血液ガス分析のよみ方⑴血ガスで分かること・呼吸状態を知る3ステップ〜臨床ですぐに使える考え方〜
2018/3/11
本日は「血液ガス分析:BGA(Blood Gas Analysis)」についてです。臨床では、「動脈血液ガス分析:ABG(Arterial Blood Gas Analysis)」と記されることも多く、呼び方は概ね省略形で「血(けつ)ガス」と呼ばれます。
ERやICUなどの集中治療、手術室などでは目にする機会も多いのではないでしょうか。ナースの中でも人工呼吸器やPCPSなどの機械類と並んで、苦手意識の高いものの1つに入るのではないかなと思います。研修医や医師でもムズカシイなんて声もちらほら聞こえます。
血液ガス分析は、1回にまとめるとかなり駆け足になってしまいますので、2回にわたって書いて行こうと思います。
簡単に読むステップだけ書いても良いのですが、「ロジカルに理解してもらう」がこのブログのテーマでもありますので、ご理解いただければと思います。一度きちんと向き合えば、「今まで何をみていたんだろう」と実感できる項目でもありますので、じっくりやっていきましょう。
血ガス第一回は、「呼吸を知る」編になります。下記血ガスで分かることの①ですね。
血ガスの読み方・考え方
まず、血ガスを採る大前提の「何を知るために測定したのか。」という目的についてです。裏を返せば「血ガスで何が分かるのか。」を知っていれば、それが目的になります。
1)血ガスで分かること
①呼吸の状態を知る
②体内の酸塩基平衡の状態を知る
以上の2つです。血ガスを読んでいく際には、この「呼吸」と「酸塩基平衡」2点を分けて考えていきます。この「分けて考える」が血ガスを読み解く大事なポイントです。
初療や急変時に血ガスを測定する場合には①②の両方をみて原因検索していくことが多く、ある程度診断がついていて原因がわかっている場合は①を酸素化の指標として使ったり、②だけを追跡していくなど着目する血ガスの項目は、目的により違ってきます。
▽▼▽🔰血ガス初心者さまへ🔰
おそらく、血ガスについて「なんとなく」なイメージしかない人は「酸塩基平衡」の呼吸性アルカローシスや、代謝性アシドーシスなどの分類のイメージでつまづいていると思います。また、「血ガス=呼吸性アシドーシス!」みたいな1つの答えが出ると思っているナースも多いのですが、「1つだけではなく2つや3つ酸塩基平衡異常が併存する」ことも多々あることを認識しておいてください。酸塩基平衡異常とは、酸性かアルカリ性かに傾くことです。
酸塩基平衡異常の併存というのは例えば…
血ガスデータから読める結果が「呼吸性アルカローシス+AG開大型代謝性アシドーシス+AG非開大型代謝性アルカローシス」みたいなことです。
答えが1つと思っていた人には「え!?なにそれ?」な衝撃の事実ですよね(笑)。答えが1つという思い込みは、酸塩基を読み進める上では混乱しか招きませんので、あらかじめ「思い込み」をポイっと捨てておいてもらうと理解しやすいと思います。
△▲△
では、それが分かるとどうなの?
この「呼吸」と「酸塩基平衡」が分かると、現状起こっていることの原因がある程度しぼれてくるため、医師は鑑別診断を行うために血ガスの検査オーダーを出します。看護師は疾患の診断は行いませんが、血ガスを理解すれば状態の変化にいち早く気付け、患者状態を把握した上で治療の意味がわかり、原因となることを予測しながら観察の強化が行えたり、より早期に対応できるようになります。
血ガス項目「鍵」となるのはこの4つ
※カッコ()内は正常値です。
✔︎pH(7.35~7.45)
✔︎PaCO2(35~45)
✔︎PaO2(80~100)
✔︎HCO3-(21~28)
これ以外にも血ガスの機械はとても優秀なのでSaO2、ctHb、COHb、Hct、Glu、Cre、BEやAG、電解質(Na+,K+,Cl-,Ca2+)、Lacなんかも測定して結果を出してくれます。パラメーターについては、使用測定器によって異なります。
酸素と結合しているヘモグロビンの割合を示すSaO2も酸素化の指標として、とても大切なのですがSaO2はPaO2に規定されるので、ここではPaO2を主軸に話を進めます。
どの様な関わりがあるかは、以前に「酸素化の評価と合併症」でもとりあげていますので、よろしければ過去記事↓参考にしてください。
2)「呼吸」の状態は3stepで血ガスを読む
「呼吸」を知る上でみる血ガス項目は以下2つです。
①PaCO2
②PaO2
Step1. まずPa02をみる。
《正常値80~100Torr、60Torr以下:呼吸不全》
・PaO2低下↓
→低酸素血症✔️これが問題→Step2へ
・PaO2上昇↑
→過度に高い場合は、酸素投与が過剰なためコントロール
Step2. 次にPaCO2をみる。
《正常値:35〜45Torr》
・PaCO2の上昇がない(<45Torr)
→酸素化障害(Ⅰ型呼吸不全)→Step3-①へ
・PaCO2上昇↑(>45Torr)
→換気障害(Ⅱ型呼吸不全)→Step3−②へ
Step3-①.酸素投与への反応をみる。
※酸素投与は医師の指示範囲内で行いましょう。
・酸素投与に反応がある場合
→肺に問題がある
・酸素投与に反応がない場合
→シャントの存在
Step3-②.A-aDO2を計算し、上昇の有無をみる。
・A-aDO2が正常の場合
→肺胞低換気=肺以外に問題がある(中枢性、神経・筋疾患、胸郭異常など)
・A-aDO2の開大がある場合
→換気障害=肺に問題がある (心内右左シャント含む)
キーワードは「呼吸商」と「肺胞内酸素分圧」
A-aDO2を計算する上で、この2つが必要になります。
【A-aDO2(=肺胞気動脈血酸素分圧差)】=PAO2-PaO2
正常値:10mmHg以下(高齢者「年齢×0.3以下」が正常値)
☆A-aDO2が正常値よりも上昇している場合を「開大がある」と表します。
【PAO2肺胞内酸素分圧】※吸入酸素濃度が違えば、値が変わります
PAO2=(大気圧–水蒸気圧)×酸素濃度−PaCO2/0.8
→酸素濃度を室内気21%(0.21)とした場合
アンダーライン部分を計算すると(760−47)×0.21=150mmHg
【呼吸商】R=0.8
肺胞内の10個のO2に対して、血管内の8個のCO2を交換するので10分の8が呼吸商になります。
以上が、血ガスから「呼吸状態を知る」編になります。あくまでもデータはデータなので、実際の患者さんの状態や症状・既往疾患なども加味してみていきましょう。
次回は、血ガス第二回「酸塩基平衡」の読み方です。血ガス苦手アレルギーの方は、いよいよ本番です(笑)この機会に覚えてしまいましょ〜。
それでは。
おとーふ。
↓血ガス第二回はコチラ↓
体位変換看護【体位管理のアセスメント・目的・適応・注意点と合併症・こんな時はこの体位】-お困りナースへおくる先輩ノートNo.2-
2018/3/2
「お困りナースへおくる先輩ノート」第2回は、「体位変換」についてです。体位変換をやったことがないというナースはほぼいないのでは?と言えるほど、必ず日常で行う看護になりますね。とはいえ、搬送件数の多いERなどではしたことがないというナースもいるかもしれません。「体位変換するほど長い時間患者さんがステイしてない。」「状態が悪く体位変換しているどころではない。」などの理由でしょうか、実はおとーふもERではそうでした。
しかしながら、病棟やERでも救命病棟などある程度の入院環境となると、必ずと言っていいほど「体位変換」はつきものですね。ゆえに、「ルーチン化」しやすいことも事実です。
また、ICUやCCU・SCUなどの重症管理や急性期における体位管理は「状態をも左右する」とても重要な看護技術となります。重症管理における場面では、体位変換してすぐに患者状態やバイタルサインが目に見えて変化し、一瞬ひやっとしたことがあるナースもいるでしょう。
少なくとも、「何のために=どんな目的で、なぜこの体位を選んだのか。」「本当に必要な体位変換であったのか」ぐらいは、パッと思い浮かぶくらいの意識しながら行えると良いですね。
「体位管理」のアセスメント
看護技術として「体位変換」は、医療器具も使用せずルーチン業務化されやすく地味なイメージかもしれませんが…実は「体位変換に秘められたポテンシャルは、けっこう高い」と言えます。ちょっとした知識とポイントをおさえれば、「ただやるだけ」ではない「より有効な看護」へと変わってきます。目に見えて状態が変わることだってあります。
経験年数問わず毎日行う看護だからこそ、ポイントを覚えて適切なアセスメントへの活かしてもらえればと思っています。
1)「体位交換」「体位変換」「ポジショニング」「体位ドレナージ」どう違う?
