人工呼吸器管理⑴適応と合併症を知ろう(VILIと呼吸器管理のスタンダード)
2018/3/29
本日は人工呼吸器についてです。人工呼吸器管理については、施設や携わる医師の考え方、機種などにより捉え方や使うモードや用語が様々です。一見複雑なようですが、実は基本的なことはシンプルだったりもします。
いつもどおりクリティカルケアでの管理を中心に整理していきたいと思います。
人工呼吸器管理の基本
はじめに人工呼吸器のモードや設定云々はさておき、まず「どういう時に人工呼吸器が必要となるか」と「人工呼吸器の装着はサポートをしてくれるだけではなく、合併症も引き起こすこと」を知っておくことが管理していく上ではとても重要になります。
人工呼吸器と呼ばれるものには侵襲的か非侵襲的かによって分かれます。
①IPPV(Invasive Positive Pressure Ventilation)=侵襲的陽圧換気
→挿管(気管切開含む)での人工呼吸
②NPPV(Non-Invasive Positive Pressure Ventilation)=非侵襲的陽圧換気
→挿管不要、マスクでの人工呼吸
NIVではほとんどがNPPV
ここでは、いわゆる挿管を行なった場合に使用する①IPPVの人工呼吸器管理についてお話ししていきます。
1)挿管・人工呼吸器の適応
気管挿管の適応
①呼吸不全(低酸素血症及・高二酸化炭素による)
②起動防御機能の破綻(舌根沈下・咳嗽反射消失)
③NPPVで改善しない呼吸不全
加えて臨床所見から
①呼吸補助筋使用による呼吸
②一文をすべて話しきることができない状態
③早く浅い呼吸
④十分な酸素化に関わらず低酸素血症が進行
⑤意識障害
以上8つの場合に気管挿管を考慮するといわれています。
今回は人工呼吸器管理がテーマのため触れませんが、気管挿管については以下にあげた項目についても学ぶとスムーズに挿管介助が行えると思います。
スムーズな気管挿管のためのポイント
〈気道確保とマスク換気〉
・頸部伸展、下顎挙上、開口(トリプルウェイマニューバー)や頭部後屈顎挙上
※気道確保の場合には肩枕も有効
・挿管前の十分な酸素化(NPPVやハイフローセラピーの使用含め)
⇩
〈挿管と喉頭展開〉
・一般的な気管挿管かRSI(急速挿管・迅速気道確保)か
・救急カート準備(気管挿管に必要な物品、困難気道の場合に必要なものも含め)
・薬剤準備(鎮痛・鎮静・筋弛緩・気管攣縮予防/頭蓋内圧亢進予防)
→血行動態の悪化や症状の悪化を招かない薬剤を選択
→挿管後や困難気道の場合の血行動態の変化をふまえた準備
(負荷様補液・超即効型β遮断薬・血管作動薬など)
・喉頭展開時にはsniffing position(=匂いを嗅ぐ姿勢)が基本
※肩枕はダメ!頭部への枕が有効
⇩
〈挿管後の酸素化の維持〉
・酸素化評価や肺リクルートメント
ここまでを一連の流れと想定しながら、頭の中でもいいのでシュミレーションを何度も行なっておくことが大切です。また、スムーズに挿管ができる場合ばかりではないので、食道挿管になってしまった場合や緊張性気胸を引き起こした場合、高血圧・低血圧・徐脈など、血行動態の異常も何が原因で起こりうるのか予測して日頃からおきましょう。それに備えて対応できる準備を常にイメージトレーニングしておくと、いざという時に焦らず対応できる様になります。
人工呼吸器の適応
気管挿管の適応に加え、陽圧呼吸管理が必要な場合が人工呼吸器の適応となります。
簡単にいうとNPPVが使えない時とNPPVでも呼吸状態が改善しない時ですね。
①急性・慢性呼吸不全(肺炎・心不全、COPD急性増悪など)
②難治性低酸素血症(ARDSなど)
③気道閉塞や狭窄などによる気道保護困難(脳幹梗塞、喘息発作、顔面外傷など)
2)人工呼吸器における合併症
①人工気道・回路によるもの
・VAP(人工呼吸器関連肺炎)
・気道クリアランスの低下
②陽圧換気・高濃度酸素投与によるもの
・肺障害(VILI:Ventilator Induced lung injury)
・心拍出量低下や腎血流量低下、頭蓋内圧上昇など各臓器への影響
・酸素中毒
③体位・体重によるもの
・荷重側肺障害(DLI)
その他①〜③の要因が複合的に合わさったもの
・皮下気腫
・精神的ストレス
・上部消化管出血
・換気血流比不均衡(シャント・死腔が増大)
・イレウス
以上の様に人工呼吸器による合併症は多々あります。
その中で最も重要なのが人工呼吸器誘発性肺障害(VILI)です。
VILIの主な因子は?
一言で言えば、高用量の換気による肺の過膨張で起こしうると言われています。
発生要因としてあげられるのは以下になります。
①圧肺損傷(Barotauma)
・1回換気量が大きい
②酸素毒性(oxygen toxicity)
・長時間にわたる高濃度酸素
③量肺損傷(volutrauma)
・局所的な過膨張→肺サーファクタントの破壊→肺コンプライアンスの低下
・高プラトー圧
④虚脱性肺損傷(atelectrauma)
・肺胞開閉サイクルのストレス、局所低酸素による肺胞虚脱=無気肺
⑤炎症性肺損傷(biotrauma)
・③や④により肺内炎症性メディエーターが活性化し肺障害を起こし、ARDSを増加、全身性に循環されやがてはMODS(多臓器機能不全症候群)
人工呼吸器合併症を起こさないために
大前提としては・・・
・原疾患の治療と呼吸循環の安定を図り、人工呼吸器からの早期離脱 を目指す
・適切な人工呼吸器管理を行う
〈VAP予防〉
・ベッドギャッジアップ30〜45度
・カフ上部からの垂れ込み防止(適切なカフ圧・カフ上部吸引)
・マウスケア
・スタンダードプリコーションと清潔な回路の維持
など
〈VILI予防〉肺保護戦略に基づいた人工呼吸器管理
・低一回換気量、低プラトー圧、適切なPEEPが有効と言われている
・適切な換気量やモードにおいてもこれというものはまだなく、指標としては駆動圧か経肺圧かなど、今後の課題も残っている
・肺胞リクルートメント
・48〜72時間で酸素化を保ちながらFIO2:0.5以下まで下げる
など・・・現在進行形で予防のための研究が進められています
〈体位・体重による合併症の予防〉
・適切なエアマットの設定
・体位変換や体位ドレナージ
・呼吸理学療法やリハビリ
など
以上が人工呼吸器の適応と合併症・予防についてになります。
従来ARDSに用いられた肺保護換気が、現在はARDS以外でもARDSへの進行を予防するとされています。2000年にARDS Net workの報告によって一気にlow-tidal、高CO2許容の認識が広まり肺保護換気が近年の呼吸器管理のスタンダードとなりつつあります。
医療情報やエビデンス・医療や看護の常識も日々変わっていきますが、一つずつ取り入れ検証してみたり、ベストな方法を見つけ出せれば良いのではないでしょうか。
本日はこの辺で、、、
おとーふ。
↓人工呼吸器管理シリーズのつづきはコチラ↓
人工呼吸器管理⑵人工呼吸器の役割と設定のポイント - かんごノート by logical nurse
人工呼吸器管理⑶人工呼吸器のモードと換気様式 - かんごノート by logical nurse
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