かんごノート by logical nurse

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スワンガンツカテーテル看護管理②データからみる循環動態

2018/9/10

 

前回に引き続き、スワンガンツカテーテルの看護管理についてです。

今回は、スワンガンツカテーテル(SGカテ)を使用して得られるデータが何を意味しているのかというところにポイントを絞っていきます。

内容はコチラ↓

 

スワンガンツカテーテルのデータが示す意味ととるべき対応

SGカテのデータが示すのは一言でいうならば、循環動態です。簡単に表現すると、心不全っぽいのか、脱水気味なのか、それともちょうど良い具合なのかをデータが示してくれます。

 

【本日よく出る略語と意味】

RAP:右心房圧

PAP:肺動脈圧

PAWP:肺動脈楔入圧 

SVRI:体血管抵抗

SvO2:混合静脈血酸素飽和度

CO:心拍出量

SV:一回拍出量

CI:心係数
 

1)循環の状態と対応をざっくり知りたい

まずは、細かいデータを見る前に「で、今の循環動態どうなってるの?何をしたらいいの?」という時に4つのsubsetで教えてくれるものがあります。

それが、 Forrester分類になります。

そこに加えて、以前フロートラックの前負荷の項目で登場した、Frank-Starling曲線の変化を見ることで大まかな循環動態ととるべき対応が分かります。

両者の関係性をまとめると下図になります。

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Forrester分類とFrank-Starling曲線の関係性
Frank-Starling曲線が表していること

Frank-Starling曲線は縦軸が一回心拍出量、横軸が前負荷を示しています。
正常心(ピンクの曲線)の場合は、前負荷を上げれば心拍出量も増加し前負荷が大きすぎても心拍出量は維持されます。
しかし、不全心(ブルーの曲線)の場合は、前負荷で心拍出量が限界点までは上昇しますが、それ以上の負荷がかかると拍出量が低下していきます。この状態が、心不全でありうっ血を起こしています。

 

Forrester分類が表していること

Frank-Starling曲線が示したことをCIとPAWPのデータを用いて、心臓のポンプ不全で起るうっ血と低心拍出(低灌流)により循環動態を4つのsubsetに分類したものです。これにより、どのように対応すれば良いのかが明確になっています。

subset Ⅰ
正常または代償性左室収縮不全

【対応】
✔︎正常または鎮静などで様子観察
・ACE阻害薬
・βブロッカー など

subset Ⅱ
心拍出量は維持できているが、前負荷いわゆるボリュームが過多となり肺うっ血をきたしている状態。
→左心不全

【対応】
✔︎前負荷を減らす
・利尿薬/血管拡張薬
 →フロセミド・hANPなど
・HDでの除水

subset Ⅲ
肺うっ血は認めないものの、末梢循環不全を起こしている状態。左室の前負荷が不足している。
→脱水・右室梗塞・右心不全

【対応】
✔︎前負荷を増やすまたは+後負荷の軽減+カテコラミンによる収縮能増強
・輸液
・カテコラミン
輸液の前負荷増加のみでは、低心機能の場合はsubsetⅢ→Ⅳへ移行するだけで、CIは増加しない。輸液でCIが改善しないようであればカテコラミンでの対応となる。

subset Ⅳ

過剰な前負荷による肺うっ血と、心収縮力が低下し十分な心拍出が保てず末梢循環不全をきたしている状態。
→心原性ショック

【対応】
✔︎前負荷・後負荷の軽減+カテコラミンや機械的循環補助による昇圧・収縮能増強
・カテコラミン
・利尿薬/血管拡張薬
・薬剤投与で反応がない場合→IABP/PCPS機械的循環補助

 

f:id:logicalnurse:20171126082601j:plain以上がForrester分類と対応になります。心不全の治療や循環の分野でよく出てくる分類にはなりますが、慢性心不全の急性増悪などではPAWPが高くても心機能が代償されていることもあり、当てはまらないパターンもあります。そのため、急性心不全ではsBPを基準に他検査・身体所見とともに分類したCS(Clinical Scenario)などが用いられています。
↓気になる方は「急性心不全治療ガイドライン」のリンクへ。

http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf

 

よって循環動態をざっくり知るために、


①後負荷の軽減・心収縮能の増強・カテコラミンなどの使用でFrank Starling曲線が引き上げられること
②闇雲に前負荷を増加させても肺うっ血をきたしてしまうこと
③現状のポイントをsubset Ⅰの左上へ近づけていく対応を行っていくこと

 

を大まかなイメージとして把握できていれば良いのではないかと思います。

 