呼び方も「体交」だったり「体位変換」だったり「ポジショニング」だったり色々ありますが、それぞれ同じ意味を指すのでしょうか?
・体位交換
体位交換は「体交:たいこう」と省略され、現場では「タイコウするから手伝って〜」などと割と頻繁に使われる言葉です。けれど、本来「交換」という意味は「取り替えること・入れ替えること」などと定義されているため「体位を取り替える・体位を入れ替える」はニュアンスがややおかしなことになりますね。そのため、厳密な言葉の意味としては不適切とされる場合が多いです。
・体位変換
次に体位変換ですが①に準じてみていくと、「変換」とは「変えること」とされており交換と同義の「取り替えること」と定義されているものもあり、曖昧なところもあります。しかし、順当な意味合いでいくと「体位を変えること」となるのでこちらの方が、「体位交換」よりしっくりきますね。
・ポジショニング
最後によく使われるワードとしてあげられるのがポジショニングです。こちらは、ナースよりも理学療法で使われる意味合いが強いように感じる人もいるかもしれません。実際に、看護におけるポジショニングの定義は様々であるといえます。下記引用文献としてリンクを貼りましたが、こちらでも看護におけるポジショニングの意味合いが各分野でとらえ方が異なり、定義にも十分な検討が必要とされています。
結局のところ、どの呼び方が正しいの?というところですが、ここ最近の傾向としては「体位変換」もしくは「体位の調整」や「体位管理」などと表記されているようです。現場では「体交するので力を貸してください。」とか「体の向きを変えます〜。」などとスタッフ間で声かけすることが多いですね。
・体位ドレナージ
さいごに、同じように体位を変換する看護手技で体位ドレナージというものがあります。体位変換の目的は次項であげていますが、体位ドレナージの目的は「気道分泌物の誘導排出」になります。手技としては、共通部分もあるのですが混同しないようにしましょう。
2)何のために体位変換が必要なのでしょう?(目的)
今回のテーマである体位変換においては、前項で述べたように分野ごとのとらえ方により広義となってしまいます。このブログではクリティカルにおける分野での看護を主軸にしているので、体位変換についてもそれにならい以下4つの目的となります。
①苦痛の緩和・安全確保
→体位や体位変換によって起こる苦痛を最小限にし、事故リスクの少ない安全な体位の保持を常に意識します。
②循環・ガス交換の是正および合併症の予防
→換気血流比の不均衡や機能的残機量(FRC)、体位ドレナージ効果による影響を考慮していきます。
③褥瘡予防
→体位によってかかる圧による、循環不全や皮膚障害への影響を除外していきます。
④廃用症候群予防(ADLの向上、早期離床)
→安静臥床による筋力低下(1日で最大3〜4%程度低下すると言われています)や、関節拘縮、昼夜逆転・精神面での影響などを考慮し早期離床を促します。
3)なぜ体位変換が必要?
では、なぜ体位変換が必要なのでしょうか。臥床安静や不動が身体へ与える影響を理解し、それらを予防していくために有用とされているのが体位変換という看護になります。
臥床安静・不動が身体へ与える影響を知りましょう
〈筋・骨格系〉
筋力低下、筋萎縮、関節拘縮、不動化、変形性関節症、骨粗鬆症
〈循環器系〉
運動耐容能力低下、起立性低血圧、血栓、塞栓
〈呼吸器系〉
換気障害、上気道感染、沈下性肺炎
〈消化器系〉
便秘、食欲不振、体重減少
〈泌尿器系〉
尿路感染、尿路結石
〈精神・神経系〉
せん妄、抑うつ、認知機能低下、協調運動障害、神経反応性低下
〈皮膚〉
褥瘡
4)体位変換するときに注意することは?(注意点と合併症)
前項では長時間同一体位の場合をあげましたが、体位変換は短時間でも行った直後から変化が現れる場合もあります。体位以外にも以下のポイントに注意して行いましょう。
〈循環〉
血圧・脈拍数の変動、不整脈の誘発、血流障害(圧迫による虚血など)
〈呼吸〉
呼吸状態の変動(呼吸・換気・気道への障害)
〈意識レベル〉
①②による意識障害、頭蓋内圧変化
〈疼痛/苦痛〉
体位変換(可動や圧迫)に伴う疼痛・苦痛の誘発、精神面や睡眠状態
〈皮膚〉
皮膚障害の発生(損傷・刺激・圧迫・破綻など)
〈創部〉
創部離開
〈ライン類〉
ルート・呼吸器関連・ドレーン関連・補助装置関連などの屈曲・閉塞・抜去・ずれ・切断など
5)いろいろな体位
※手技や手順については、たくさんの参考書が出ていますので施設基準などとともに、各自ご覧になってください。既知の事項として、進めていきますね。
仰臥位
側臥位-完全側臥位-前傾側臥位
腹臥位
セミファーラー位-ファーラー位
座位-背面解放座位
立位
以上が臨床上病棟などでよく行われる体位になります。各体位ともに苦痛が少なく安楽であり、かつ良肢位を保持するような体位になるよう、体位変換用の枕やクッションなどで調整していきましょう。
整形外科などでは、禁止体位や肢位固定枕などを使用する場合もあります。また、手術室などでの術中体位も固定器具の使用や、術式に応じた特殊な体位となってきます。
6)適切な体位の考え方
ここで大切なのも、やはり「何にフォーカスをあて」「どうしたいのか」という目的になりますね。「何が問題」で「なぜその問題が起こっているのか」をアセスメントした上で成立するプランニングの1つが体位変換となるわけです。そのため、アセスメントせずにやみくもに行うだけでは、「改善が期待できない」よりもむしろもっと悪い「状態を悪化させる」という逆効果を引き起こしてしまう場合があります。十分な情報と、現状の状態、背景などを合わせ、医師・療法士など他職種と連携を取りながら行って行けると良いですね。
また、看護や医療のエビデンスについても日々更新されています。ちょっと前まで当たり前と思ってやっていたことが、真逆の方法が正しいとされるほど極端なパターンもあります。常に最新の情報を取り入れていく姿勢も大切となりますので、古い習慣にしがみつかず頭を柔らかくしておきましょう(笑)。
こんな時はどんな体位がいい?
