フロートラックセンサー看護と循環管理に上手に使おう!
2018/8/10 更新:2018/8/15
3年に1度くらいしか風邪をひかないのに、7月はうっかり体調を崩してしまったおとーふです。更新もお休みがちになってしまいました。
みなさんは暑さや豪雨被害、大丈夫だったでしょうか?
まだまだ暑さが続きますので、ご用心くださいね。ちょっとやそっとの事情では、休みの取りづらいナースの職場もどうにかしたいものですよね。
さて、本日はフロートラックセンサーについてです。
大きな病院では導入しているところも多いかと思います。おとーふも初めて見かけたのは、10年くらい前の大学病院のICUで試験導入した頃でした。
なんとなく英語表記や略語の多いモニター表示で、苦手な人もいるのではないでしょうか?せっかくあるのであれば、看護にも役立つので知らないまま数字に振り回されず、知って活用していきましょうね〜。
フロートラックセンサーはAlineに接続するだけで簡易的に使用できます。以前はよく使われていたスワンガンツ(SG)カテーテルは侵襲的でもあり、輸液の指標としてはけっこうな勢いで廃れていっています。最近ではフロートラックセンサーのSVVを使用することも増えてきています。心エコーなんかも需要が増しています。
フロートラックセンサーでどのような情報が得られ、どのように使えるのかを学んでいきましょう。
フロートラックセンサーでみる循環管理
冒頭で低侵襲で有用なフロートラックセンサーと述べましたが、とても便利な反面有効に使用する条件が決まっており、意外と限られてしまうのがやや難点でもあります。
※以下の場合にはデータの信頼性が低くなります!
・心房細動などの不整脈がある
・自発呼吸がある
・一回換気量が低い(8ml/kg以下)
・IABP/PCPS使用
・重度AR/開胸
・右心不全
・小児
などが制限となります。
要するに、調節呼吸下でAline波形を安定して測定可能な時に有効ってことになります。そもそも心拍出量の変動を利用するわけですから、心拍出量の変動が不安定な場合には推定値が予測しづらく、使用が限られるというわけです。
また、体格や性別などによっても値が変わるので使用時には年齢、性別、身長、体重の入力も必要となってきます。
測定できるパラメーターと基準値を知る
測定できる基本パラメーターは以下の7つになります。
CO:心拍出量
Cardiac Output
心臓が1分間に送り出す血液の量
1回拍出量×心拍数
CI:心係数
Cardiac Index
心拍出量÷体表面積
SV:1回拍出量
Stroke Volume
心室が1回の収縮で拍出する量
SVI:1回拍出量係数
Stroke Volume Index
1回拍出量÷体表面積
SVV:1回拍出量変化
Stroke Volume Variation
SVの最大と最小を変化率として表した値
SVR:体血管抵抗
Systemic Vascular Resistance
左室における後負荷
SVRI:体血管抵抗係数
Systemic Vascular Resistance Index
SVR算出時、COの代わりにCIを使用した値
次に、7つのパラメーターの基準値は以下です。
CO:4~8L/分
CI:2.5~4L/分/㎡
SV:60~100mL/回
SVI:33~47mL/回/㎡
SVV:13%未満
※10~15%以上で輸液反応性あり
SVR:800~12001dyne-sec/cm^5
SVRI:1970~2390 dyne-sec-㎡/cm^5
循環・心機能を規定する要素と観察ポイント
さて、前項ではパラメーターと基準値についてざっと紹介しましたが、そもそもなぜこれらのデータが必要なのでしょうか?ここを理解していることがとても重要で、何に必要なのかがわかれば、必然的にデータを知りたくなるはずです(笑)。
循環管理というと意味合いが広すぎるので、少しずつ狭めていきましょう。
「循環」という言葉からイメージするものはなんでしょうか?
血液が全身をぐるぐると巡っている、そんな感じですね。例えば、人間がエネルギーを作り出すためには酸素や栄養素が不可欠であり、それを細胞まで届けなければなりませんね。
そこで必要なものはなんでしょう?