2) SGカテーテルのモニタリングデータからわかること

⬆︎:高値のとき ⬇︎:低値のとき
(s)sysolic:収縮期 (d)diastolic:拡張期 (m)mean:平均 

 

【PAP】…左房圧=左心の前負荷評価(PAWPよりやや高め)
基準値:15-25(s)/8~15(d)/10~22(m) mmHg

⬆︎肺血管病変、左心機能低下(左心系の水分量過多) 
⬇︎循環血液量減少

 

【PAWP】…左心室の前負荷評価
基準値:6~12mmHg
波形:a(心房収縮) x(心房圧低下) v(心房充満) y(M弁開放)

⬆︎循環血液量過多、左心機能低下
⬇︎循環血液量減少

 

【RAPまたはCVP】…右心室拡張末期圧(RVEDP)=右心の前負荷評価

基準値:0~7、4(m) mmHg
波形:a(心房収縮) x(心房圧低下) v(心房充満) y(T弁開放)

⬆︎肺疾患、右心機能低下による前負荷増加
⬇︎循環血液量の減少

 

【CO】…心機能のトータル評価、CO=SV×HR

基準値:4.0~8.0 L/min

⬆︎前負荷増加、心拍数の増加
⬇︎前負荷の減少、前負荷過剰、不整脈(SV↓HR↓)

 

【SvO2】…酸素供給と消費のバランス評価

基準値:60~80%

⬆︎酸素運搬量増加:CO増加
 酸素消費量低下:動静脈シャント、代謝抑制、組織酸素利用障害
⬇︎酸素運搬量低下;CO低下、低酸素、貧血
 酸素消費量増加:代謝亢進

 

ここからは測定したデータを使って算出したパラメーターです

 

SVR】…左心室の後負荷を評価

基準値:800~1200 dyne-sec/cm^5

【PVR】…右心室の後負荷

基準値:<250 dyne-sec/cm^5

血管抵抗⬆︎:SV低下、心筋酸素消費量増加
血管抵抗⬇︎:SV増加、心筋酸素消費量低下、血管弛緩

 

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plainデータの高低を疾患名などで分類している場合もありますが、心内圧のパラメーターは相互に関係しあっているので一概に「この圧が上昇したから、この疾患が疑わしい」とは断定できません。あくまでも、「可能性がある」という指標です。確定診断を行うのは医師の仕事ですから、お任せしましょう(笑)。
それよりも、「データの変化により患者さんの循環の状態が現在どうなっているのかを把握する」ことが大切になります。そして、その状態から次にどのような対応を行えばよいのか予測がつくと、より早く循環不全からの救命が可能になりますね。

 

3)SGカテーテルのデータまとめと対応

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スワンガンツカテーテルで測定できるデータと心機能評価のイメージ

前項をまとめると、上記のような図になります。

おさらいになりますが、心機能を構成する要素は心拍数・前負荷・後負荷・心収縮力であり、心拍数以外の3要素が心拍出量を決定していましたね。
この3つにスポットを当て、心臓を右心系左心系で分けると右心系の前負荷・後負荷、左心系の前負荷・後負荷、算出パラメーターからは心収縮力と両心機能の評価ができることになります。

また、PAWP/RAのa波、v波などの波形変化を見ることMRやVSDなどの合併症や心タンポナーデなどの兆候に気づくこともできます。(今回は波形変化については、かなり長くなってしまうので触れません。)

 

では、実際に臨床でデータから予測できる対応は?

実際に臨床で循環不全を起こしている場合には、先ほどまとめたようなデータを全て把握するのは難しい場面もありますよね。

そこで、持続モニタリングされているデータを使って循環の状態を見ていきます。

①前負荷は
 →右心:RA(CVP)
     左心:PAWP(バルーン拡張時)

②後負荷は
 →体血管抵抗=血圧(BP)

③心収縮力は

(具体的なパラメーラーはないですが、CO=SV×HRなのでCOで代用できますね)

①〜③の結果として得られるものが
COと尿量(腎機能不全がない場合)

 

それぞれの変化と対応をまとめると下図になります。

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循環動態モニタリングデータと対応

これらと、SvO2で酸素の供給・消費バランス、身体所見、他検査データなどを合わせて総合的に循環の状態を判断していくことが大切です。

 

以上がスワンガンツカテーテルのデータからみる循環動態になります。ベッドサイドでの看護に必要な情報を中心に書いてみました。SGカテで得られる情報は多く、利用する側の知識やアセスメント力も問われます。上手に活用して、一刻一刻変わりゆく患者さんの状態に合った看護が行えると良いですね。

 

それでは〜

 

おとーふ。