✔︎循環の安定を最優先したい
→仰臥位、局所の除圧や圧抜き、良肢位の保持で同一体位による合併症の減少をはかります。
✔︎無気肺を予防または改善したい
→無気肺のある肺野に重力がかからない(=上側に)体位にすることで、健側肺の血流が増加し、ガス交換及び酸素化の改善期待ができます。仰臥位では背側に形成しやすく、側臥位<完全側臥位<前傾側臥位<腹臥位の順に改善見込みが高くなります。背面解放がポイントです。
✔︎VAP(人工呼吸器関連肺炎)予防したい
→ファーラー位〜セミファーラー位、頭部挙上30~45度でVAPリスクが減少
✔︎換気量を増やしたい
→重力による横隔膜の位置で臥位<座位<立位の順で換気量は増えます。臥位でもフラットな仰臥位<セミファーラー位<ファーラー位の順で換気量が増加しやすくなります。
✔︎腹圧をかけたくない
→臥位<セミファーラー位<ファーラー位<座位の順で、体制が起きるほど横隔膜が下がり胸郭が広がる分、腹腔スペースは狭くなるのでかかる圧も高くなります。
✔︎ICP亢進時
→15〜30度頭高位のセミファーラー位を保持します。これにより静脈灌流を亢進し、頭蓋内圧を低下させます。ただし、頚部の屈曲は静脈灌流を阻害しICPを上昇させるため注意!
✔︎局所的に胸水が溜まっており酸素化を良くしたい
→無気肺と同様、健側肺を下にした体位にします。健側肺に血流が増加し、換気効率が上がり酸素化の改善が見込めます。
✔︎肺塞栓がありガス交換を良くしたい
→健側肺を上にした体位をとります。血流障害のない肺に空気を入れることで、ガス交換の改善が見込めます。
✔︎ショック状態・急激な血圧低下で血圧を上げたい
→仰臥位
⚠️ショックや血圧低下といえば下肢挙上!?
ショック体位などと呼ばれる下肢挙上においては、エビデンスが確立されておらず医師により見解が異なるなど、賛否両論あります。静脈灌流が増加することから血圧の上昇の可能性を示していますが、ごく短時間(7分以内)とされ効果については曖昧です。ショック時に体制を変えるリスクよりも、循環変動の少ない仰臥位が推奨されています。加えて、心原性ショックや腹腔内圧・頭蓋内圧上昇時などは下肢挙上により増悪する恐れがあり、行わない方がベターであるといえます。とはいえ、急変時などは瞬時に判断しなければなりませんので、日頃から施設基準でのファーストエイドや医師へ確認しておくと良いでしょう。
「普段の体位変換時も」
ショック体位だけでなく頭部挙上の際は起立性低血圧や血流のうっ滞を防ぐため、鼠径部や腹部を圧迫しない程度に、下肢の挙上も適宜行いましょう。
体位ドレナージの禁忌は体位変換も禁忌?
ドレナージ前の血胸・気管出血・気管と交通のある膿胸 →体位ドレナージは禁忌とされているため、体位変換も注意が必要となります。側臥位などにより、健側肺へ血液や膿が流れ込み肺障害・感染を増悪させるためです。
以上、主だった例を挙げてみましたがこれらはメリットだけでなく、デメリットを併せもつことも知っておいてください。
例えば…換気量をとれば血流は低下しますし、逆に血流をとれば換気量は低下しやすいといえます。VAP予防のため頭部挙上をすれば、血圧が下がったりと循環変動が出やすく、仙骨部の褥瘡できやすくなります。
腹臥位なども、無気肺などには効果的ですが、循環変動や酸素消費量の増大、マンパワーが必要、ルートトラブルのリスクが上がります。
このように、一長一短であり実際は疾患や病態が合併していることが多く、必ずしもこの体位と言い切れるものはありません。患者さんの病態や状態、マンパワーや環境などに合わせて、何が優先事項か考え、一番デメリットを許容できる安全な看護を行なっていけると良い効果が出てくると思います。そして、時には行うことばかりではなくリスクが大きいのであれば「その体位は行わない」や「今の状態での体位変換は不要」という選択をすることも大切になります。
以上で、体位変換についてはおしまいです。今回は概要の要素が強くなりましたが、掘り下げれば目的①〜④の各項目で1記事となるほど奥深いです。毎日行う体位変換ですので、日常の看護の少しでもプラスになればと思っています。
おとーふ。
酸素療法と看護⑶酸素化の指標【P/F比・A-aDO2・OI・ Qs/Qt 】
2018/2/22
⑶酸素化の指標あれこれ
こんばんは、前回は酸素化の評価について取り上げました。酸素療法の基礎については前回で終わりにしようと思っていたのですが、臨床でよく使用される酸素化の指標についてを後回しにしたら・・うっかり忘れました。(笑)
ということで、今回は「酸素化の指標」についてです。
ベッドサイドですぐに使えるものから、やや計算式が覚えづらいものまでいくつかあります。
なぜいろんな指標があるの?
酸素濃度の影響を受けるので、一概に「これならどんな場合でも酸素化の指標となる!」と言い切れるものがありません。
そのため、計算が簡易で一般的によく使われるのはP/F比、 高二酸化炭素血症や低酸素血症の鑑別ではA-aDO2、 陽圧人工換気では酸素化指数などというように、状況に応じて使い分けされています。
実際にどんな酸素化の指標があるの?
