171126082601j:plainVC設定のプラスα知識

VCは一定の換気量を保つ換気様式ですが、設定換気量に到達するまでの流速を矩形波か漸減波かを設定できます。それにより、波形も以下のように変わります。

f:id:logicalnurse:20180527211456j:plain

VCV矩形波・漸減波

矩形(くけい)波の特徴
→ガスを一定の速度で送る。
・吸気が短い場合、呼気が長く必要な場合に有効
・呼気時間が長くAuto PEEPが発生しづらい
・吸気時間が短いため最高気道内圧が高くなりやすい


漸減(ぜんげん)波の特徴
→ガスをピークフローまで到達させ徐々に低下。
・吸気流量が低く時間が長いため、換気分布が改善
・呼気時間が短くAuto PEEPが発生しやすい
・吸気時間が長いため平均気道内圧が高くなりやすく低血圧を招きやすい

 

 

次に、ループ波形④・⑤についての基本波形をみていきましょう。

ループ波形の基本

ループ波形は1ループが1呼吸であり、呼吸の状態を時間軸で追う前項3つの波形よりも1呼吸の状態をみるにはわかりやすい波形となっています。

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グラフィックループ波形

〈圧-換気量曲線:Pressure-Volume Loop〉

特徴

・自発呼吸は時計回り、陽圧換気(強制換気やPSV)は左回りに描かれる。
・右上の最も高い位置が最高気道内圧
・吸気開始と上記最高気道内圧を結んだ直線の傾きで肺のコンプライアンスを示す。 

 

〈吸気流量-換気量曲線:Flow-Volume Loop 〉

特徴

・上が吸気、下が呼気を描いている。

 

 2) グラフィックをチェックしてみよう

先ほど1)グラフィックのチェックポイントで5つの項目を挙げましたが、それぞれのグラフィックの特徴をみていきましょう。

グラフィックで異常を見抜くには、基本波形との比較が大切になってきます。そこに病態や状態を合わせて異常のチェックをしていきます。

 

PCVの場合の気道抵抗の上昇・コンプライアンスの低下時

↓↓後ほどPCV時のグラフィックイラスト追加します。→☆6/7upしました。

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PCV時の気道抵抗・コンプライアンスによるグラフィック変化

 気道抵抗の上昇時
・気道内圧は一定で変化なし
・吸気流量の減少、吸気が基線に戻らず呼気が開始
 →ガスが何かしらの気道抵抗によりスムーズに入らず、オーバーシュート様となる
プラトー時間の短縮
・換気量の減少 

コンプライアンスの低下時

・フローの低下及びフローがゼロの状態が続き呼気の開始となる
・換気量の減少

  

VCVの気道抵抗の上昇時

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VCVの気道抵抗上昇時のグラフィック変化

・最高気道内圧が上昇
プラトー圧設定の場合は、最高気道内圧との差が開大(5cmH2O以上)
・呼気フローの低下と呼気時間の延長
・換気量は一定値に設定されているため変わらない

VCVのコンプライアンスの低下時

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VCVコンプライアンス低下時のグラフィック変化

・最高気道内圧とプラトー圧の上昇(圧格差は変わらない)
・最大吸気の低下と呼気時間の短縮(短時間で多く吐こうとするため)

 

Pressure-Volume Loop

・吸気開始と上記最高気道内圧を結んだ直線(点線部分)の傾きで肺のコンプライアンスがわかる。

 直線の傾きが低下=コンプライアンスの低下
 直線の傾きが上昇=コンプライアンスの改善

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ループ波形でみる肺のコンプライアンス
非同調をチェック

非同調についての原因は一概には言えないこともあるが、人工呼吸器の原因として多いものは以下が挙げられる。

・吸気終了のタイミングによるもの

・トリガー異常によるもの

・流量異常によるもの

ここからさらにいくつかの原因に枝分かれしている。グラフィック波形の基本から大幅に枝葉を伸ばさねばならないため、今回は割愛としまた別の機会にスポットを当てていきたいと思います。

基本的には、基本波形から逸脱している場合には何かしらの非同調が存在し、呼吸の快適性を損なっていると考えても良いと個人的には思っています。加えて、非同調はグラフィックのみで判別しきれない部分もあるので、断定は難しいこともあります。

 

↓↓ここから下の記事、多忙にて書きかけです(笑)波形イラスト随時追加していきます。→☆6/7upしました。

Auto PEEPをチェック

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Auto-PEEP時のグラフィック波形変化

Auto PEEPとは、呼気が基線に戻らずに次の呼気が始まってしまうことを言います。
原因としては、呼吸回数の増加や気道狭窄などの気道抵抗の増加があげられます。
VCVでもPCVでも同様の波形になります。

【Auto-PEEPへの対応】
※医師の指示や状態に応じて行ってください。

・呼吸数を減らす
・一回換気量を減らす
・吸気時間を短くする
・PEEPをあげる

 

エアリークをチェック

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エアリーク時のグラフィック波形変化

換気量波形で呼気が基線のゼロに戻らない時にエアリークを示唆します。吸気で送ったガスが回路外に漏れるためこの様な波形になり、吸気の開始時にゼロへ補正(=基線に戻される)されます。
【エアリークへの対応】
・回路からのリーク
・カフリーク
・気管チューブが抜けかけていないか
・胸腔ドレーンからのリーク
などを疑いチェックしましょう

・・・ループ波形でもエアリークは一目瞭然で、Flow-Volume Loopがループになっていない=クローズドしていない時はエアリークを疑うので、上記をチェックしましょう。

基線からの逸脱・波形の乱れをチェック

これは上記でも行ってきたことですが、波形の乱れや始点・終点の基線からの逸脱などをチェックしていきます。

先ほど挙げたAuto PEEPやエアリークも基線からの逸脱ですし、ミストリガーや回路結露・気道分泌物の貯留なども吸気努力波形や波形の揺れなどとして出てきますので、このチェックを行うことで様々な異常に気づくことができます。

