かんごノート by logical nurse

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人工呼吸器管理⑵人工呼吸器の役割と設定のポイント

2018/4/12

前回に引き続き、人工呼吸器管理についてです。
人工呼吸器はモードや使われている用語が、各施設やメーカー・人工呼吸器の種類により様々です。表記も英語や日本語であったりと、実に分かりづらいです。

はじめて人工呼吸器を見るナースにとっては、複雑きわまりないと思います。しかし、実際は用語が異なるだけで、根本的には同じになります。

そのため、基本的なことを押さえておくと機種や施設が変わっても、人工呼吸器管理がスムーズに行えます。

人工呼吸器を装着した患者さんを受け持つようになると、まずはじめに「モードがわからない・・・。」というナースが多いと思います。けれど、ちょっとその前に頭に入れておくと、今後「人工呼吸器について知る上で理解がしやすくなるポイント」を今回まとめていきます。

知っている人は、さら〜っと読み飛ばしてくださいね〜。

 

人工呼吸器でできること

①低酸素血症の改善(酸素化)

②高二酸化炭素血症の改善(換気)

③呼吸仕事量の軽減

 

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain《ここが大切!》
現在の患者状態が「この3つのうちどれに問題があるのかを把握する」ことと、「3つそれぞれに対して分けて対応していく」ということです。

 

次に、それぞれに対して問題があった場合にどう対応していくのかをみていきましょう。ここでの対応=人工呼吸器の設定になりますので、まずはじめに設定する項目についてみていきます。

 

1)人工呼吸器の基本設定項目

・モード

・酸素濃度(FIO2)

・PEEP 

・呼吸回数(f)

・換気量(TV)または吸気圧/圧支持(/Pi/PS)

 

以上5つになります。「え?他の項目は?呼吸器にはなんかたくさん設定するところがあるのに・・・。」と思った方もいるかもしれませんね。その他といえば、トリガーやI:E比などありますがその辺はとりあえずデフォルトのままで大丈夫です。

基本設定として、大切なのがこの5つだけです。

モードについては、今後詳しくやっていこうと考えています。今回は前項の「人工呼吸器でできること①〜③」への対応なので、モード以外の4つの項目についてピックアップしていきます。

 下記はごく基本になるため、疾患や症状などに合わせ設定値は異なり、設定変更に対する反応なども時間や呼吸状態を考慮していかなくてはなりません。

2)酸素化の改善に必要な人工呼吸器設定

酸素化に関わる設定項目は前項4つのうち、たった2つ。

 

・酸素濃度(FIO2)
 
→吸入酸素濃度を上げて低酸素を避ける

・PEEP
 
→肺胞を開いて酸素の取り込みを良くする

これだけです。

 

【酸素化を改善させるには】

・FIO2を上げる
・PEEPを上げる

反対に、過剰酸素の場合やウィーニング時にはこの逆であるFIO2・PEEPを下げていけばいいわけです。人工呼吸器の設定でできる酸素化への対応としては、ごくシンプルにこれだけになります。

これで低酸素血症が改善しない場合には、換気不全によるものであれば換気の改善を行い、ほか痰による気道閉塞、循環不全によるものなど、原疾患への対応や低酸素の鑑別を再度行わなければなりません。(原因検索や呼吸状態を知るには、血ガスで取り上げていますので過去記事↓を参照してください。)

www.logicalnurse.com 

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain☆FIO2/PEEPを設定する上で気をつけるポイント☆

【FIO2】
・投与開始はFIO2:1.0(100%)で開始
・VILI予防のため48〜72hr以内にFIO2:0.5以下を目標とする

【PEEP】
・ARDSでのPEEP設定は、ARDS NETWorkにより酸素濃度ごとの設定値が設けられているため該当表を用いる
・ARDSでのPEEPウィーニングは、一気に行うと急激な低酸素を招く恐れがある
 …設定変更後は数時間呼吸状態を観察し、ゆっくりと下げる
・血圧低下に注意
 …PEEP↑→胸腔内圧↑→静脈還流↓→心拍出量↓→血圧↓