臨床でよく使われるものからピックアップしていきます。有効な指標であっても計算式が難しくなるにつれ、使用される頻度が減っているのが現場での実感です。計算式を覚えていなくても、こういう指標があるということを記憶にひっかけておきましょう。
医師が鑑別診断時の目安として用いることも多いです。
P/F比:P/Fratio(酸素化係数)
酸素濃度の条件を一定にそろえて酸素化をみることができます。しかし、酸素化のみのガス交換の指標になります。
【計算式】
P/Fratio=PaO2/FIO2
【正常値】
正常値 400以上
軽症ARDS 300以下(ALI:急性肺障害)
酸素化障害 250以下
中等症ARDS 200以下(ARDS:急性呼吸促迫症候群)
重症ARDS 100以下
・計算式を組み替えれば、目標PaO2にするために必要な酸素濃度も知ることができますね。
A-aDO2(肺胞気動脈血酸素分圧較差)
読んで字のごとく、肺胞気酸素分圧と動脈血酸素分圧の差を表しています。
低酸素血症の鑑別ができます。肺胞低換気によるものか、肺に要因のある拡散障害・シャント・換気血流比不均等などのガス交換によるのかなど原因を鑑別します。
【計算式】
A-aDO2(mmHg) = PAO2-PaO2 = (150-PaCO2/0.8)-PaCO2
PAO2 =(760-47)× 0.21- PaCO2/0.8
【正常値】
5〜15mmHg
【A-aDO2開大の有無】
・A-aDO2が開大していない正常の場合=低酸素血症の原因は肺胞低換気(肺以外)
・A-aDO2が開大している場合=拡散障害・換気血流比不均衡・シャント
【注意点】
・酸素投与によりA-aDO2が上昇してしまうため、原則として室内気(21%)の酸素を吸っている時に測定します。
OI:Oxygen-index(酸素化指数)
陽圧人口換気中酸素濃度と平均気道内圧を加味した酸素化の指標。
酸素化がどのくらい障害されているか、治療が効いているかの指標になります。
【計算式】
(陽圧人口換気中の)平均気道内圧(MAP)×FIO2/PaO2
MAP=PEEP+(PIP-PEEP)×Ti×RR/60
→重症なほど高値となります、陽圧管理の小児によく使用されます。
Qs/Qt(シャント率)
全肺血流のうち酸素を取り込まない血流(シャント血流)のパーセンテージです。
【正常値】
3~5%(解剖学的シャント)
【計算式】引用:日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 15 No. 1
QS / Qt =(Cc’O2 - CaO2)/(Cc’O2 - Cv— O2)
QS:シャント血流量,
Qt:全肺血流量
Cc’O2:肺胞終末毛細管血 O2 含量
CaO2:動脈血 O2 含量
Cv— O2:混合静脈血 O2 含量
以上が臨床でよく使う、もしくは耳にするであろう酸素化の指標についてまとめてみました。
酸素療法と看護はこの⑶にて終わりとします。血液ガスや人工呼吸器など関連項目で見覚えのあるワードとして、また出てくると思います。
それでは、この辺で。
おとーふでした。
酸素療法と看護⑵酸素化と酸素合併症【酸素化とは・PaO2/SaO2/Hb/CaO2・評価の仕方】
2018/2/13
前回の酸素療法⑴では、日常の酸素療法を行う上で必ず知っておいてほしい基礎知識について書いていきました。
それをふまえて、安全に酸素投与が開始できた・・・と仮定して。
で、その後どうするの?ってところを今回はみていきたいと思います。
酸素投与でSpO2などの数値や呼吸状態が改善したのち、ずっと同じ流量の酸素を評価もせずに投与し続けていたり。酸素は特効薬や魔法のアイテムではないので…不要な酸素投与を続けたことによって、合併症を起こすケースもあります。
そんな時に、絶対におさえておくべきポイントを一緒に整理していきましょう。
酸素化の評価をする上で知っておくべきこと
ここからは、血液ガスについても片足を踏み入れる形でお話していきます。
病棟のナースは血液ガスのデータを目にする機会は少ないかもしれません。ERやICUのナースは日常的に目にすることと思います。
いずれ、血液ガスについても取り上げていきますが、今回は酸素化にフォーカスして関連項目を見ていきます。
1)そもそも酸素化ってどういうこと?
酸素が血液に取り込まれることを酸素化と言います。
肺から取り込まれた酸素は、肺の毛細血管でヘモグロビンと結合し、抹消組織の毛細血管で酸素を放出します。
動脈血中の酸素に関係する指標が、PaO2とSaO2になります。
PaO2とSaO2ってなに?
<PaO2>
動脈血中の酸素分圧=1気圧(760Torr)下に動脈血の中にある酸素の分圧
【正常値】100−(年齢×0.3)Torr→成人の場合:約80~100Torr
<SaO2>
動脈血の酸素飽和度=総ヘモグロビン中の酸素と結合しているヘモグロビンの割合(SaO2は、臨床上SpO2※経皮的酸素飽和度とほぼ等しい)
【正常値】96±2%
PaO2とSaO2の関係性は?(酸素解離曲線)
SaO2は酸素の供給量を表していて、PaO2の圧力によって供給量が決まってきます(=SaO2によってPaO2の値が決められている)。
SaO2とPaO2の関係を示しているのが酸素解離曲線(下図参照)になります。
【代償反応】
生体恒常性で代償が働くと、酸素消費に合わせて酸素解離曲線がシフトします。
<右方偏移>組織への酸素供給を優先
→PaO2が高くてもHbから酸素が離れやすい
例:アシドーシスや発熱時、低酸素血症
- pH低値
- PaCO2高値
- 高体温
- 2,3-DPG高値
<左方偏移>血中酸素飽和度の上昇を優先
→PaO2が低くてもHbに結合しやすい
例:アルカローシス
- pH高値
- PaCO2低値
- 低体温
- 2,3-DPG低値
【SpO2100%での管理は要注意です!】
酸素投与により分圧が増加するためPaO2は100を超えても200、300と上昇していきますが、SaO2100%=酸素が結合できるヘモグロビンは飽和状態であることを示し、100%が上限です。
ですから、血液ガスを採取しなければ分からないPaO2の上昇や低下に気付きにくく、高濃度酸素による合併症のリスクが高まります。
SaO2(SpO2)98%程度を上限にした管理を行うと呼吸状態や酸素化の変化に気付きやすくなります。
2)意外と忘れられがちHbとCaO2も酸素化の押さえどころ
- Hb=ヘモグロビン
- CaO2=酸素含有量
CaO2は酸素がどのくらい含まれているかを表します。SpO2が100%の場合でも、貧血がありましたらHbが半分ならばCaO2も半分になります。
< PaO2もSaO2も良いのに呼吸状態が悪いまま!なぜでしょう?>
この場合、呼吸困難感が続いているからと大量の酸素投与を行いPaO2を上昇させても、酸素の運搬役であるヘモグロビンの総量が少なないので、呼吸状態は良くなりません。
Hbが半分ならば酸素の運び屋も通常の半分だということです。そのため、酸素を組織へ届けられる量も半分になるということです。
…そうなると、酸素の欠乏したカラダは循環する血液量自体を増やして、ヘモグロビンの少なさを補おうと「頻脈」になります。血液に十分な酸素が含まれていないことが原因です。
<そんなときに役立つ指標がCaO2>
ヘモグロビン濃度から酸素含有量を計算します。
CaO2=Hb×1.34×SaO2÷100+0.003×PaO2
正常値:16〜20mg/dL
→値が低ければ、酸素化が不十分となります。
< CaO2が低値ならば…>
上記で酸素化が不十分と書きましたが、酸素増やしてPaO2を上げても、 CaO2は上がりませんし、呼吸状態は変わらないとも言いましたね。
そんな時に行うべきは…輸血で貧血を是正することです。
3)実際、酸素化の評価はどうみる?