 

以上がグラフィックの基本波形になります。
呼吸器の測定値だけを見るのと、グラフィックも合わせて見るのではだいぶ情報量が変わってきますね。

より快適な呼吸の評価へグラフィックを活用してみてください。

 

それではまた次回。

おとーふ。 

 

↓人工呼吸器管理シリーズ▽はじめからおさらいはコチラ↓

人工呼吸器管理⑴適応と合併症を知ろう(VILIと呼吸器管理のスタンダード)

人工呼吸器管理⑵人工呼吸器の役割と設定のポイント

人工呼吸器管理⑶人工呼吸器のモードと換気様式 

 

人工呼吸器管理⑶人工呼吸器のモードと換気様式

2018/4/28

本日は人工呼吸器のモードについてです。
人工呼吸器を装着した患者さんの看護を行う上で、一番はじめにぶつかるのが「モードって何がどう違うの?」という疑問ではないでしょうか。

モードに関しても設定項目同様で、モードが呼吸器によってたくさん存在するわけではなく、根本的なモードは同じで人工呼吸器を作るメーカーによりモード名が異なるということを覚えておきましょう。

基本的なモードの違いを理解していれば、異なるタイプの呼吸器でモード名が変わっても難なく対応できるようになります。しかし、基本的なモードの理解ができていない場合は、モード名に振り回され混乱していることも多いようです。

 

本日のコンテンツはこちら↓

 

人工呼吸器の基本的なモードの特徴と考え方

人工呼吸器のモードの前に理解が必要なのが「換気様式の違い」と「呼吸をどのようにコントロール(規定・制御)するか」です。これらの組み合わせが、モード名になります。


換気様式はたった2つ。

a.強制換気→人工呼吸器の設定により行われる換気

b.補助換気→自発呼吸+人工呼吸器のサポートで行われる換気

のいずれかになります。

 

呼吸のコントロールもたった2つ。

A.従式換気(VCV

B.従式換気(PCV

このAとBの2パターンだけになります。

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain人工呼吸器の用語やモードは英語表記や略語が多いので、モードと混在しないようにしましょう。

 

基本的なモードについては、臨床でよく目にする3つを取り上げていきます。

A/C(=CMV):補助・調節換気(=持続強制換気)

SIMV:同期式間欠的強制換気

CPAP(=CSV):持続陽圧気道圧(=持続自発換気)

 

それでは、1つずつみていきましょう。

 

1)量換気か圧換気か

f:id:logicalnurse:20171126082601j:plain☆量換気と圧換気のやさしい理解のコツ☆


人工呼吸器のモードを選ぶ時には、自発呼吸を出すか出さないか(=自発呼吸メインにするか強制換気メインにするかもしくは、自発呼吸に補助をかけるかなど)によって決めます。その時に、人工呼吸器が担うのは主に吸気のサポートを行うわけですが、その吸気を「量」で規定するのか「圧」で規定するのかを選ばなければなりません。

よく肺は風船のようなものだと言われますが、この「換気量」や「気道内圧」が高すぎれば風船は膨らみすぎて破けてしまったり、風船が伸び切ってしまったりする(肺障害)かもしれませんし、設定が低すぎれば十分に膨らまない(十分な呼吸ができていない)ですよね。

そのため、「程よい加減の膨らみ具合」に設定をしてあげることが大切になってきます。

そこで、その膨らみ具合を「入った空気の量」で膨らむのにストップをかけるのか、「膨らむ時にかかった圧」でストップをかけて程よい膨らみ具合にするのかで調整をします。

それが、前者であれば「量換気」後者であれば「圧換気」ということになります。

f:id:logicalnurse:20180429091613j:plain

人工呼吸器の換気制御〜イメージ〜

 

従量式換気(VCV:Volume Controlled Ventilation) 

〈特徴〉

・1回換気量を規定して行われる換気。

・1回換気量や吸気時間は一定に維持。

・換気量は一定になりますが、吸気時にかかる圧は規定しないため変化。VILI予防のためには、適切なプラトー圧の設定が必要。

・吸気流速が一定のため、人工呼吸器と自発呼吸の同調性が悪くなる可能性がある。

 

従圧式換気(PCV:Pressure Control Ventilation)

〈特徴〉

・最高気道内圧を規定して行われる換気。

・1回換気量は肺コンプライアンス・気道抵抗・設定圧などの環境に影響され変化。

・吸気時間の延長によって、1回換気量も増加する。

・吸気流速が規定されていないため、患者の呼吸努力により換気量が増えるため自発呼吸との同調性が良い。

・自発呼吸が強いとVILIのリスクがある。

 

◉では、これまでの換気様式(強制換気か補助換気か)とコントロール方法2つ(量換気か圧換気か)をふまえて各モードの特徴をみていきましょう。

 

2)A/C(補助調節換気:Assist Control Ventilation)

【換気様式】:強制換気

・設定された呼吸数の強制換気を行う。

・設定された呼吸数以上の自発呼吸がある場合も、すべての呼吸に設定された強制換気が行われる。

 

【コントロール制御】

・従量式(VCV)

もしくは

・従圧式(PCV)

 

【特徴】

・強制換気により呼吸努力・呼吸筋疲労の減少が見込める

・患者の呼吸努力や要求量と同調性が悪いと、過換気や呼吸努力が増加する可能性がある。

 

【設定項目】

・FIO2
・1回換気量(VC or PC)
・換気回数
・PEEP
・吸気時間(I:E比)

 

3)SIMV(同期式間欠的強制換気:Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation)

【換気様式】:強制換気もしくは強制換気+補助換気の混在

・人工呼吸器による換気と自発呼吸の両方を温存できる。

・設定換気回数は強制換気(VCV or PCV)、設定換気回数以上は自発呼吸

・自発呼吸は同期して強制換気または補助(PS)換気となる。

 

【コントロール制御】

・VCV(+PS)

もしくは

・PCV(+PS)

 