 

(酸素化の指標については、過去記事を参照してください↓)

 

www.logicalnurse.com

 

3)換気の改善に必要な人工呼吸器設定

換気にまつわる設定項目は以下2つだけ。

 

・呼吸回数(f)

・換気量(TV)または吸気圧(Pi)

 

二酸化炭素血症(PaCO2↑)=換気不全=分時換気量の低下といえます。

✔︎分時換気量(MV)=一回換気量(TV)× 呼吸数(f)

この計算式から、分時換気量を決めているのは一回換気量と呼吸数になるわけです。
そのため、一回換気量か呼吸数が上がれば分時換気も上がりますし、どちらかが下がれば分時換気量も下がります。

 

【高二酸化炭素血症を改善するには】

・呼吸回数を増やす 
・換気量または吸気圧を増やす

 

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain☆呼吸回数・換気量・吸気圧を設定する上でのポイント☆

・肺の状態が正常肺であるのか、COPDや ARDSなどが存在するのかなどを考慮することが大切。それにより、目標とする設定値も変わってきます。

・1回換気量は10ml/kg、IBW4〜8ml/kg(正常肺)を超えないように設定

・圧換気の場合も上記の1回換気量が維持できるように設定

・呼吸回数を増加させても、PaCO2の低下がみられない時は死腔換気量が増加している可能性があります。

代償によるPaCO2の上昇は許容し、原疾患の治療を優先とします。むしろ、PaCO2を戻してしまうことで、代償の破綻が起こり病態悪化の加速を招く恐れがありますので、注意しましょう。

 

4)呼吸仕事量の軽減に必要な人工呼吸器設定

呼吸仕事量に影響を及ぼすものとしてあげられるのが以下2つです。これは、人工呼吸器が空気を送り込むために気道や肺の生理に逆らっているためです。
・気道抵抗
・肺や胸郭のコンプライアンス(弾性抵抗)

 

1)の呼吸器設定項目の4つのうち、ここで関係があるのはこの2つ。

 

・呼吸回数(f)または強制換気回数(SIMV回数)

・圧支持(PS)

呼吸回数は増えると呼吸仕事量が増加します。自発呼吸がなく完全な強制換気下では、呼吸仕事量はゼロになります。自発呼吸がある場合、その吸気努力に合わせて設定した圧までサポートを行うのが圧支持(PS)になります。呼吸の一部または全部を人工呼吸器が代替することで、呼吸筋疲労の回復や酸素消費量を減らすことができます。

 

【呼吸仕事量を軽減するには】

・呼吸回数、自発呼吸と強制換気のバランスを考える
・プレッシャーサポートをかける

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain☆強制換気回数と圧支持の設定ポイント☆

・PSを上げると一回換気量が増加し、換気回数が低下します。分時換気量は増えない。
 (分時換気量=一回換気量×換気回数)

・自発呼吸がある場合:PS5〜20cmH2O

・強制換気の場合:PS10cmH2O

 

 以上が人工呼吸器でできることと、それに応じた基本的な設定のポイントになります。ここを押さえた上で病態をや状態に合わせた設定やモード選択が必要になります。
また、各施設や医師の考え方によっても設定が異なってきます。

何が問題でそれに対して、人工呼吸器でどこをサポートするのかを明確に把握することで、適切な設定が行えたり、状態変化時の対応ができるようになってくると思います。

用語が乱立する人工呼吸器も、目的とそれぞれに必要な設定項目は実はそんなに多くないと気づくと、苦手意識はだいぶなくなるのではないでしょうか。

次回は、「人工呼吸器のモード」あたりをまとめていこうかなと考えています。

 

深夜の更新となりました、おやすみなさい。

おとーふ。

 

↓人工呼吸器管理シリーズはコチラからどうぞ↓

人工呼吸器管理⑴適応と合併症を知ろう(VILIと呼吸器管理のスタンダード)

人工呼吸器管理⑶人工呼吸器のモードと換気様式 

人工呼吸器管理⑷グラフィック波形を見てみよう!