PaO2、SaO2、Hbと CaO2は前項でとりあげてきましたね。さらに、患者さんの年齢・基礎疾患・現状の病態を併せて評価していきます。
①PaO2
②SaO2
③Hb/CaO2
④年齢
PaO2の正常値は年齢によって異なります
<年齢別PaO2正常値の計算式>
仰臥位の場合:100−0.3×年齢
座位の場合:100−0.4×年齢
⑤基礎疾患
酸素療法⑴の適応でも取り上げたように、貧血、低心拍出量となる心筋梗塞や心不全、COPDなどがある場合です。
SaO2は100%としPaO2も高めに設定されることや、反対に慢性的に低値の場合は、低めに基準値を設けていきます。
⑥今起きてる現状の病態
①〜④をすべて加味した上で、最終的には呼吸状態だけでなくバイタルサインや、全身状態を含めて酸素化の程度や指標を決め、酸素投与量の評価を行っていきます。
4)酸素投与による合併症
低酸素状態では治療となり、有効な「酸素」ですがやみくもな投与や、高濃度の酸素投与により合併症を引き起こしてしまうことがあります。
✔︎酸素中毒
気管支炎やうっ血性肺水腫などの障害が生じ、咳・胸痛・呼吸困難感・四肢の知覚麻痺・嘔気・嘔吐などから、神経系の障害・全身麻痺となります。
✔︎CO2ナルコーシス
以下3条件を満たす症候群のことです。
①重症呼吸性アシドーシス
②意識障害
③自発呼吸の減弱
COPDや気管支喘息重症発作時などのⅡ型呼吸不全の場合、元々PCO2が高く、慢性的にPO2が低いことが呼吸中枢の刺激をして呼吸の維持ができています。そこへ高濃度酸素を投与することで、低酸素換気刺激がなくなり呼吸抑制がかかります。すると呼吸は減弱、換気量が保てずPCO2はさらに上昇し、意識障害を来します。
✔︎吸収性無気肺
拡散による肺胞内ガスの完全消失および、肺胞虚脱によって無気肺になります。
合併症を防ぐには?
適切にアセスメントを行い、不必要な酸素投与は行わないが原則です!ただし、必要な場合には躊躇なく酸素投与が行えることも大切です。
以上で、酸素療法の基礎については終わりです。血液ガスについては、まだほんの入り口部分です(笑) そのうち取り上げていこうと思います。
おとーふ。
酸素療法看護⑴目的・適応・方法・デバイス選び・酸素流量計の違いと酸素の加湿(※追記あり)
2018/2/8 追記:2018/2/11
酸素療法と看護⑴
今日はナースならおそらく誰もが一度はたずさわったことがあるであろう、「酸素療法」についてです。ナースにとってはかなり日常で目にする治療ですね。
「え?今さら酸素?知ってるし・・・」
「1年目のナースが勉強することでしょ。」
「大半が知らない?大半が知ってるの間違いでしょ。」
「酸素?多少多くても少なくても害ないでしょ。」
・・・なーんて思ったナースもたくさんいると思います。ところが、臨床で出会うナースの大半が正し知識のないもしくは、曖昧な知識のまま実施していることがとても多いです。
- 酸素療法と看護⑴
- 1)(目的)酸素療法をするのは何のため?
- 2)(適応)酸素療法はどんな時に必要?
- 3)(システムと種類)酸素療法にはどんな方法があるの?
- 4)(デバイスの選択)酸素投与のデバイスは何を使えばいい?
- 5)(酸素流量計について)流量計って全部同じじゃないの?
- 6)酸素の加湿って少ない投与量でも必要?(酸素投与時の加温・加湿)
なぜ多くのナースが正しく知らないのでしょう?
おそらく、「手技や操作が簡単でありどんなナースでも扱える」というところに利点の反面、最大のリスクがあるのではないかと考えています。
安直なナースは、「SpO2が下がったら酸素投与をたくさんするほどすぐに上がる」と思っています。また、そうでないナースも「酸素がリスクってCO2ナルコーシスになるからでしょ。」くらいの知識で止まっている人もいます。
もちろん、医師の指示のもと酸素投与を行う訳であって大体がSpO2/pO2〇〇〜〇〇の間でコントロール、なんて指示が出ていると思います。
けれど、当直医しか不在の夜間や緊急の場合などは、ナースの裁量に任される部分も出てきます。また、変化に一番早く気付くのも初期対応するのも24時間患者さんの側にいるナースです。
だからこそ、「知って適正な判断ができること」と「予想しうるリスクや合併症を知って、指示に沿った治療を実施すること」はとても大切になってきます。
日常だからこそ、簡単だからこそスルースキルが磨かれてしまいますが・・・それってかなり悲しいお知らせです(笑)
「24時間患者さんの側にいるナースだからこそ!知っててほしい酸素療法のホント」を、この機会に見直してもらえればなと思います。
少し前置きが長くなりました。でも熱量がアガるくらい(笑)きちんと知っておいて欲しい知識なのです。これを知らずして、「レスピが〜、PCPSが〜・・・」などと言っている場合ではありませんね。おとーふも一緒に、復習のつもりで書いていきます。
1)(目的)酸素療法をするのは何のため?
一言でいえば「組織の低酸素症改善のため」になります。
→低酸素症の治療(相対的組織低酸素症を含めた)が目的です
低酸素症に陥るということは供給される酸素の・酸素の取り込みの・酸素運搬経路・運搬された組織側のどこが欠如してもダメで、いずれかに問題があった場合にも生きていく上で「息を吸って、吐く」という無意識に行っている生命維持活動は成り立たないのです。
ようするに、そのどこかの過程に問題がある場合が対象になってきます。
例:低酸素血症、低心拍出量(心疾患)、貧血、一酸化炭素中毒、高熱、SIRS、敗血症、重症外傷、術後など
「低酸素症」と「低酸素血症」は同じではない!
低酸素血症は低酸素症の一因です。混同しないように正しく理解しましょう。
低酸素血症と低酸素症の違い 基本的な内容から始める。低酸素血症(hypoxemia) とは,動脈血中の酸素が正常より低い状態にあること である。臨床的には,PaO2 60 mmHg未満または SpO2 90%未満で低酸素血症と考えることが多いが, ここに引用する多くの論文は低酸素血症を明確に数値 で定義していない。低酸素血症は,第一に,酸素が気 道を介して肺胞へ十分に届かない状態(吸入酸素濃度 の低下,肺胞低換気),第二に,酸素が肺胞から血液へ 十分に移動できない状態(肺内シャント,換気血流不 均等の異常,拡散障害)で起こる。 低酸素血症と低酸素症は同じではない。低酸素症と は組織が酸素を十分に利用できない状態のことであ る。低酸素症は,第一に,酸素が組織へ十分に届かな い状態(低酸素血症,低心拍出量,極端な貧血,一酸化 炭素中毒など),第二に,酸素は組織へ届いているが組 織での酸素消費量が極端に多い状態(過高熱,甲状腺 クリーゼなど),第三に,酸素は組織へ十分に届いてい るが組織が酸素を利用できない状態(シアン中毒,一 酸化炭素中毒など)で起こる。低酸素症が起こるとミ トコンドリア内の酸素を必要とする好気呼吸(解糖 系・クエン酸回路・電子伝達系)は障害され,細胞が 生きるためのエネルギーを産生できない。高乳酸血症 と代謝性アシドーシスが進行し,細胞は死滅すること になる。 したがって,低酸素血症は低酸素症の一因であり, 低酸素血症は低酸素症を起こす危険性があるが,低酸 素血症があれば直ちに低酸素症となるわけではない。
J Jpn Soc Intensive Care Med 2016;23:113-6.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/23/2/23_113/_pdf
2)(適応)酸素療法はどんな時に必要?