【特徴】

・設定換気量を維持しつつ、患者の自発呼吸も温存できる。

・2つの換気パターンが混在し、同調性が悪くなりやすい。

・呼吸仕事量が増加する可能性がある。

・A/CとCPAPの中間のモード。

・設定換気回数以上の自発呼吸に対してPS(圧支持)の付加ができる。

 

【設定項目】

・FIO2
・1回換気量(VC or PC)
・換気回数
・PS
・PEEP
・吸気時間(I:E比)

 

4)CPAP+PS(持続陽圧気道圧:Continuous Positive Airway Pressure)

【換気様式】:自発呼吸または自発呼吸+補助換気

・吸気・呼気共に気道に一定の陽圧(PEEP)をかけ、呼吸はすべて自発呼吸

 

【コントロール制御】

・自発呼吸のため制御はなし(バックアップとしての設定は可能)

 

【特徴】

・自発呼吸での換気のため、呼吸器と同調性が良い。

・自発呼吸が出ない場合や、弱い場合は使用できない。

・気道抵抗や換気補助不足に対して、PSの付加ができる。

 

【設定項目】 

・FIO2
・PEEP
・PS

 

5)特殊なモード

上記3つが基本的なモードとなり、そこから派生するものがほとんどとなります。
他にも・・・

・APRV
・HFO
ASV
・MMV
などいろいろありますが、使用頻度は少ないです。APRVなどはARDSでのオープンラングの1つとして近年、使用頻度も上がってきているようです。

 

6)人工呼吸器の基本的なモードまとめ

f:id:logicalnurse:20180429101027j:plain

人工呼吸器のモード

以上が人工呼吸器のモードと換気様式になります。人工呼吸器管理の時期や、サポートの程度を考慮した適切なモード選択が行えると良いですね。乱立する用語の多さに惑わされず、本質を習得していきましょう。

 

それでは、良いゴールデンウィークを(^^)

ナースは関係ないか(笑)

 

おとーふ。

 

↓人工呼吸器管理シリーズはコチラ↓

人工呼吸器管理⑴適応と合併症を知ろう(VILIと呼吸器管理のスタンダード)

人工呼吸器管理⑵人工呼吸器の役割と設定のポイント 

人工呼吸器管理⑷グラフィック波形を見てみよう!  

人工呼吸器管理⑵人工呼吸器の役割と設定のポイント

2018/4/12

前回に引き続き、人工呼吸器管理についてです。
人工呼吸器はモードや使われている用語が、各施設やメーカー・人工呼吸器の種類により様々です。表記も英語や日本語であったりと、実に分かりづらいです。

はじめて人工呼吸器を見るナースにとっては、複雑きわまりないと思います。しかし、実際は用語が異なるだけで、根本的には同じになります。

そのため、基本的なことを押さえておくと機種や施設が変わっても、人工呼吸器管理がスムーズに行えます。

人工呼吸器を装着した患者さんを受け持つようになると、まずはじめに「モードがわからない・・・。」というナースが多いと思います。けれど、ちょっとその前に頭に入れておくと、今後「人工呼吸器について知る上で理解がしやすくなるポイント」を今回まとめていきます。

知っている人は、さら〜っと読み飛ばしてくださいね〜。

 

人工呼吸器でできること

①低酸素血症の改善(酸素化)

②高二酸化炭素血症の改善(換気)

③呼吸仕事量の軽減

 

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain《ここが大切!》
現在の患者状態が「この3つのうちどれに問題があるのかを把握する」ことと、「3つそれぞれに対して分けて対応していく」ということです。

 

次に、それぞれに対して問題があった場合にどう対応していくのかをみていきましょう。ここでの対応=人工呼吸器の設定になりますので、まずはじめに設定する項目についてみていきます。

 

1)人工呼吸器の基本設定項目

・モード

・酸素濃度(FIO2)

・PEEP 

・呼吸回数(f)

・換気量(TV)または吸気圧/圧支持(/Pi/PS)

 

以上5つになります。「え?他の項目は?呼吸器にはなんかたくさん設定するところがあるのに・・・。」と思った方もいるかもしれませんね。その他といえば、トリガーやI:E比などありますがその辺はとりあえずデフォルトのままで大丈夫です。

基本設定として、大切なのがこの5つだけです。

モードについては、今後詳しくやっていこうと考えています。今回は前項の「人工呼吸器でできること①〜③」への対応なので、モード以外の4つの項目についてピックアップしていきます。

 下記はごく基本になるため、疾患や症状などに合わせ設定値は異なり、設定変更に対する反応なども時間や呼吸状態を考慮していかなくてはなりません。

2)酸素化の改善に必要な人工呼吸器設定

酸素化に関わる設定項目は前項4つのうち、たった2つ。

 

・酸素濃度(FIO2)
 
→吸入酸素濃度を上げて低酸素を避ける

・PEEP
 
→肺胞を開いて酸素の取り込みを良くする

これだけです。

 

【酸素化を改善させるには】

・FIO2を上げる
・PEEPを上げる

反対に、過剰酸素の場合やウィーニング時にはこの逆であるFIO2・PEEPを下げていけばいいわけです。人工呼吸器の設定でできる酸素化への対応としては、ごくシンプルにこれだけになります。

これで低酸素血症が改善しない場合には、換気不全によるものであれば換気の改善を行い、ほか痰による気道閉塞、循環不全によるものなど、原疾患への対応や低酸素の鑑別を再度行わなければなりません。(原因検索や呼吸状態を知るには、血ガスで取り上げていますので過去記事↓を参照してください。)

www.logicalnurse.com 

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain☆FIO2/PEEPを設定する上で気をつけるポイント☆

