かんごノート by logical nurse

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血液ガス分析のよみ方⑵酸塩基平衡を知る5ステップと血ガス採取の注意点

2018/3/15  更新:2018/7/21

血液ガス分の読み方第2回になります。1回目で「分けて考える」を強調したと思いますが、本日は体内の「酸塩基平衡」の状態に焦点をあてていきます。

 酸塩基平衡が保てない=生命の危機!?

「血液ガスでなぜ生命の危機?」と思うかもしれませんが、血液のpHの基準値って7.40でアルカリ性に傾いてますね。これってどうしてでしょう? 

生命維持活動で主要なものは、エネルギーであり、それをつくる上で大切なのは酸素と栄養素になります。これらはそのままエネルギーになるわけではなく、体内で呼吸や代謝を行うことでエネルギーとなります。そのエネルギーを作るなどの活動の中で、体には有害な産物として生まれるもののほとんどが「酸」になるわけです。


例えば…呼吸をすれば酸素を取り込む代わりに二酸化炭素(CO2=酸)が生まれますし、糖質を代謝すれば乳酸などの有機酸、脂質を代謝すればケトン体などそのほとんどが「酸」です。

 

というわけで、誰かが調整役をしなければ生命維持活動を行うだけで代謝産物による酸が増え、「体はどんどん酸性に傾いていく」ということになります。

 

そこで、体内での「酸の調整役」をかって出てくれている3本柱が以下になります。

①主として血液などの体液が営む緩衝作用
呼吸によるpCO2の調整
によるHCO3-の再吸収と産生による不揮発酸の排泄

この大切な機能が障害されているか否かを見極める1つの手段が「血ガス」になります。
そのため、始めにあげた「なぜ血液はアルカリ性なのか?」というのは上記の①にあたり、血液とやりとりをする細胞のpHは7.00と中性になります。このpHの差があることで酸塩基が傾いた時に、酸の因子であるH+をK+と交換することで、血液の酸性化を抑え、バランスとろうと働きます。

要するに、生理的範囲を超えた酸塩基の傾き(特に酸性化)は、重要な酸の調整役が障害されている状態であり、生命の危機を示すと言えるわけです。

 

1)酸・塩基の定義

ここで、酸・塩基の定義ですが少々長くなった上記の生命の危機の話をなんとなく理解してもらえれば、この定義も納得できると思います。

 

〈Brønstedの定義〉

酸とは「H+を離す」
塩基とは「H+を受け取る」

 

とされています。これだけ見ると、「血ガスでH+なんて出てこない」と思ったかもしれませんが、先ほどのお話を思い出してもらうと、細胞レベルでのイオン交換で「H+」がキーワードとなるわけです。

f:id:logicalnurse:20171130013549j:plainただし、イオンレベルを血ガスのように数値化や定量化すると、とんでもない桁数になりワケのワカラナイことになります(笑)。なので、条件を整え、見やすくわかりやすくしてくれたものが血液ガス分析ということになります。

 

体内の酸は大きく分けてこの2つ

 

呼吸酸(揮発酸)→から出す
 呼吸による細胞の代謝で生まれたCO2 

代謝(不揮発酸)→から出す
 栄養素(糖質・タンパク質・脂質など)の代謝で生まれた有機酸・リン酸・ケトン体など


この辺は後々名称が出てきたり、つながってくるのでなんとなく頭に入れといてください。

では、早速本題の血ガスを読むに入りたいと思います。


2)「酸塩基平衡」の状態は5stepで血ガスを読む

   以下5stepの順にみていきます
 step1.pH
 step2.呼吸性or代謝
 step3.代償
 step4.AG
 step5.補正HCO3-

 

✔︎「酸塩基平衡」を読む上で必要な血ガス項目と正常値は 以下4つになります。

 ①pH 7.400±0.05
 ②PaCO2 40±5
 ③HCO3- 24±2
 ④BE -3〜3

Step1. pHをみる。

《基準値:7.35~7.45》

・pH7.35以下:アシデミア

・pH7.45以上:アルカレミア 

f:id:logicalnurse:20171126082601j:plainよく聞くアシドーシスとアルカローシスは?