【絶対的適応:PaO2 50Torr以下またはSpO2(SaO2)が90%以下】
【相対的適応:PaO2 60Torr以下(ルームエア)】
または中心性チアノーゼ出現などの異常兆候があるとき
【低酸素血症に関わらず、酸素投与を要する場合】
→重症外傷、術後、低心拍出量(AMI・心不全など)、敗血症性ショックなど
その他の場合でも、相対的に酸素投与が必要とされた場合には酸素療法が開始されます。基本的に判断は医師が行いますが、医師到着までの間や緊急時などはナースサイドでの評価・判断が必要となってきます。
ただし!慢性呼吸不全(COPD)の場合は、Sa0288〜92%でも許容されます。その場合は、二酸化炭素分圧(pCO2)の値も考慮します。
【呼吸不全の分類】
Ⅰ型呼吸不全:pCO2 45mmHg以下
Ⅱ型呼吸不全:pCO2 45mmHg以上
3)(システムと種類)酸素療法にはどんな方法があるの?
低流量システムと高流量システム
まず「流量」による分類として、高流量と低流量に分けられます。
これは、「1回換気量に対して酸素ガスの供給量が多いか少ないか」によって分類されます。
【低流量システム】
鼻腔カニュラ/フェイスマスク/オキシマスク/リザーバーマスク
・1回換気量が酸素投与量を上回るため、不足分は外気が充当され呼吸パターンによって外気吸入量が異なるため、酸素濃度が不安定
【高流量システム】
ベンチュリーマスク/インスピロン/ハイフローセラピー(高流量鼻カニュラ)
・1回換気量以上の混合ガスを投与できる
・患者さんの呼吸パターンに左右されず、安定した酸素濃度の供給が可能
酸素開始にあたってどちらを選べばよいでしょう?
先ほど、適応でも述べた呼吸不全がⅠ型かⅡ型かによって選択します。
Ⅰ型呼吸不全:PaCO2 45mmHg以下 →低流量システム
Ⅱ型呼吸不全:PaCO2 45mmHg以上 →高流量システム
COPDのようなⅡ型呼吸不全の場合は、高濃度の酸素投与を行うことで呼吸中枢への刺激がなくなり、呼吸抑制によりPaCO2が上昇し意識障害をきたすCO2ナルコーシスを引き起こします。そのため、一定の酸素濃度が保て高濃度酸素投与を避けることができる高流量システムを選択します。
反対にⅠ型呼吸不全の場合には、酸素濃度が一定である必要がなく、かつ高濃度酸素の投与も可能な低流量システムを選択します。
4)(デバイスの選択)酸素投与のデバイスは何を使えばいい?
デバイスの特徴は使用メーカーにより異なる部分があるため、詳細はメーカーに準ずるものとします。ここでは、各デバイスの特徴についてあげていきます。
【鼻腔カニュラ】
・0.5〜4L/分 多くても6L/分以下それ以上は不快感・刺激が強い
・口呼吸には不向き
【フェイスマスク】
・5L/分以上を推奨、それ以下だと呼気の再呼吸をしてしまう
・口呼吸、鼻呼吸両方に対応
【オキシマスク】→新しいデバイスで使用施設はまだ少ないです
・フェイスマスク型だが、塞ぐ面積が少ないため呼気の再呼吸が少ないよって、5L/分以下の流量でも使用できる
・閉塞感が少なく、開口部からマスクを外さず飲水なども可能
・装着位置のズレで酸素濃度が下がりやすい
【リザーバーカニューレ:オキシマイザー】
・少ない酸素流量で通常より高い酸素濃度の投与ができる
【リザーバーマスク】
・高濃度酸素(60%以上)の投与が可能
〈一方弁あり〉通常こちらが多いです
→呼気ガスの逆流がなし=高濃度酸素の投与
マスクの側壁とマスク〜バッグ間の3点に弁があり
(医師の指示で必要時は外して使用することもあります)
〈一方弁なし〉
→呼気ガスの逆流があり=呼気の再呼吸、高濃度酸素と二酸化炭素の投与となる
・6L/分以上にすると再呼吸しづらい
【ベンチュリーマスク】
・ダイリューター(コマと呼ばれることが多いです)の組み合わせにより、酸素濃度が設定できる
・24%〜50%の酸素濃度調節ができる
・トータルフロー表を目安に30L/分以上が推奨(使用メーカーの表を参照して下さい)
・ネブライザー用フードのあるものはネブライザー(エアゾール)使用が可能
【ネブライザーベンチュリーマスク:インスピロン】
・ベンチュリーマスクにネブライザー機能(常時加湿)が合わさったもの
・酸素濃度の調節にダイリューターの取り換えがなく、ダイヤル式であるため簡便
・気道分泌物の粘稠度の軟化が図れる
・上気道の乾燥防止
・霧状の粒子が発生するため、不快感を伴うこともある
【高流量鼻カニュラ:ハイフローセラピーやネーザルハイフローと呼ばれます】
→比較的新しい治療法で、2016年より診療点数の加算(160点)が行えるようになり使用が広がりつつあります。
・鼻カニュラでの高流量酸素投与が可能
・100%酸素を60L/分まで投与可能
・マスクでないため緊急挿管時の喉頭展開中も、酸素投与の継続が行える
・マスクに比べてストレスが少なく酸素投与が安定して行える、QOLの維持
・死腔のウォシュアウトによりCO2の再吸収を防ぐ(換気補助)
・PEEP効果(平均気道内圧1〜3cmH2O増加、開閉口/性別により変動)と肺胞リクルートメントがねらえるが、一定でない
・加温、加湿効果による気道クリアランスの維持と無気肺予防
・適応、禁忌があるため使用に注意が必要
・中央配管タイプと酸素ボンベのみで使用する、ベンチュリー(外気取り込み)タイプがある(中央配管タイプは酸素、圧縮空気が必要なため移動中の使用ができない)
・現在、保険適応がない
【※2018/2/11追記しました】
5)(酸素流量計について)流量計って全部同じじゃないの?