【FIO2】
・投与開始はFIO2:1.0(100%)で開始
・VILI予防のため48〜72hr以内にFIO2:0.5以下を目標とする

【PEEP】
・ARDSでのPEEP設定は、ARDS NETWorkにより酸素濃度ごとの設定値が設けられているため該当表を用いる
・ARDSでのPEEPウィーニングは、一気に行うと急激な低酸素を招く恐れがある
 …設定変更後は数時間呼吸状態を観察し、ゆっくりと下げる
・血圧低下に注意
 …PEEP↑→胸腔内圧↑→静脈還流↓→心拍出量↓→血圧↓

 

(酸素化の指標については、過去記事を参照してください↓)

 

www.logicalnurse.com

 

3)換気の改善に必要な人工呼吸器設定

換気にまつわる設定項目は以下2つだけ。

 

・呼吸回数(f)

・換気量(TV)または吸気圧(Pi)

 

二酸化炭素血症(PaCO2↑)=換気不全=分時換気量の低下といえます。

✔︎分時換気量(MV)=一回換気量(TV)× 呼吸数(f)

この計算式から、分時換気量を決めているのは一回換気量と呼吸数になるわけです。
そのため、一回換気量か呼吸数が上がれば分時換気も上がりますし、どちらかが下がれば分時換気量も下がります。

 

【高二酸化炭素血症を改善するには】

・呼吸回数を増やす 
・換気量または吸気圧を増やす

 

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain☆呼吸回数・換気量・吸気圧を設定する上でのポイント☆

・肺の状態が正常肺であるのか、COPDや ARDSなどが存在するのかなどを考慮することが大切。それにより、目標とする設定値も変わってきます。

・1回換気量は10ml/kg、IBW4〜8ml/kg(正常肺)を超えないように設定

・圧換気の場合も上記の1回換気量が維持できるように設定

・呼吸回数を増加させても、PaCO2の低下がみられない時は死腔換気量が増加している可能性があります。

代償によるPaCO2の上昇は許容し、原疾患の治療を優先とします。むしろ、PaCO2を戻してしまうことで、代償の破綻が起こり病態悪化の加速を招く恐れがありますので、注意しましょう。

 

4)呼吸仕事量の軽減に必要な人工呼吸器設定

呼吸仕事量に影響を及ぼすものとしてあげられるのが以下2つです。これは、人工呼吸器が空気を送り込むために気道や肺の生理に逆らっているためです。
・気道抵抗
・肺や胸郭のコンプライアンス(弾性抵抗)

 

1)の呼吸器設定項目の4つのうち、ここで関係があるのはこの2つ。

 

・呼吸回数(f)または強制換気回数(SIMV回数)

・圧支持(PS)

呼吸回数は増えると呼吸仕事量が増加します。自発呼吸がなく完全な強制換気下では、呼吸仕事量はゼロになります。自発呼吸がある場合、その吸気努力に合わせて設定した圧までサポートを行うのが圧支持(PS)になります。呼吸の一部または全部を人工呼吸器が代替することで、呼吸筋疲労の回復や酸素消費量を減らすことができます。

 

【呼吸仕事量を軽減するには】

・呼吸回数、自発呼吸と強制換気のバランスを考える
・プレッシャーサポートをかける

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain☆強制換気回数と圧支持の設定ポイント☆

・PSを上げると一回換気量が増加し、換気回数が低下します。分時換気量は増えない。
 (分時換気量=一回換気量×換気回数)

・自発呼吸がある場合:PS5〜20cmH2O

・強制換気の場合:PS10cmH2O

 

 以上が人工呼吸器でできることと、それに応じた基本的な設定のポイントになります。ここを押さえた上で病態をや状態に合わせた設定やモード選択が必要になります。
また、各施設や医師の考え方によっても設定が異なってきます。

何が問題でそれに対して、人工呼吸器でどこをサポートするのかを明確に把握することで、適切な設定が行えたり、状態変化時の対応ができるようになってくると思います。

用語が乱立する人工呼吸器も、目的とそれぞれに必要な設定項目は実はそんなに多くないと気づくと、苦手意識はだいぶなくなるのではないでしょうか。

次回は、「人工呼吸器のモード」あたりをまとめていこうかなと考えています。

 

深夜の更新となりました、おやすみなさい。

おとーふ。

 

↓人工呼吸器管理シリーズはコチラからどうぞ↓

人工呼吸器管理⑴適応と合併症を知ろう(VILIと呼吸器管理のスタンダード)

人工呼吸器管理⑶人工呼吸器のモードと換気様式 

人工呼吸器管理⑷グラフィック波形を見てみよう! 

 

 

人工呼吸器管理⑴適応と合併症を知ろう(VILIと呼吸器管理のスタンダード)

2018/3/29

本日は人工呼吸器についてです。人工呼吸器管理については、施設や携わる医師の考え方、機種などにより捉え方や使うモードや用語が様々です。一見複雑なようですが、実は基本的なことはシンプルだったりもします。

いつもどおりクリティカルケアでの管理を中心に整理していきたいと思います。

  

人工呼吸器管理の基本

はじめに人工呼吸器のモードや設定云々はさておき、まず「どういう時に人工呼吸器が必要となるか」と「人工呼吸器の装着はサポートをしてくれるだけではなく、合併症も引き起こすこと」を知っておくことが管理していく上ではとても重要になります。

人工呼吸器と呼ばれるものには侵襲的か非侵襲的かによって分かれます。

IPPV(Invasive Positive Pressure Ventilation)=侵襲的陽圧換気
→挿管(気管切開含む)での人工呼吸

NPPV(Non-Invasive Positive Pressure Ventilation)=非侵襲的陽圧換気
→挿管不要、マスクでの人工呼吸
    NIVではほとんどがNPPV

ここでは、いわゆる挿管を行なった場合に使用する①IPPVの人工呼吸器管理についてお話ししていきます。

 