血液が酸性に傾く病態のことをアシドーシスアルカリ性に傾く病態をアルカローシスと言います。pHの増減に関しては、上記のようにアシデミア・アルカレミアと表現されます。 

 

Step2. 呼吸性代謝かをみる。

ここでは、一次性(原発)病態を把握し二次性病態の鑑別をします。
基本パターン(一次性病態)は以下✔︎マークの4つになります。

 

HCO3-の(=塩基)増減がある場合→代謝

✔︎HCO3-減少=代謝性アシドーシス
→Step3へ

✔︎HCO3-増加=代謝性アルカローシス
<原因として考えられること>
(H+の喪失とHCO3-の排泄低下)
・有効循環血漿量の減少
・アルドステロン症によるもの
・嘔吐や利尿剤使用による高度K欠乏  など

 

PaCO2(=)の増減がある場合→呼吸性

✔︎PaCO2増加=呼吸性アシドーシス
<原因として考えられること>
・呼吸中枢抑制(喘息、COPD、脊髄損傷、麻薬/麻酔過量投与、脳血管障害など)
 ※通常はStep3の腎による代償でpHが是正されますが、腎機能障害がある場合には代償機構が働かずに重症化することもあります。
 ※高CO2血症に伴うアシドーシスもpH7.15~7.20程度までは許容しようという動向もあります。加えて、「PaCO2上昇を許容し、肺に愛護的な呼吸条件にし、陽圧換気による肺損傷を防止することでARDSの治療成績が向上する」という肺保護戦略の概念も出てきています。


✔PaCO2減少=呼吸性アルカローシス
→原因として考えられることは
・過換気
・低酸素血症による過換気
・脳幹病変 ほか呼吸中枢性による
・肝硬変、妊娠   など

BEも参考程度にみてみましょうf:id:logicalnurse:20171102030951p:plain

このBE(base excess:ベースエクセス)は、一定の条件(体温37度、pCO240Torr)下にある血液を、pH7.4にするための過剰または欠乏塩基を数値化したものになります。
pCO2の値を規定しているので、pCO2の増減で決まる呼吸性因子には左右されません。
HCO3-は代謝性以外にも、呼吸性、代償性でも変化します。そのため、BEの増減も認められれば「代謝性」と言え「代謝性因子の指標」とも言われています。

一見便利なようですが、酸塩基平衡混合タイプではBEのみを指標にすると誤った認識となるため注意が必要です。

BE基準範囲:-3.2~+2.7mmol/lと男女比で前後があり、0±2とされていることも多いですが、だいたい0±3くらいと覚えても問題ないです。 

 

Step3. 代償の程度をみる。 

ここでは、代償が十分なのかそれとも不足しているかをみていきます。
「代償」とは酸塩基平衡が崩れた時(=CO2 or HCO3-の異常がある時)に、pH7.40のバランスが取れた状態に戻そうとする生体反応の一つです。あくまでも、「pH7.40に近づけるだけでそれを超えない」というのが原則です。それを超えるものは、また別の酸塩基平衡異常となります。

【酸塩基平衡の調節】

CO2は「肺」により「呼吸」で酸を調整
HCO3-は「腎」により「産生・再吸収(代謝)」で塩基を調整

→この「呼吸」と「代謝」どちらかの調節システムに異常をきたした時、代わりに調整しようとするのが「代償」になります。


【代償のポイント】

✔︎代謝性疾患(腎)→呼吸性(肺)に代償(速やかに
 →数秒〜数分で代償開始し数時間以内に代償

 
✔︎呼吸性疾患(肺)→代謝性(腎)に代償(ゆっくり
 →数日(2~5日)かかって代償 

 

◉これらをふまえて、代償の予測範囲をみていきます
正常値にこの予測範囲の補正値をプラスした値が、「代償範囲」になります。

【代償性変化の予測範囲】

見方:Step2の一次性病態の項目をみて、それぞれの代償予測をみます。

✔︎代謝性アシドーシスHCO3-↓:代償としてpCO2↓
予測⊿PaCO2=⊿HCO3±5-×1.2
(限界値⊿PaCO2=15mmHg)
✔︎代謝性アルカローシスHCO3-↑:代償としてpCO2↑
予測⊿PaCO2=⊿HCO3±5-×0.7
(限界値⊿PaCO2=60mmHg)


✔︎呼吸性アシドーシス(急性)pCO2↑:代償としてHCO3-↓
予測⊿HCO3-=⊿PaCO2±3×0.1
(限界値⊿HCO3-=30mmHg)
✔︎呼吸性アシドーシス(慢性)
予測⊿HCO3-=⊿PaCO2±4×0.4
(限界値⊿HCO3-=42mmHg)