全身へ血液を送り出すためのポンプ
=心臓
全身へ送るだけの十分な血液量
=循環血液量
血液を安全に送り届けるパイプ
=血管
これが「循環の3要素」になります。この3つのうちどれかでも破綻すれば、循環不全が引き起こされます。単純に考えても、ポンプが壊れても水は届かない、水が多すぎたらポンプやパイプが壊れるかもしれない、少なすぎれば全部へ送り届けられない、パイプが壊れれば水漏れしてしまうかもしれない、などとうまく回らなくなることが想定できますね。
次に、この循環と呼ばれるしくみもう少し細かくみていきましょう。
①静脈系:不要物と二酸化炭素の回収
↓ 前負荷=ESV
②右心(右房→右室)
↓
③肺循環:血液を酸素化
↓
④左心(左房→左室)
↓ 心拍出量=CO
⑤動脈系:栄養・酸素の供給
↓ 後負荷=SVRI or MAP
⑥毛細血管から各種臓器・細胞へ
↓
また①へ戻る
この仕組みこそが循環(=サイクル)になりますね。
中でも、ピンクの太線部分の前負荷・心拍出量・後負荷は心機能を規定する因子としてとても大切です。
循環管理のポイント
この心機能を決める前負荷・心拍出量・後負荷3つとも適切に保たれなければならないのですが、中でも全身に血液を送り出すポンプ機能となる心拍出量(CO)を適切に保つことがポイントになります。
心拍出量(CO)
COを規定する因子はSV(1回拍出量)とHR(心拍数)で、積算がCOになります。
CO=SV×HR
また、SVは心収縮力・前負荷・後負荷によって決まります。これを図にすると以下のようになります。
循環不全が起こった場合には、この図の①〜④のどこに問題があるのかに気づくことが治療のカギとなります。もしくは、これらの変化に先に気づけば重篤な循環不全を起こさずに、予兆の段階で未然に治療ができる可能性があります。
ちなみに、本日のテーマであるフロートラックセンサーで測定可能なパラメーターに印をつけました。循環を構成する重要な要素を知ることができるのが、一目瞭然ですね。他のモニタリングやパラメーター、身体所見と合わせて評価が行えればより正確なものとなってきます。循環の判断をする上では、フロートラックは良い判断材料ともなりうるので、上手に使っていきましょう。
【COはココをチェック】
✔︎フロートラック:CO
✔︎SGカテーテル:CCO(連続心拍出量)
それぞれの構成要素についてもみていきましょう。
心収縮力
心収縮力は原則、後負荷が適切であればSVは増加する。
【心収縮力はココをチェック】
✔︎心エコー:EF
✔︎フロートラック:CO
✔︎SGカテーテル:CCO
✔︎ベッドサイド(生体情報)モニター:ABP or NIBP/HR
【SVへの影響】
心収縮力増強→SV増加
心収縮力低下→SV低下
前負荷(Preload)
前負荷は心臓に戻ってくる血液量であり、循環血液量や静脈還流量と同じになります。
戻ってきた血液が左室から押し出される直前まで貯まる(=左室拡張末期)ため、
EDV(左室拡張末期容積)とも言えます。
【前負荷はココをチェック】
✔︎フロートラック:SVV
✔︎SGカテーテル:LVEDP(左室拡張終期圧)
PAWP(肺動脈楔入圧)
✔︎CVカテーテル:CVP(中心静脈圧)
✔︎心エコー:IVC(下大静脈径)
✔︎身体所見:水分バランス過剰・心不全など溢水所見の有無
脱水・出血による循環血液量減少などの所見の有無
【SVへの影響】
静脈還流(循環血液量)増加:SV増加
※ただし下記Frank Starlingの法則により、生理的限界以上のSVは増加しない。
静脈還流低下:SV低下
また、前負荷の大前提としてFrank Starling曲線(下図)があります。どこかで一度は聞いたことがあるでしょうか?この曲線は、縦軸が1回拍出量(SV)、横軸が前負荷(心筋繊維の伸展を表しています。生理的伸展の限界までは前負荷(血液量)が増加すれば、SVも増加しますが、進展の限界を過ぎるとSVは低下してきます。ですから、SVを増加させるために、前負荷を増やすほどいいというわけではありません。
平易な表現で言えば、拍出する心臓に容量の限界がありますし、伸ばしたところでペラペラになってしまっては押し出す力も弱くなってしまい、拍出する量も減ってしまうといったイメージです。
後負荷(After load)
後負荷は心臓が収縮しきって、血液が血管へ押し出される時に受ける心室壁への抵抗(抹消血管抵抗)です。抹消血管の硬さや収縮などで表すのですが、測定が困難なためSVR(体血管抵抗)やMAP(平均動脈圧)で代用されます。
【後負荷はココをチェック】
✔︎フロートラック:SVR
✔︎ベッドサイドモニター:血圧
✔︎身体所見:抹消循環不全の有無
【SVへの影響】
体血管抵抗上昇:SV低下
体血管抵抗低下:SV増加
観察ポイントまとめ
心拍出量を保つための、SV(1回拍出量)が心収縮力・前負荷・後負荷で構成されていることがわかりましたね。
ということは、循環不全が起こっている場合には・・・
✔︎前負荷である静脈還流量(循環血液量)は?