1)挿管・人工呼吸器の適応

気管挿管の適応

①呼吸不全(低酸素血症及・高二酸化炭素による)
②起動防御機能の破綻(舌根沈下・咳嗽反射消失)
③NPPVで改善しない呼吸不全

加えて臨床所見から

①呼吸補助筋使用による呼吸
②一文をすべて話しきることができない状態
③早く浅い呼吸
④十分な酸素化に関わらず低酸素血症が進行
意識障害

以上8つの場合に気管挿管を考慮するといわれています。

今回は人工呼吸器管理がテーマのため触れませんが、気管挿管については以下にあげた項目についても学ぶとスムーズに挿管介助が行えると思います。

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plainスムーズな気管挿管のためのポイント

〈気道確保とマスク換気〉
 ・頸部伸展、下顎挙上、開口(トリプルウェイマニューバー)や頭部後屈顎挙上
  ※気道確保の場合には肩枕も有効
 ・挿管前の十分な酸素化(NPPVやハイフローセラピーの使用含め)

 ⇩
〈挿管と喉頭展開〉
 ・一般的な気管挿管かRSI(急速挿管・迅速気道確保)か
 ・救急カート準備(気管挿管に必要な物品、困難気道の場合に必要なものも含め)
 ・薬剤準備(鎮痛・鎮静・筋弛緩・気管攣縮予防/頭蓋内圧亢進予防)
  →血行動態の悪化や症状の悪化を招かない薬剤を選択
  →挿管後や困難気道の場合の血行動態の変化をふまえた準備
   (負荷様補液・超即効型β遮断薬・血管作動薬など)
 ・喉頭展開時にはsniffing position(=匂いを嗅ぐ姿勢)が基本 
  ※肩枕はダメ!頭部への枕が有効

 ⇩

〈挿管後の酸素化の維持〉
 ・酸素化評価や肺リクルートメント

ここまでを一連の流れと想定しながら、頭の中でもいいのでシュミレーションを何度も行なっておくことが大切です。また、スムーズに挿管ができる場合ばかりではないので、食道挿管になってしまった場合や緊張性気胸を引き起こした場合、高血圧・低血圧・徐脈など、血行動態の異常も何が原因で起こりうるのか予測して日頃からおきましょう。それに備えて対応できる準備を常にイメージトレーニングしておくと、いざという時に焦らず対応できる様になります。

 

人工呼吸器の適応

気管挿管の適応に加え、陽圧呼吸管理が必要な場合が人工呼吸器の適応となります。
簡単にいうとNPPVが使えない時とNPPVでも呼吸状態が改善しない時ですね。

①急性・慢性呼吸不全(肺炎・心不全COPD急性増悪など)
②難治性低酸素血症(ARDSなど)
③気道閉塞や狭窄などによる気道保護困難(脳幹梗塞、喘息発作、顔面外傷など)


2)人工呼吸器における合併症

人工気道・回路によるもの
・VAP(人工呼吸器関連肺炎)
・気道クリアランスの低下 

陽圧換気・高濃度酸素投与によるもの
肺障害VILIVentilator Induced lung injury
・心拍出量低下や腎血流量低下、頭蓋内圧上昇など各臓器への影響
・酸素中毒 

体位・体重によるもの
・荷重側肺障害(DLI) 

その他①〜③の要因が複合的に合わさったもの
・皮下気腫 
・精神的ストレス
・上部消化管出血
・換気血流比不均衡(シャント・死腔が増大)
イレウス 

以上の様に人工呼吸器による合併症は多々あります。
その中で最も重要なのが人工呼吸器誘発性肺障害(VILI)です。

 

VILIの主な因子は? 

一言で言えば、高用量の換気による肺の過膨張で起こしうると言われています。 

発生要因としてあげられるのは以下になります。

圧肺損傷(Barotauma)
・1回換気量が大きい

酸素毒性(oxygen toxicity)
・長時間にわたる高濃度酸素 

量肺損傷(volutrauma)
・局所的な過膨張→肺サーファクタントの破壊→肺コンプライアンスの低下
・高プラトー

虚脱性肺損傷(atelectrauma)
・肺胞開閉サイクルのストレス、局所低酸素による肺胞虚脱=無気肺

炎症性肺損傷(biotrauma)
・③や④により肺内炎症性メディエーターが活性化し肺障害を起こし、ARDSを増加、全身性に循環されやがてはMODS(多臓器機能不全症候群)

 

人工呼吸器合併症を起こさないために 

大前提としては・・・
・原疾患の治療と呼吸循環の安定を図り、人工呼吸器からの早期離脱 を目指す
適切な人工呼吸器管理を行う

 

〈VAP予防〉
・ベッドギャッジアップ30〜45度
・カフ上部からの垂れ込み防止(適切なカフ圧・カフ上部吸引)
・マウスケア
・スタンダードプリコーションと清潔な回路の維持
など

 

〈VILI予防〉肺保護戦略に基づいた人工呼吸器管理
低一回換気量プラトー適切なPEEPが有効と言われている
・適切な換気量やモードにおいてもこれというものはまだなく、指標としては駆動圧か経肺圧かなど、今後の課題も残っている
・肺胞リクルートメント
・48〜72時間で酸素化を保ちながらFIO2:0.5以下まで下げる
など・・・現在進行形で予防のための研究が進められています

 

〈体位・体重による合併症の予防〉
・適切なエアマットの設定
体位変換や体位ドレナージ
・呼吸理学療法やリハビリ
など

 

以上が人工呼吸器の適応と合併症・予防についてになります。
従来ARDSに用いられた肺保護換気が、現在はARDS以外でもARDSへの進行を予防するとされています。2000年にARDS Net workの報告によって一気にlow-tidal、高CO2許容の認識が広まり肺保護換気が近年の呼吸器管理のスタンダードとなりつつあります。

医療情報やエビデンス・医療や看護の常識も日々変わっていきますが、一つずつ取り入れ検証してみたり、ベストな方法を見つけ出せれば良いのではないでしょうか。

 

本日はこの辺で、、、

おとーふ。

 

↓人工呼吸器管理シリーズのつづきはコチラ↓

人工呼吸器管理⑵人工呼吸器の役割と設定のポイント - かんごノート by logical nurse

人工呼吸器管理⑶人工呼吸器のモードと換気様式 - かんごノート by logical nurse

人工呼吸器管理⑷グラフィック波形を見てみよう! - かんごノート by logical nurse

 

 

血液ガス分析のよみ方⑵酸塩基平衡を知る5ステップと血ガス採取の注意点

2018/3/15  更新:2018/7/21

血液ガス分の読み方第2回になります。1回目で「分けて考える」を強調したと思いますが、本日は体内の「酸塩基平衡」の状態に焦点をあてていきます。

 酸塩基平衡が保てない=生命の危機!?