✔︎呼吸性アルカローシス(急性)pCO2↓:代償としてHCO3-↑
予測⊿HCO3-=⊿PaCO2±3×0.1
(限界値⊿HCO3-=18mmHg)
✔︎呼吸性アルカローシス(慢性)
予測⊿HCO3-=⊿PaCO2×0.2~0.5
(限界値⊿HCO3-=12mmHg)

  

代償の予測範囲はどうでしたか?
↓ 

代償性変化が予測範囲内の場合
Step2.の)基本パターンの一次性病態+代償が適切にされている
 ※呼吸性パターンの場合は、HCO3-の代償の有無で急性か慢性かが分かります。


代償性変化が予測範囲を逸脱している場合
基本パターンの一次性病態+代償しきれていない
一次性病態以外の酸塩基平衡障害が合併している

 

f:id:logicalnurse:20171130013549j:plain「代償性変化の有無」を大まかに知りたい時は

苦手意識に加えて、上記のようなたくさんの計算式を見せられると・・・「もう無理です。」っていう方は、BEとPaCO2の2点に注目してみるとおおざっぱに「代償性変化」が働いているなというのは分かります。


 ✔︎BEとPaCO2の両方が異常値のとき=代償性変化

 

加えて、代謝性アシドーシス・アルカローシスの時のみ下記で、代償が適切にされていると分かります。

✔︎HCO3-+15≒pCO2

 

☆ちなみに、代償性反応で完全にpHが正常化することは基本的にないです・・。

 

Step4. AG(アニオンギャップ)をみる。

代謝性アシドーシス」の場合の追加ステップとして、アニオンギャップ→補正HCO3-をみていくとされていることも多いのですが、一見正常な血ガスデータにみえる時でもアニオンギャップを計算すると「実はいくつかの酸塩基平衡異常が合わさっていた!」なんてパターンが結構あります。

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plainなので、アニオンギャップを通常のステップとして見るクセをつけておくと良いですね。

また、最近は血ガスのパラメーターとしてAGがすでに算出される機器もあるのですぐにチェックすることができますね。

 

◉そもそも「アニオンギャップ」ってなに?
一言でいうと「糸球体から濾過される不揮発性酸の間接的な指標」と言えますが、少し難しい感じもしますね。

体内のバランスとして陽イオン=陰イオン(この陽イオンをカオチン、陰イオンをアニオンと呼ぶ)が成り立ちます。
例えば、陽イオンを10としたならば=陰イオンも10となります。
陽イオンを10とした時に、ナトリウムイオン(Na+)が占める割合を8とします。ならば、陰イオンも8になるわけですが、陰イオンの中で測定できる主要なイオンはクロール(Cl-)重炭酸(HCO3-)になります。
それぞれクロールを6、重炭酸を1とします。
そうすると、陽イオンのナトリウム8に対して、陰イオンクロール6と重炭酸1
なので、8=6+1?でイコールになりません。
陰イオンの残りの1を占めるものが、不揮発性酸であり、これがアニオンギャップなのです。

このAGである不揮発性酸は血ガスでは「測定できないイオン」とされています。そのうちほとんどを占めるのが、アルブミンです。そのため、AGが低下すれば低アルブミン血漿も疑われるというわけです。

f:id:logicalnurse:20180315123706j:plain

アニオンギャップのイメージ

陽イオン・陰イオンは共に定量ですので、その枠内でそれぞれ成分の量を増減させています。
HCO3-が低下すると代謝性アシドーシスと言えますが、HCO3-が減った分陰イオンの定量の枠で「すき間=ギャップ」ができては困るので、その分をAGである不揮発性酸を増やしてすき間を埋めた場合が、高アニオンギャップ性(AG開大性)代謝性アシドーシスとなります。

 

☆では、アニオンギャップの正体が分かったところで計算していきましょう。 

 

【AG(アニオンギャップ)の計算式】

 AG=Na+ −(Cl- + HCO3-)

(正常値:12±2 mEq/LH2O)

 

※AGはアルブミン値に左右され、Alb1g/dl低下=AG2.5低下する
アルブミン血症の場合のAG正常値:補正AG=AG+(4-Alb)×2.5

 

→計算して出たAGが正常値よりどうなっているかをみる
 

AGが増加の場合
=AG開大性アシドーシス→Step5へ


<原因として考えられること>
・糖尿病性ケトアシドーシス
 (慢性アルコール中毒、低栄養、軽度絶食など)
・乳酸アシドーシス
 (敗血症、痙攣発作後、腸管壊死などの臓器虚血など)
・腎不全
 (尿酸塩、リン酸塩など尿毒性物質の蓄積)
・薬物中毒 など
 (アスピリンエタノール・鉄剤・サリチル酸など)