流量計についての記事をすっかり忘れていたので、追記しました。
酸素の流量計についても「全部同じでしょ?なにが違うの?」というナースや、実際に使い分けができていないことも多々目にします。ときどき、そんなナース達にため息をつきながら(笑)静かに交換していくMEの姿も目撃します。一番利用頻度が高いのはナースだと思いますので、MEに迷惑をかけずできることは自分たちで(笑)。
何よりも事故や破損のないよう使い分けができるようにしていきましょうね。分類ですが、「供給圧」によるものと「見た目」の違いで2パターンに分けていきます。
【供給圧による分類】フロート式で「大気圧式」か「恒圧式」かに分けられます。
①「大気圧式」=大気圧で酸素を送り出す
・流量計内部の圧力が大気圧(1気圧/0.1MPa…メガパスカル)とされている
・恒圧式に比べ酸素を送り出す力が弱い
→⭕️低流量システムで使用可能 ❌高流量システムはダメ
大気圧式で高流量システムを使用した場合、流量抵抗がかかるため設定量より多く酸素が流れてしまうリスクがあります。
②「恒圧式」=配管圧(中央配管からの圧)で酸素を送り出す
・流量計内部に大気圧の約4倍の強力な圧がかかっている!
→破損したら恐ろしい事故につながることが想定できますね。
・⭕️高流量システム、低流量システム両方に使用できる
強力な圧のため流量抵抗がかかる高流量システムでも、正確な流量を送り出せます
→高流量システム使用時は必ず恒圧式流量計を選びましょう
ただし…恒圧式は配管出口が塞がれていないため、流量計内に常に配管圧力がかかった状態となります。使用しない時には破損の原因となるため、中央配管から外しておく必要があります。
①「大気圧式」と②「恒圧式」実際どう見分ける?
パッとみ流量計の見た目はほとんど同じです(笑)急いでいる時なんて、ホント同じにしか見えません。しかし!「恒圧式」は流量計の目盛りとなりの「FLOW METER」の横に「0.4MPa」とさりげなく書いてあります。(本当にさりげなく、え?これ?って感じです…笑)先ほど説明した、大気圧(1気圧0.1MPaの4倍の0.4MPa)ってやつです。
あとは配管に接続した時に構造上からの違いで下記の特徴があります。
「大気圧式」→フロート(流量計内の浮く玉)が全く動かない
「恒圧式」→フロートが一瞬ふわっと浮き上がる
【見た目による分類】
前項の供給圧による分類はフロート式でしたが、見た目によってフロート以外にもダイヤル式があります。
①フロート式
・フロート式は、調節ツマミの先端スピンドルの位置によって供給圧が異なります。
②ダイヤル式(高圧式・低圧式がある)
・ダイヤル式は流量目盛りのハンドルの後ろにオリフィス板という、流量に応じた穴のあいた板(レンコンみたいな…笑)があり、その穴の大きさが変わることで流量制御をしています。
・フロート式と比べ、トータルフローが少ないため呼吸状態の変動が著しい人や、シビアな呼吸管理をしている場合には注意が必要ですし、その場合にはフロート式を使った方が無難かと思います。
他にも、低流量タイプと呼ばれる0.1L/minで調整のできるものもあります。
流量計の見分け方など少し面倒にも感ることもあると思いますが、慣れれば一瞬で見分けがつきます。後から起こりうる恐ろしいリスクを考えれば「いっ時の確認」で防げますので、確実に使い分けのできるようにしていきましょうね。
【※ここまでが追記記事となります】
6)酸素の加湿って少ない投与量でも必要?(酸素投与時の加温・加湿)
低流量システム:鼻腔カニュラ→3L/分までは不要
高流量システム→酸素濃度40%までは不要
上記以外は、加湿を行なった方が良いと思います。また、気管切開の場合も生理的加湿機能がないため必ず加湿しましょう。
盲目的に加湿を行わず、患者さんの全身状態や水分バランスも考慮して調整していきましょう。また、過度の加湿による回路内の結露や結露による閉塞、感染リスクなども考慮します。
患者さんの顔にも付着し不快感へもつながります。インスピロンなど霧状の粒子による結露も含め、適宜顔の清拭やマスク・カニュラの結露の拭き取りも行なっていくと良いですね。
いかがでしたでしょうか?
「そこは知らなかった〜」なんて思う部分もあったでしょうか?少し長くなってきましたので、本日の酸素療法はここまでとします。酸素療法⑵では、酸素療法時の看護を中心に書いていこうと考えています。
それでは〜
おとーふ。
バルーンカテーテル蒸留水を使う理由は?-お困りナースへ送る先輩ノートNo.1-
2018/02/02
先輩ノート第1回は、
「バルーンカテーテル蒸留水を使う理由は?」
という先輩からのツッコミ&あるある質問だと思います(笑)1年目のナースや学生さんあたりによく出題されるのではないでしょうか?
ツッコミと言えどこれはバルーンカテーテルを扱う以上、知っていて欲しいポイントでもあり知っていなければならない知識です。
今日はこの質問に加えて、バルーンカテーテルの豆知識を色々とお伝えしていければと思います。
バルーンを膨らますのはなぜ生理食塩水や水道水ではダメで、蒸留水なのでしょう?
回答:生理食塩水の場合、塩分が析出し結晶化してしまいバルーンを膨らます注入経路を塞いでしまい、抜く時にバルーンから注入した生理食塩水を回収できなくなる恐れがあるため(バルーンをしぼんだ状態に戻せないため抜けなくなり、さらなる処置が必要になってしまいます。)です。そのため、塩分などの含まれていない滅菌蒸留水が選択されます。
キットなどでは、もともと滅菌蒸留水入りのシリンジが準備されています。
水道水も塩素が含まれているため、同様の理由になります。
バルーンが膨らんだまま抜けなくなったらどうするの?
では、誰かがうっかり先ほどの蒸留水ではなく生理食塩水や水道水で膨らましていた場合など、バルーニング様の蒸留水が回収できなくなった場合について。
回答:稀に強い陰圧で閉塞してしまった場合は、2ml以内程度の少量の蒸留水を追加しポンピングすることで陰圧による閉塞が解除されます。
ポイントとしては、よくやっているナースも見かけますが「シリンジで吸引して蒸留水を引く」がNGです。自然に押し出されてくるので、それに従ってゆっくり引きましょう。
《それでもダメな場合》・・・ここからは、まず医師へ報告しナースが行えるのは下記1・2もしくは3番程度までだと思います。膀胱や尿道損傷のリスクも上がるため、医師や泌尿器科専門医が行う処置になります。(簡易化してありますが、詳細は使用メーカーの取扱説明書を参考にされると良いと思います。)
1.インフレーションファネルをカット
2.シャフトの切断
3.インフレーションルーメンへ直接アプローチ
4.インフレーションルーメンへ鋼線を差し込みバルーンを膀胱内で破裂させる
5.バルーンを100~200mlを体温程度に温め、注入し針をインフレーションルーメンへ差し込み大量の水や鉱物油で破裂させ、膀胱洗浄をする
6.透視下またはエコー下での膀胱穿刺を行いバルーンを破裂させる
このように、閉塞理由は様々かもしれませんが、蒸留水と生理食塩水を間違えるといったうっかりミスで、患者さんの体に「侵襲的処置が必要となる一大事」を招きかねません。こうなりうることを知っていれば、危機感をもて日常的な処置へも十分に配慮を行えると思います。
参考元:株式会社メディコン バードバイオキャスフォーリーカテーテルhttp://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/780045/780045_20400BZY00541A01_B_01_02.pdf
バルーンカテーテル豆知識
尿道留置カテーテルのフレンチ(Fr)ってなぁに?