「血液ガスでなぜ生命の危機?」と思うかもしれませんが、血液のpHの基準値って7.40でアルカリ性に傾いてますね。これってどうしてでしょう? 

生命維持活動で主要なものは、エネルギーであり、それをつくる上で大切なのは酸素と栄養素になります。これらはそのままエネルギーになるわけではなく、体内で呼吸や代謝を行うことでエネルギーとなります。そのエネルギーを作るなどの活動の中で、体には有害な産物として生まれるもののほとんどが「酸」になるわけです。


例えば…呼吸をすれば酸素を取り込む代わりに二酸化炭素(CO2=酸)が生まれますし、糖質を代謝すれば乳酸などの有機酸、脂質を代謝すればケトン体などそのほとんどが「酸」です。

 

というわけで、誰かが調整役をしなければ生命維持活動を行うだけで代謝産物による酸が増え、「体はどんどん酸性に傾いていく」ということになります。

 

そこで、体内での「酸の調整役」をかって出てくれている3本柱が以下になります。

①主として血液などの体液が営む緩衝作用
呼吸によるpCO2の調整
によるHCO3-の再吸収と産生による不揮発酸の排泄

この大切な機能が障害されているか否かを見極める1つの手段が「血ガス」になります。
そのため、始めにあげた「なぜ血液はアルカリ性なのか?」というのは上記の①にあたり、血液とやりとりをする細胞のpHは7.00と中性になります。このpHの差があることで酸塩基が傾いた時に、酸の因子であるH+をK+と交換することで、血液の酸性化を抑え、バランスとろうと働きます。

要するに、生理的範囲を超えた酸塩基の傾き(特に酸性化)は、重要な酸の調整役が障害されている状態であり、生命の危機を示すと言えるわけです。

 

1)酸・塩基の定義

ここで、酸・塩基の定義ですが少々長くなった上記の生命の危機の話をなんとなく理解してもらえれば、この定義も納得できると思います。

 

〈Brønstedの定義〉

酸とは「H+を離す」
塩基とは「H+を受け取る」

 

とされています。これだけ見ると、「血ガスでH+なんて出てこない」と思ったかもしれませんが、先ほどのお話を思い出してもらうと、細胞レベルでのイオン交換で「H+」がキーワードとなるわけです。

f:id:logicalnurse:20171130013549j:plainただし、イオンレベルを血ガスのように数値化や定量化すると、とんでもない桁数になりワケのワカラナイことになります(笑)。なので、条件を整え、見やすくわかりやすくしてくれたものが血液ガス分析ということになります。

 

体内の酸は大きく分けてこの2つ

 

呼吸酸(揮発酸)→から出す
 呼吸による細胞の代謝で生まれたCO2 

代謝(不揮発酸)→から出す
 栄養素(糖質・タンパク質・脂質など)の代謝で生まれた有機酸・リン酸・ケトン体など


この辺は後々名称が出てきたり、つながってくるのでなんとなく頭に入れといてください。

では、早速本題の血ガスを読むに入りたいと思います。


2)「酸塩基平衡」の状態は5stepで血ガスを読む

   以下5stepの順にみていきます
 step1.pH
 step2.呼吸性or代謝
 step3.代償
 step4.AG
 step5.補正HCO3-

 

✔︎「酸塩基平衡」を読む上で必要な血ガス項目と正常値は 以下4つになります。

 ①pH 7.400±0.05
 ②PaCO2 40±5
 ③HCO3- 24±2
 ④BE -3〜3

Step1. pHをみる。

《基準値:7.35~7.45》

・pH7.35以下:アシデミア

・pH7.45以上:アルカレミア 

f:id:logicalnurse:20171126082601j:plainよく聞くアシドーシスとアルカローシスは?

血液が酸性に傾く病態のことをアシドーシスアルカリ性に傾く病態をアルカローシスと言います。pHの増減に関しては、上記のようにアシデミア・アルカレミアと表現されます。 

 

Step2. 呼吸性代謝かをみる。

ここでは、一次性(原発)病態を把握し二次性病態の鑑別をします。
基本パターン(一次性病態)は以下✔︎マークの4つになります。

 

HCO3-の(=塩基)増減がある場合→代謝

✔︎HCO3-減少=代謝性アシドーシス
→Step3へ

✔︎HCO3-増加=代謝性アルカローシス
<原因として考えられること>
(H+の喪失とHCO3-の排泄低下)
・有効循環血漿量の減少
・アルドステロン症によるもの
・嘔吐や利尿剤使用による高度K欠乏  など

 

PaCO2(=)の増減がある場合→呼吸性

✔︎PaCO2増加=呼吸性アシドーシス
<原因として考えられること>
・呼吸中枢抑制(喘息、COPD、脊髄損傷、麻薬/麻酔過量投与、脳血管障害など)
 ※通常はStep3の腎による代償でpHが是正されますが、腎機能障害がある場合には代償機構が働かずに重症化することもあります。
 ※高CO2血症に伴うアシドーシスもpH7.15~7.20程度までは許容しようという動向もあります。加えて、「PaCO2上昇を許容し、肺に愛護的な呼吸条件にし、陽圧換気による肺損傷を防止することでARDSの治療成績が向上する」という肺保護戦略の概念も出てきています。


✔PaCO2減少=呼吸性アルカローシス
→原因として考えられることは
・過換気
・低酸素血症による過換気
・脳幹病変 ほか呼吸中枢性による
・肝硬変、妊娠   など