 

☆頭文字でKUSSMAL-Pなんて言われています
K(Ketoacidosis):ケトアシドーシス
U(Uremia):尿毒症
S(Salicylic acid):サリチル酸
S(Sepsis):敗血症
M(Methanol):メタノール
A(Alclholic/Aspirin intoxication):アルコール/アスピリン中毒
L(Lactic acidosis):乳酸アシドーシス
P(Paraldehyde):パラアルデヒド
  

AGが正常の場合
=アニオンギャップ正常性(AG非開大性)代謝性アシドーシス


<原因として考えられること>
・消化管および腎からのHCO3-喪失(下痢、ドレナージ、瘻孔、尿管S状結腸吻合)
・体液過剰
・尿細管性アシドーシス(RTA
 (遠位型・近位型・高K血症型)
・アセタゾラミド摂取時
・腎不全初期   など

 

☆こちらも頭文字シリーズHARD-UPまたはUSED-CARS
H(Hyperalimentation):過栄養
A(Acetazolamide/Addison's disease):アセタゾラミド /アジソン病
R(Renal tubular acidosis):尿細管性アシドーシス
D(Diarhea):下痢
U(Ureteroenteric fistula):尿管腸瘻
P(Pancreatic fistula/Parenteral saline):膵液瘻/生理的食塩水大量補液
または
U(Uretero-enterostomy):尿管腸吻合
S(Saline-administration):生理食塩水投与
E(Endocrine/hyperparathyroidism):内分泌(副甲状腺機能亢進症
D(Diarhea):下痢
C(Carbonic anhydrase inhibitor):炭酸脱水素酵素阻害剤
A(Ammonium chloride):塩化アンモニウム
R(Renal tubular acidosis):腎尿細管アシドーシス
S(Spironolactone):スピロノラクトン 

 

AGが低下の場合
=低アニオンギャップ性アシドーシス</p>

 

<原因として考えられること>
・多くは検査上のエラー!
・低アルブミン
・リチウム中毒 など

 

☆こちらはHAMBLと言われています
HA(Hypo Alubuminemia):低アルブミン血症
M(Myeloma):骨髄腫
B(Bromide):臭化物中毒
L(Lithium):リチウム中毒

 

Step5.補正HCO3-をみる  

高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスの場合に、更なるアシドーシスやアルカローシスの存在を補正HCO3-の値でチェックします。
本来AGが増えた分HCO3-は減っているはずなので、これらの異常がなければHCO3-にAGを足すと正常値になるはずです。

 

【補正HCO3-の計算式】

 HCO3-=HCO3-+ΔAG
 
(正常値:24±4)

 

正常値よりも5以上高い場合
混合性アルカローシス合併が疑われる

 

正常値よりも5以上低い場合
混合性アシドーシスの合併が疑われる

 

さらに血漿浸透圧ギャップを計算するなどのステップもありますが、臨床上ではさほど必要となって来ないと思うので以上で、血ガスの「酸塩基平衡」を読むステップは終了とします。
データのみではなく、必ず臨床での状態にも目を向けてみていくようにしましょう。

3)さいごに血ガス採取の注意点

・採取時に混入したエアはすぐに抜き、空気に触れないようキャップをします。
→混入したエアにより約2分でPaO2、3分でPaCO2データに影響があると言われています。

エア抜き後、ヘパリン混和のためシリンジを転倒混和とキリを回すように混和させ、速やかに測定します。

測定まで20分以上経過すると、PaO2が低下してしまうため採取タイミングと、採取後置きっぱなしとならないよう検体の取り扱いに注意します。

・血ガス採取時は、モニターだけではなく実測の呼吸数にも注意し、呼吸状態や症状の観察を行います。

 

これで2回にわたってとり上げた「血ガスの読み方」については一旦、おしまいになります。

血ガス第1回の「呼吸を知る」編はこちらからもどうぞ。

 

www.logicalnurse.com 

血ガスについては、ナースではそこまで必要ないと思われる方もいるかもしれませんが、状態と合わせたデータの変化や異常は「いち早く誰かが気付けばいい」ことなのです。頭の片隅にでも気づくきっかけが残って、気づける誰かが1人でも増えればいいなと思います。

 

それでは、また次回。 

おとーふでした。