体位変換看護【体位管理のアセスメント・目的・適応・注意点と合併症・こんな時はこの体位】-お困りナースへおくる先輩ノートNo.2-
2018/3/2
「お困りナースへおくる先輩ノート」第2回は、「体位変換」についてです。体位変換をやったことがないというナースはほぼいないのでは?と言えるほど、必ず日常で行う看護になりますね。とはいえ、搬送件数の多いERなどではしたことがないというナースもいるかもしれません。「体位変換するほど長い時間患者さんがステイしてない。」「状態が悪く体位変換しているどころではない。」などの理由でしょうか、実はおとーふもERではそうでした。
しかしながら、病棟やERでも救命病棟などある程度の入院環境となると、必ずと言っていいほど「体位変換」はつきものですね。ゆえに、「ルーチン化」しやすいことも事実です。
また、ICUやCCU・SCUなどの重症管理や急性期における体位管理は「状態をも左右する」とても重要な看護技術となります。重症管理における場面では、体位変換してすぐに患者状態やバイタルサインが目に見えて変化し、一瞬ひやっとしたことがあるナースもいるでしょう。
少なくとも、「何のために=どんな目的で、なぜこの体位を選んだのか。」「本当に必要な体位変換であったのか」ぐらいは、パッと思い浮かぶくらいの意識しながら行えると良いですね。
「体位管理」のアセスメント
看護技術として「体位変換」は、医療器具も使用せずルーチン業務化されやすく地味なイメージかもしれませんが…実は「体位変換に秘められたポテンシャルは、けっこう高い」と言えます。ちょっとした知識とポイントをおさえれば、「ただやるだけ」ではない「より有効な看護」へと変わってきます。目に見えて状態が変わることだってあります。
経験年数問わず毎日行う看護だからこそ、ポイントを覚えて適切なアセスメントへの活かしてもらえればと思っています。
1)「体位交換」「体位変換」「ポジショニング」「体位ドレナージ」どう違う?
呼び方も「体交」だったり「体位変換」だったり「ポジショニング」だったり色々ありますが、それぞれ同じ意味を指すのでしょうか?
・体位交換
体位交換は「体交:たいこう」と省略され、現場では「タイコウするから手伝って〜」などと割と頻繁に使われる言葉です。けれど、本来「交換」という意味は「取り替えること・入れ替えること」などと定義されているため「体位を取り替える・体位を入れ替える」はニュアンスがややおかしなことになりますね。そのため、厳密な言葉の意味としては不適切とされる場合が多いです。
・体位変換
次に体位変換ですが①に準じてみていくと、「変換」とは「変えること」とされており交換と同義の「取り替えること」と定義されているものもあり、曖昧なところもあります。しかし、順当な意味合いでいくと「体位を変えること」となるのでこちらの方が、「体位交換」よりしっくりきますね。
・ポジショニング
最後によく使われるワードとしてあげられるのがポジショニングです。こちらは、ナースよりも理学療法で使われる意味合いが強いように感じる人もいるかもしれません。実際に、看護におけるポジショニングの定義は様々であるといえます。下記引用文献としてリンクを貼りましたが、こちらでも看護におけるポジショニングの意味合いが各分野でとらえ方が異なり、定義にも十分な検討が必要とされています。
結局のところ、どの呼び方が正しいの?というところですが、ここ最近の傾向としては「体位変換」もしくは「体位の調整」や「体位管理」などと表記されているようです。現場では「体交するので力を貸してください。」とか「体の向きを変えます〜。」などとスタッフ間で声かけすることが多いですね。
・体位ドレナージ
さいごに、同じように体位を変換する看護手技で体位ドレナージというものがあります。体位変換の目的は次項であげていますが、体位ドレナージの目的は「気道分泌物の誘導排出」になります。手技としては、共通部分もあるのですが混同しないようにしましょう。
2)何のために体位変換が必要なのでしょう?(目的)
今回のテーマである体位変換においては、前項で述べたように分野ごとのとらえ方により広義となってしまいます。このブログではクリティカルにおける分野での看護を主軸にしているので、体位変換についてもそれにならい以下4つの目的となります。
①苦痛の緩和・安全確保
→体位や体位変換によって起こる苦痛を最小限にし、事故リスクの少ない安全な体位の保持を常に意識します。
②循環・ガス交換の是正および合併症の予防
→換気血流比の不均衡や機能的残機量(FRC)、体位ドレナージ効果による影響を考慮していきます。
③褥瘡予防
→体位によってかかる圧による、循環不全や皮膚障害への影響を除外していきます。
④廃用症候群予防(ADLの向上、早期離床)
→安静臥床による筋力低下(1日で最大3〜4%程度低下すると言われています)や、関節拘縮、昼夜逆転・精神面での影響などを考慮し早期離床を促します。
3)なぜ体位変換が必要?