BEも参考程度にみてみましょうf:id:logicalnurse:20171102030951p:plain

このBE(base excess:ベースエクセス)は、一定の条件(体温37度、pCO240Torr)下にある血液を、pH7.4にするための過剰または欠乏塩基を数値化したものになります。
pCO2の値を規定しているので、pCO2の増減で決まる呼吸性因子には左右されません。
HCO3-は代謝性以外にも、呼吸性、代償性でも変化します。そのため、BEの増減も認められれば「代謝性」と言え「代謝性因子の指標」とも言われています。

一見便利なようですが、酸塩基平衡混合タイプではBEのみを指標にすると誤った認識となるため注意が必要です。

BE基準範囲:-3.2~+2.7mmol/lと男女比で前後があり、0±2とされていることも多いですが、だいたい0±3くらいと覚えても問題ないです。 

 

Step3. 代償の程度をみる。 

ここでは、代償が十分なのかそれとも不足しているかをみていきます。
「代償」とは酸塩基平衡が崩れた時(=CO2 or HCO3-の異常がある時)に、pH7.40のバランスが取れた状態に戻そうとする生体反応の一つです。あくまでも、「pH7.40に近づけるだけでそれを超えない」というのが原則です。それを超えるものは、また別の酸塩基平衡異常となります。

【酸塩基平衡の調節】

CO2は「肺」により「呼吸」で酸を調整
HCO3-は「腎」により「産生・再吸収(代謝)」で塩基を調整

→この「呼吸」と「代謝」どちらかの調節システムに異常をきたした時、代わりに調整しようとするのが「代償」になります。


【代償のポイント】

✔︎代謝性疾患(腎)→呼吸性(肺)に代償(速やかに
 →数秒〜数分で代償開始し数時間以内に代償

 
✔︎呼吸性疾患(肺)→代謝性(腎)に代償(ゆっくり
 →数日(2~5日)かかって代償 

 

◉これらをふまえて、代償の予測範囲をみていきます
正常値にこの予測範囲の補正値をプラスした値が、「代償範囲」になります。

【代償性変化の予測範囲】

見方:Step2の一次性病態の項目をみて、それぞれの代償予測をみます。

✔︎代謝性アシドーシスHCO3-↓:代償としてpCO2↓
予測⊿PaCO2=⊿HCO3±5-×1.2
(限界値⊿PaCO2=15mmHg)
✔︎代謝性アルカローシスHCO3-↑:代償としてpCO2↑
予測⊿PaCO2=⊿HCO3±5-×0.7
(限界値⊿PaCO2=60mmHg)


✔︎呼吸性アシドーシス(急性)pCO2↑:代償としてHCO3-↓
予測⊿HCO3-=⊿PaCO2±3×0.1
(限界値⊿HCO3-=30mmHg)
✔︎呼吸性アシドーシス(慢性)
予測⊿HCO3-=⊿PaCO2±4×0.4
(限界値⊿HCO3-=42mmHg)


✔︎呼吸性アルカローシス(急性)pCO2↓:代償としてHCO3-↑
予測⊿HCO3-=⊿PaCO2±3×0.1
(限界値⊿HCO3-=18mmHg)
✔︎呼吸性アルカローシス(慢性)
予測⊿HCO3-=⊿PaCO2×0.2~0.5
(限界値⊿HCO3-=12mmHg)

  

代償の予測範囲はどうでしたか?
↓ 

代償性変化が予測範囲内の場合
Step2.の)基本パターンの一次性病態+代償が適切にされている
 ※呼吸性パターンの場合は、HCO3-の代償の有無で急性か慢性かが分かります。


代償性変化が予測範囲を逸脱している場合
基本パターンの一次性病態+代償しきれていない
一次性病態以外の酸塩基平衡障害が合併している

 

f:id:logicalnurse:20171130013549j:plain「代償性変化の有無」を大まかに知りたい時は

苦手意識に加えて、上記のようなたくさんの計算式を見せられると・・・「もう無理です。」っていう方は、BEとPaCO2の2点に注目してみるとおおざっぱに「代償性変化」が働いているなというのは分かります。


 ✔︎BEとPaCO2の両方が異常値のとき=代償性変化

 

加えて、代謝性アシドーシス・アルカローシスの時のみ下記で、代償が適切にされていると分かります。

✔︎HCO3-+15≒pCO2

 

☆ちなみに、代償性反応で完全にpHが正常化することは基本的にないです・・。

 

Step4. AG(アニオンギャップ)をみる。

代謝性アシドーシス」の場合の追加ステップとして、アニオンギャップ→補正HCO3-をみていくとされていることも多いのですが、一見正常な血ガスデータにみえる時でもアニオンギャップを計算すると「実はいくつかの酸塩基平衡異常が合わさっていた!」なんてパターンが結構あります。

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plainなので、アニオンギャップを通常のステップとして見るクセをつけておくと良いですね。

また、最近は血ガスのパラメーターとしてAGがすでに算出される機器もあるのですぐにチェックすることができますね。

 

◉そもそも「アニオンギャップ」ってなに?
一言でいうと「糸球体から濾過される不揮発性酸の間接的な指標」と言えますが、少し難しい感じもしますね。

体内のバランスとして陽イオン=陰イオン(この陽イオンをカオチン、陰イオンをアニオンと呼ぶ)が成り立ちます。
例えば、陽イオンを10としたならば=陰イオンも10となります。
陽イオンを10とした時に、ナトリウムイオン(Na+)が占める割合を8とします。ならば、陰イオンも8になるわけですが、陰イオンの中で測定できる主要なイオンはクロール(Cl-)重炭酸(HCO3-)になります。
それぞれクロールを6、重炭酸を1とします。
そうすると、陽イオンのナトリウム8に対して、陰イオンクロール6と重炭酸1
なので、8=6+1?でイコールになりません。
陰イオンの残りの1を占めるものが、不揮発性酸であり、これがアニオンギャップなのです。

