腹部コンパートメント症候群(ACS)看護師が知っておくべきポイント
2018/6/23
本日は腹部コンパートメント症候群(ACS:Abdominal Compartment Syndrome)についてです。
クリティカルな場面では近年、目にすることも増えてきている病態(正式には病態の総称)ではないでしょうか?
発症すると重症化するため、ERやICUでの管理が殆どになります。
ダメージコントロール手術が日常的に行われるようになり、二期的加療への移行段階で発症したりとICUにいても経験することが多くなってきました。
おかしいなと感じた時に「あ、もしかして?」と疑える引き出しを持てるよう、知っておくと良いと思います。
腹部コンパートメント症候群を知って看護に活かす
◉まず概要をさらっと
腹腔内圧の上昇が有害であることは古くから知られていましたが、腹部コンパートメント症候群というワードとして急速に認知され、一般的な概念となったのはここ十数年ではないでしょうか。近年、世界でも関心が高く早期対応が救命率を上げるともいわれています。
2004年に世界腹部コンパートメント症候群学会(WSACS:World Society of ACS)が発足し、IAH/ACSについてのガイドラインを発表。2013年に更新。
腹腔内圧測定のデバイスも増えてますが、膀胱内圧測定が主流なようです。
【本日の内容でよく出てくる略語・用語】
ACS:腹部コンパートメント症候群
Abdominal Compartment Syndrom
IAP:腹腔内圧
Intra Abdominal Pressure
IAH:腹腔内高血圧
Intra Abdominal Hypertension
腹部コンパートメント症候群とは
ACSの定義
「IAP>20mmHgの遷延、かつ新規に臓器不全が発症した状態」IAHの定義
「IAP>12mmHgが持続、もしくは反復する状態」ICM32(11):2006より引用
と、されています。
平たく言うと出血や血腫・腸管浮腫などにより腹腔内圧が上昇し、それにより呼吸・循環障害が起こる病態の総称をACSと言います。
重篤な症状を引き起こすまではいってないけれど、「腹腔内圧上がってるよーそろそろACSになりそうだよー危険だよー。」というのがIAHといった感じでしょうか。
◉ちなみに、IAPの測定は臥位、呼気終末時、腹筋弛緩、中腋窩線を0とします。
ACSの発生機序
では、IAPの上昇がどのようにACSを引き起こすのでしょうか?
①IAPの上昇、腹壁コンプライアンスの低下(→腹壁の伸展も限界をむかえる)
↓
②腹腔を目一杯使って、逃げ場を失った圧は周囲へと圧を分散させようとする
↓
③腹腔の周囲にあるのは血管や臓器
↓
④主に横隔膜・下大静脈・大動脈・内臓(肝臓・腸管)への圧排
↓
⑤循環障害発生
↓
⑥アシドーシス
↓
⑦多臓器不全
と、大まかにはこのような流れになります。
この流れを見ると一目瞭然で、①IAPの上昇の時点もしくはそれ以前で気付くことが大切だということがわかりますね。
ACSの病態
次に、IAP上昇により引き起こされる病態についてみていきましょう。
コンパートメントとは区画のことであり、ACSは腹部の区画内圧が高まり周囲を圧排することで様々な症状が併発する症候群です。よって、圧排されて起こる主な症状は前項の④の部分にあたります。
【横隔膜の圧迫で起こること】
・胸腔内圧の上昇(無気肺・換気量低下)
→気道内圧の上昇
→心収縮能低下(心臓圧迫による)
【下大静脈の圧排で起こること】
・静脈還流の障害
→心拍出量の減少
→循環血液量の減少
→DVTリスクの上昇
→頭蓋内圧上昇
【大動脈の圧迫で起こること】
・後負荷の上昇
→心拍出量の低下
・腎静脈圧迫による乏尿
【内臓の圧迫で起こること】
・循環障害による臓器虚血
→肝障害・腎障害
・バクテリアルトランスロケーション
などが挙げられますが、圧迫が続くことにより抹消循環障害、虚血による臓器及び細胞レベルでの障害を引き起こします。これらの侵襲により、サイトカイン・フリーラジカルなどが産生され全身性の炎症が引き起こされ、細胞障害・代謝障害などからアシドーシス、多臓器不全へと悪循環を起こしていくわけです。
ACSの分類とグレード
ACSは原因により「primary ACS」と「secondary ACS」に分類されます。
primary ACS
→腹腔内の病変によるIAPの上昇
原因:血腫・腫瘍など
secondary ACS
→腹腔内に直接的な原因となる病変がないIAPの上昇
原因:出血による大量輸血、膵炎や腹部外科手術などの大量輸液後の腸管浮腫、敗血症のEGDT、重症熱傷、人工呼吸器管理、低体温なども因子とされます。
◉発症頻度としては、secondary ACSの方が高い。
IAHのグレード
GradeⅠ IAP12-15mmHg
GradeⅡ IAP16-20mmHg
GradeⅢ IAP21-25mmHg
GradeⅣ IAP25mmHgWSACSガイドラインICM2013より
ダメージコントロールサージェリーとの関連って?