↓
✔︎心拍出量・心収縮力は?
↓
✔︎心拍数は?
↓
✔︎後負荷である血管抵抗は?
と順番に、先述したようなそれぞれのモニタリング測定値や身体所見を含めて考えていく必要があります。
SVVで輸液反応性をアセスメントする
前項までで学んだパラメーターに加え、フロートラックのパラメーターとしてとても有用なものがSVV(1回拍出量変化:Stroke Volume Variation)になります。
一言でいうと、輸液反応性指標の代表といったところでしょうか。
ここ最近はずっと過剰輸液が色々な悪影響を及ぼすので、輸液は適正にしましょ〜という流れがきていますが・・・輸液ってDrの考え方や情報量で異なったり、「このタイミングで絶対これ!」っていうのがないですよね。
もちろん、適正な輸液を行うためにいくつか指標があるのですが、その中でも低侵襲で簡易的で明確というのでフロートラックでのSVVが代表格となっています。
【SVV】基準値:13%未満
1回拍出量の呼吸性変動を変化率(%)で表した数値
循環血液量不足(脱水など)を招くと、血圧波形が呼吸性変動の影響を受けます。よくAラインの圧波形による呼吸性変動などをチェックしたりしますよね。それと同様に、血圧が変動するということは、1回拍出量も呼吸性に変動します。
呼吸性変動の波形変化を目視で見る場合には、モニターや見る人によって受け取り方に差が出ますが、SVVは数値化されるため一目瞭然ですね。
たとえば・・・SVが低下した場合に、それを構成する前負荷・後負荷・心収縮力のどこかに問題があるはず。
SVVは循環血液量(前負荷)を示すので、不足していれば輸液や輸血による循環血液量の増加が必要ですし、不足していないのであれば強心剤などが必要となるかもしれません。
この輸液が必要なのかそうでないのかを予測することを、輸液反応性といい過剰輸液を防ぐ上ではとても重要なポイントとなります。
では、実際にSVVの数値でをみていきましょう。
⚠️循環血液量不足=CO / SVが低下
↓
輸液反応性はどうかな?
【SVV10~15%越えの場合】
→輸液によりCO / SVが増加する可能性あり
治療:輸液・輸血の検討
【SVV10%以下の場合】
→輸液によりCO / SVが増加する可能性は低い
治療:強心剤や血管拡張剤の使用を検討
フロートラックセンサーと看護
少し長くなってしまいましたが、さいごに結局看護は何をすればいいの?というところをフロートラックのパラメーターとともにまとめていきます。
↓簡潔に言ってしまえば、循環不全の原因はこういうことになりますね。
前負荷:SVV
→volumeの過不足
心収縮力:CO/SV
→強心剤などによる増強や心筋ダメージによる低下
後負荷:SVR/SVRI
→抹消血管の収縮・拡張
前負荷で考えると、循環血液量に異常があるのだからちょっとした体位の変化でも一気に血圧が低下する可能性もあります。
それならば、ルーチンで体位変換やケアを行なわず必要性を考え看護計画を組み直す方が良いかもしれません。
心収縮力に原因があるときは、大切なポンプ機能が壊れているわけですから、残された機能でなんとか頑張っている状態ですね。
シビアな状態まで紙一重かもしれません・・・ということは、ショックを起こしているもしくは起こす一歩手前の可能性がありますね。
そうであれば、心負荷を軽減させモニタリングやショック対応が最優先となります。
後負荷は抹消血管の状態に左右されるので、拡張しているのか収縮しているのかを判断した上で、前者ならばノルアドレナリンのコントロールやウォームショック・プレショックも念頭に置いた対応が必要とされるでしょう。
また、後者であれば保温や疾患によっては血行障害の有無を十分に観察し、血管拡張剤を用いるなどの対応が必要となってきますね。
と、いうように原因に対してどのようにすればいいかを考えることが、看護になってきます。
輸液の指標であれ、循環管理であれ、あくまでパラメーターはパラメーターなのです。
基礎疾患や状態、病態によって意味合いは大きく異なります。
ですが、トレンド比較やパラメーターの推移によって「あ、この後血圧が下がってくるな」など血圧低下やショックなどの循環不全を予測することもできる場合があります。また、次にどのような対応を行えばいいのかも事前に知ることもできます。
施設によってはフローチャートを用いて、ナースの経験差で判断に差が出ないようにしているところもあります。
以上が、フロートラックセンサーを用いた看護と循環管理になります。
フロートラックに限らず、モニターや医療機器などメリットである部分を十分に活かして、みんなで情報共有しながら上手に看護に使えるといいですね。
それでは〜。
おとーふ。