このAGである不揮発性酸は血ガスでは「測定できないイオン」とされています。そのうちほとんどを占めるのが、アルブミンです。そのため、AGが低下すれば低アルブミン血漿も疑われるというわけです。

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アニオンギャップのイメージ

陽イオン・陰イオンは共に定量ですので、その枠内でそれぞれ成分の量を増減させています。
HCO3-が低下すると代謝性アシドーシスと言えますが、HCO3-が減った分陰イオンの定量の枠で「すき間=ギャップ」ができては困るので、その分をAGである不揮発性酸を増やしてすき間を埋めた場合が、高アニオンギャップ性(AG開大性)代謝性アシドーシスとなります。

 

☆では、アニオンギャップの正体が分かったところで計算していきましょう。 

 

【AG(アニオンギャップ)の計算式】

 AG=Na+ −(Cl- + HCO3-)

(正常値:12±2 mEq/LH2O)

 

※AGはアルブミン値に左右され、Alb1g/dl低下=AG2.5低下する
アルブミン血症の場合のAG正常値:補正AG=AG+(4-Alb)×2.5

 

→計算して出たAGが正常値よりどうなっているかをみる
 

AGが増加の場合
=AG開大性アシドーシス→Step5へ


<原因として考えられること>
・糖尿病性ケトアシドーシス
 (慢性アルコール中毒、低栄養、軽度絶食など)
・乳酸アシドーシス
 (敗血症、痙攣発作後、腸管壊死などの臓器虚血など)
・腎不全
 (尿酸塩、リン酸塩など尿毒性物質の蓄積)
・薬物中毒 など
 (アスピリンエタノール・鉄剤・サリチル酸など)

 

☆頭文字でKUSSMAL-Pなんて言われています
K(Ketoacidosis):ケトアシドーシス
U(Uremia):尿毒症
S(Salicylic acid):サリチル酸
S(Sepsis):敗血症
M(Methanol):メタノール
A(Alclholic/Aspirin intoxication):アルコール/アスピリン中毒
L(Lactic acidosis):乳酸アシドーシス
P(Paraldehyde):パラアルデヒド
  

AGが正常の場合
=アニオンギャップ正常性(AG非開大性)代謝性アシドーシス


<原因として考えられること>
・消化管および腎からのHCO3-喪失(下痢、ドレナージ、瘻孔、尿管S状結腸吻合)
・体液過剰
・尿細管性アシドーシス(RTA
 (遠位型・近位型・高K血症型)
・アセタゾラミド摂取時
・腎不全初期   など

 

☆こちらも頭文字シリーズHARD-UPまたはUSED-CARS
H(Hyperalimentation):過栄養
A(Acetazolamide/Addison's disease):アセタゾラミド /アジソン病
R(Renal tubular acidosis):尿細管性アシドーシス
D(Diarhea):下痢
U(Ureteroenteric fistula):尿管腸瘻
P(Pancreatic fistula/Parenteral saline):膵液瘻/生理的食塩水大量補液
または
U(Uretero-enterostomy):尿管腸吻合
S(Saline-administration):生理食塩水投与
E(Endocrine/hyperparathyroidism):内分泌(副甲状腺機能亢進症
D(Diarhea):下痢
C(Carbonic anhydrase inhibitor):炭酸脱水素酵素阻害剤
A(Ammonium chloride):塩化アンモニウム
R(Renal tubular acidosis):腎尿細管アシドーシス
S(Spironolactone):スピロノラクトン 

 

AGが低下の場合
=低アニオンギャップ性アシドーシス</p>

 

<原因として考えられること>
・多くは検査上のエラー!
・低アルブミン
・リチウム中毒 など

 

☆こちらはHAMBLと言われています
HA(Hypo Alubuminemia):低アルブミン血症
M(Myeloma):骨髄腫
B(Bromide):臭化物中毒
L(Lithium):リチウム中毒

 

Step5.補正HCO3-をみる  

高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスの場合に、更なるアシドーシスやアルカローシスの存在を補正HCO3-の値でチェックします。
本来AGが増えた分HCO3-は減っているはずなので、これらの異常がなければHCO3-にAGを足すと正常値になるはずです。

 

【補正HCO3-の計算式】

 HCO3-=HCO3-+ΔAG
 
(正常値:24±4)

 

正常値よりも5以上高い場合
混合性アルカローシス合併が疑われる

 

正常値よりも5以上低い場合
混合性アシドーシスの合併が疑われる

 

さらに血漿浸透圧ギャップを計算するなどのステップもありますが、臨床上ではさほど必要となって来ないと思うので以上で、血ガスの「酸塩基平衡」を読むステップは終了とします。
データのみではなく、必ず臨床での状態にも目を向けてみていくようにしましょう。

3)さいごに血ガス採取の注意点

・採取時に混入したエアはすぐに抜き、空気に触れないようキャップをします。
→混入したエアにより約2分でPaO2、3分でPaCO2データに影響があると言われています。

エア抜き後、ヘパリン混和のためシリンジを転倒混和とキリを回すように混和させ、速やかに測定します。

測定まで20分以上経過すると、PaO2が低下してしまうため採取タイミングと、採取後置きっぱなしとならないよう検体の取り扱いに注意します。

・血ガス採取時は、モニターだけではなく実測の呼吸数にも注意し、呼吸状態や症状の観察を行います。

 

これで2回にわたってとり上げた「血ガスの読み方」については一旦、おしまいになります。

血ガス第1回の「呼吸を知る」編はこちらからもどうぞ。

 

www.logicalnurse.com 

血ガスについては、ナースではそこまで必要ないと思われる方もいるかもしれませんが、状態と合わせたデータの変化や異常は「いち早く誰かが気付けばいい」ことなのです。頭の片隅にでも気づくきっかけが残って、気づける誰かが1人でも増えればいいなと思います。

 

それでは、また次回。 

おとーふでした。