では、なぜ体位変換が必要なのでしょうか。臥床安静や不動が身体へ与える影響を理解し、それらを予防していくために有用とされているのが体位変換という看護になります。
臥床安静・不動が身体へ与える影響を知りましょう
〈筋・骨格系〉
筋力低下、筋萎縮、関節拘縮、不動化、変形性関節症、骨粗鬆症
〈循環器系〉
運動耐容能力低下、起立性低血圧、血栓、塞栓
〈呼吸器系〉
換気障害、上気道感染、沈下性肺炎
〈消化器系〉
便秘、食欲不振、体重減少
〈泌尿器系〉
尿路感染、尿路結石
〈精神・神経系〉
せん妄、抑うつ、認知機能低下、協調運動障害、神経反応性低下
〈皮膚〉
褥瘡
4)体位変換するときに注意することは?(注意点と合併症)
前項では長時間同一体位の場合をあげましたが、体位変換は短時間でも行った直後から変化が現れる場合もあります。体位以外にも以下のポイントに注意して行いましょう。
〈循環〉
血圧・脈拍数の変動、不整脈の誘発、血流障害(圧迫による虚血など)
〈呼吸〉
呼吸状態の変動(呼吸・換気・気道への障害)
〈意識レベル〉
①②による意識障害、頭蓋内圧変化
〈疼痛/苦痛〉
体位変換(可動や圧迫)に伴う疼痛・苦痛の誘発、精神面や睡眠状態
〈皮膚〉
皮膚障害の発生(損傷・刺激・圧迫・破綻など)
〈創部〉
創部離開
〈ライン類〉
ルート・呼吸器関連・ドレーン関連・補助装置関連などの屈曲・閉塞・抜去・ずれ・切断など
5)いろいろな体位
※手技や手順については、たくさんの参考書が出ていますので施設基準などとともに、各自ご覧になってください。既知の事項として、進めていきますね。
仰臥位
側臥位-完全側臥位-前傾側臥位
腹臥位
セミファーラー位-ファーラー位
座位-背面解放座位
立位
以上が臨床上病棟などでよく行われる体位になります。各体位ともに苦痛が少なく安楽であり、かつ良肢位を保持するような体位になるよう、体位変換用の枕やクッションなどで調整していきましょう。
整形外科などでは、禁止体位や肢位固定枕などを使用する場合もあります。また、手術室などでの術中体位も固定器具の使用や、術式に応じた特殊な体位となってきます。
6)適切な体位の考え方
ここで大切なのも、やはり「何にフォーカスをあて」「どうしたいのか」という目的になりますね。「何が問題」で「なぜその問題が起こっているのか」をアセスメントした上で成立するプランニングの1つが体位変換となるわけです。そのため、アセスメントせずにやみくもに行うだけでは、「改善が期待できない」よりもむしろもっと悪い「状態を悪化させる」という逆効果を引き起こしてしまう場合があります。十分な情報と、現状の状態、背景などを合わせ、医師・療法士など他職種と連携を取りながら行って行けると良いですね。
また、看護や医療のエビデンスについても日々更新されています。ちょっと前まで当たり前と思ってやっていたことが、真逆の方法が正しいとされるほど極端なパターンもあります。常に最新の情報を取り入れていく姿勢も大切となりますので、古い習慣にしがみつかず頭を柔らかくしておきましょう(笑)。
こんな時はどんな体位がいい?