回答:1フレンチ(Frは)3分の1ミリ(mm)です。
例えば、バルーンカテーテルでよく使用される成人サイズの14〜16Frは3分の1にしたものが㎜にあたるので、カテーテルの外径が約4.7〜5.3㎜ということになります。
バルーンカテーテル以外にもこんなものはどうでしょうか?
✔️挿管チューブ→〇〇mm
✔️経鼻エアウェイ→〇〇mm
✔️吸引チューブ→〇〇Fr
✔️トロッカーカテーテル→〇〇Fr
✔️NGチューブ(経鼻胃管)→〇〇Fr
✔️ブラッドアクセスカテーテル→〇〇Fr
と、ミリで綺麗に表示できない5.3ミリなど中途半端なサイズはフレンチで表示されていることが多いですね。
挿管チューブは〇〇Frと間違えて覚えて記録している人をよく見かけます。7.0Frの挿管チューブなんてことになったら、径1.3mm程度という・・・ものすごい細い挿管チューブ!もはや挿管できないレベルになります(笑)
迷った時は、mmに直してみておかしなサイズは大体Frになります。正確な使い分けができると良いですね。
バルーンカテーテル、フォーリーカテーテル、ネラトンカテーテルなど何が違うの?
施設によって「バルーン」や「フォーリー」など呼び方が様々ありますね。
回答:フォーリー(forley)カテーテル というのはいわゆるバルーンがついたカテーテルでバルーンカテーテルと同じものになります。
ネラトンカテーテルは、バルーンがついていない一時的な導尿などに使用するカテーテルになります。
他にも・・・材質によってゴム素材のラテックス製やシリコン製などがあります。
また、使用用途によって2wayや3wayなどがあります。
〈2way〉尿の排出を目的としたよく見かけるタイプです。
〈3way〉膀胱の持続洗浄をしたい場合や、泌尿器科の前立腺や膀胱の術後、TUR術後などによく用いられます。先端に洗浄液の流入口と排液の流出口があります。
目的に応じて、適切なサイズとタイプを選択しましょう。バルーンカテーテル留置は医師が行う施設もありますので、よく確認してから行ってください。
本当にバルーンカテーテルが必要?
バルーンカテーテルの留置は、患者さん側から考えると侵襲や違和感のある処置であったり、見た目にもバルーンバッグをつけて歩くことに抵抗がある方もいると思います。医療者側からみると、水分バランスや輸液の管理を行う上で尿量の測定が正確に行えたり、尿失禁がないためオムツ交換が簡易であったりと利点も多いように思えますね。
しかしながら、1週間〜10日程度の留置で約半数が尿路感染症を引き起こすと言われています。知識の浅いナースは、「べつに尿路感染症なんて大したことないでしょ。」って思った人もいるのではないかと思いますが・・・。生命予後不良と言われる「敗血症」の原因の感染である20〜30%は尿路感染症とも言われています。
感染してしまった場合には、感染兆候に早く気づき早期対応することが求められますが、「不要な感染を起こさない」ことがまず大切です。
そのため・・・
✔️本当にバルーン留置が必要な目的があるのかを考える(安易に失禁管理のためなどはNG)
✔️必要な場合であっても、できるだけ短期間の留置と使用期間を短くする
✔️たとえ術後であってもルーチン使用は望ましくない
現在は、「なるべく不要なものは留置しない」が基本の考え方になります。いまいちど、必要性を考えてみても良いかもしれないですね。
以上になります。いかがでしたか?
普段、バルーンカテーテルはナースにとって日常茶飯事とも言える処置であり、急性期だけでなく慢性期や療養・在宅などでも使用されていることも多いと思います。
どの処置も同様ですが、物品の特性・体への侵襲・機能のメリットデメリット・トラブルシューティングなどよく理解していくと、知らないナースとは段違いの看護ができるナースになっていくと思います。
今日のパイセンノートはこれでおしまいです。
おとーふでした。
お困りナースへおくる先輩ノート。(初回)
2018/1/29
今日は、新しいカテゴリーを設けました。
「お困りナースへおくる先輩ノート。」
をシリーズ化していこうと思っています。
まさにタイトルのままなのですが、端的に言えば「ナースのためのあんちょこノート」みたいなものを作ろうと思っています。
カテゴライズした理由
臨床現場に出ると、色々と学校で習った、参考書に書いてあったこととは異なった疑問や現実にぶつかります。少し調べれば簡単に解決することもありますが、答えがわかっても理由がわからなければその場しのぎとなることも少なくありません。
また、臨床にずっといるからこそ知ってる「先輩達の質問あるある」笑。
なぜ?どうして?の着眼点、そこを知っておけば後々楽に仕事ができるヒントなども交えて書いていきます。
「そこが知りたかった!」に最短でたどり着き、なおかつ「知識の結びつけ」ができる思考過程を養ってもらえればと思ったからです。
ナースのお仕事では「根拠は?」「理由は?」と根拠責めにあうことが多いと思いますが、何年経ってもやっぱりそこって大切なんです。知っているのと知らないとじゃ動き方も提供できる看護の質も全く変わってきます。また、知っていることで他の事例でも迷いなく選択できたり、「あ、これもあれと同じか。」と知識の結びつけができることで整然と論理的に思考がまとまっていきます。
たくさんの疑問に、たくさんの質問で掘り下げ、納得してこそ自分で応用ができる知識・技術・経験へと化けていきます。
教えてもらう人や環境で左右されることもあると思いますが、与えられるもののせいにせず培うこともできることが「山ほどある」ことに気づいて欲しい・・・そんな願いを込めて書き溜めていこうと考えています。
たとえばこんな場面で使ってもらえたら・・・
・臨床現場で疑問に感じたとき
・参考書やインターネットで探したけれど答えが見つからないとき
(まぁ大体は探し方が足りないのですが・・笑、そこは目をつぶります。)
・今すぐ答えを知りたい!
・先輩に質問されたけど、理由がわからない・・・明日までに調べないと
・そういうものだと思ってやっていたけど、聞かれてみたら実は知らないかも
・タイトル通り困った時、ヒントが欲しい時
など
ようするに
ヒントだったり、「ここ重要!」みたいなポイントだったり、赤線が引いてあったり生きた情報が詰まった『先輩がつくったノート』を貸し出しているような感じになればいいかなと思っています。
このブログ自体も似たようなテーマで作成していますが、さらにランダムな細かいことをシリーズ化したものにしていきます。
それでは、また
朝だけどおやすみなさい。
おとーふ。