腹部救急や重症外傷において、①全身状態の改善を待たずに、出血と感染コントロールを主にクリティカルな状態から引き上げるための初回手術、②ICUでの全身状態の改善を図る、③根治のための予定再手術という3段階で行われる外科的アプローチのことをダメージコントロール手術といいます。現在、積極的にダメージコントロールが選択されることが多いですが、著明な腸管浮腫、後腹膜血腫、パッキングなどによるACSの合併が高いことも知っておかなければなりません。一番の要因は、減圧しきれていないのに、無理な閉腹を行うことでACSをきたします。
この場合、腹部の創部を開放のままICUで加療を行い、閉腹が可能となった時点で創閉鎖を行います。
ACSに対する治療
治療についても詳細はWSACSのガイドラインに内科的治療のアルゴリズムが示されています。参考元:WSACSガイドラインICM2013
①腸管内減圧
→NG・肛門管挿入、経腸栄養減量・中止、CF
②腹腔内減圧
→エコー・CT、ドレナージ
③腹壁コンプライアンスの改善
→鎮痛・鎮静・筋弛緩、逆トレンデレンブルグ体位
④輸液管理の適正化
→輸液・体液バランス管理、利尿薬、透析考慮
⑤全身及び局所血液還流の適正化
→循環動態モニタリング及びEnd pointを設定した輸液管理
以上5項目を管理指針とし、前項グレードのGradeⅠ以上(=IAP12mmHg以上)で内科的治療を開始。以降は項目ごとに病態に応じて段階的に治療を提示している。(エビデンスは様々)最終ステップとして、IAP>20mmHgで新たな臓器障害/不全の合併がある場合は開腹による外科的腹部減圧を行うべきとされています。
結局のところ治療は、いかに減圧するか。
そして、いかにACSへ移行させずに早期発見・予防できるか。
が、とても大切です。
ACSをどう予防するか
診断基準であるIAPの上昇をいち早くキャッチすることが、予防へ繋がります。
そのため、WSACSでも4時間毎のIAP測定が推奨されています。
腹腔内圧測定方法
IAP測定方法としては、膀胱内圧測定が近似値が得られ一般的かつ主流です。
専用のデバイスでの測定、もしくはBaカテーテルにモニタリングキットをつないでの測定になります。専用デバイスの場合は、各メーカーの取扱説明書を参照して下さい。
【Baカテーテルでの膀胱内圧測定方法】
①Baカテーテルより膀胱内へ生食25〜50mlを注入しクランプ
②採尿ポートに針を留置しモニタリングキットへ繋ぐ(CVP測定用などで代用可)
IAHにおいては、定期的なIAPの測定と前項治療に加え、直接的な影響を受けない血中乳酸値やBE、ScvO2と共に指標としていきます。
ACS/IAHの看護でのポイント
✔︎定期的なIAPの測定(測定方法と測定基準の理解)
✔︎定期的な血液ガス(ABG)の測定
→Lac、BE、酸素化能など呼吸・代謝障害のチェック
✔︎IAP上昇による身体への影響を考慮してケアを行う
→頭部挙上や体位変換でのIAP上昇・循環障害への対応
→IAPを考慮した人工呼吸器設定
→IAP上昇による無気肺などの呼吸障害への対応
△腹囲測定
→腹部膨隆が著明であり測定されることも多いですが、IAPとの関連はなし。
個人的には、医師の指示があれば行うくらいで良いと思います。
これらを ICUでの一般的な全身管理に加えて行っていけると、ACSの予防へ繋がる看護ができるのではないでしょうか。ACSは重篤化しやすく救命率も一層低くなるため、自信を持って看護が行えるように、確実な知識と手技を身につけ、チームでの情報共有を行い、常に予測を立てながら患者さんの状態をみていきましょう。
それでは、今日はこの辺で。
おとーふ。