✔︎循環の安定を最優先したい
→仰臥位、局所の除圧や圧抜き、良肢位の保持で同一体位による合併症の減少をはかります。
✔︎無気肺を予防または改善したい
→無気肺のある肺野に重力がかからない(=上側に)体位にすることで、健側肺の血流が増加し、ガス交換及び酸素化の改善期待ができます。仰臥位では背側に形成しやすく、側臥位<完全側臥位<前傾側臥位<腹臥位の順に改善見込みが高くなります。背面解放がポイントです。
✔︎VAP(人工呼吸器関連肺炎)予防したい
→ファーラー位〜セミファーラー位、頭部挙上30~45度でVAPリスクが減少
✔︎換気量を増やしたい
→重力による横隔膜の位置で臥位<座位<立位の順で換気量は増えます。臥位でもフラットな仰臥位<セミファーラー位<ファーラー位の順で換気量が増加しやすくなります。
✔︎腹圧をかけたくない
→臥位<セミファーラー位<ファーラー位<座位の順で、体制が起きるほど横隔膜が下がり胸郭が広がる分、腹腔スペースは狭くなるのでかかる圧も高くなります。
✔︎ICP亢進時
→15〜30度頭高位のセミファーラー位を保持します。これにより静脈灌流を亢進し、頭蓋内圧を低下させます。ただし、頚部の屈曲は静脈灌流を阻害しICPを上昇させるため注意!
✔︎局所的に胸水が溜まっており酸素化を良くしたい
→無気肺と同様、健側肺を下にした体位にします。健側肺に血流が増加し、換気効率が上がり酸素化の改善が見込めます。
✔︎肺塞栓がありガス交換を良くしたい
→健側肺を上にした体位をとります。血流障害のない肺に空気を入れることで、ガス交換の改善が見込めます。
✔︎ショック状態・急激な血圧低下で血圧を上げたい
→仰臥位
⚠️ショックや血圧低下といえば下肢挙上!?
ショック体位などと呼ばれる下肢挙上においては、エビデンスが確立されておらず医師により見解が異なるなど、賛否両論あります。静脈灌流が増加することから血圧の上昇の可能性を示していますが、ごく短時間(7分以内)とされ効果については曖昧です。ショック時に体制を変えるリスクよりも、循環変動の少ない仰臥位が推奨されています。加えて、心原性ショックや腹腔内圧・頭蓋内圧上昇時などは下肢挙上により増悪する恐れがあり、行わない方がベターであるといえます。とはいえ、急変時などは瞬時に判断しなければなりませんので、日頃から施設基準でのファーストエイドや医師へ確認しておくと良いでしょう。
「普段の体位変換時も」
ショック体位だけでなく頭部挙上の際は起立性低血圧や血流のうっ滞を防ぐため、鼠径部や腹部を圧迫しない程度に、下肢の挙上も適宜行いましょう。
体位ドレナージの禁忌は体位変換も禁忌?
ドレナージ前の血胸・気管出血・気管と交通のある膿胸 →体位ドレナージは禁忌とされているため、体位変換も注意が必要となります。側臥位などにより、健側肺へ血液や膿が流れ込み肺障害・感染を増悪させるためです。
以上、主だった例を挙げてみましたがこれらはメリットだけでなく、デメリットを併せもつことも知っておいてください。
例えば…換気量をとれば血流は低下しますし、逆に血流をとれば換気量は低下しやすいといえます。VAP予防のため頭部挙上をすれば、血圧が下がったりと循環変動が出やすく、仙骨部の褥瘡できやすくなります。
腹臥位なども、無気肺などには効果的ですが、循環変動や酸素消費量の増大、マンパワーが必要、ルートトラブルのリスクが上がります。
このように、一長一短であり実際は疾患や病態が合併していることが多く、必ずしもこの体位と言い切れるものはありません。患者さんの病態や状態、マンパワーや環境などに合わせて、何が優先事項か考え、一番デメリットを許容できる安全な看護を行なっていけると良い効果が出てくると思います。そして、時には行うことばかりではなくリスクが大きいのであれば「その体位は行わない」や「今の状態での体位変換は不要」という選択をすることも大切になります。
以上で、体位変換についてはおしまいです。今回は概要の要素が強くなりましたが、掘り下げれば目的①〜④の各項目で1記事となるほど奥深いです。毎日行う体位変換ですので、日常の看護の少しでもプラスになればと思っています。
おとーふ。