臨床・看護で役立つ体液バランス評価②脱水?溢水?観察項目とその前に!?
2019/9/1
こんにちは、前回に続き「臨床・看護で役立つ体液バランス評価」の第2回になります。
・「脱水だからボリューム入れよう。」と言われたけど、医師は何を見て判断しているの?
・「尿量が少ないなぁ。」これって、脱水?それとも溢水で尿がでないの?どっちだろう。
・尿量が減ったことを報告したいけれど、あわせてチェックする所見ってなんだろう?
臨床でこのような場面に遭遇することはありませんか?こんな困ったをなくすために、身体所見やモニタリングパラメーター・検査所見など「具体的に何を見てどのように考えていけば良いのか」についてまとめていきます。
循環動態に異常が!さてどうする
脱水にせよ溢水にせよ体液バランスの崩れは、大なり小なり循環動態へ影響を及ぼします。異常としてパッと目に飛び込んでくるのは、やはり身体所見と循環動態などの異常、モニタリングの変化だと思います。検査結果でわかることも多いですが、結果が出るまでのタイムラグがあるため、気づきやすいのは先述の方ですね。
◎治療までの考え方をシンプルに書くと・・・
①症状・異常所見
血圧が下がってきた!尿量も減ってきた!
Ns:先生、Aさんの血圧が下がってきて尿量も減っています!
↓
②所見を集めてルールアウト
Dr:心拍数はどのくらい?バランスはどうですか?CVPは?これからエコーをあててみます、レントゲンと血液検査も至急お願いします。
Ns:心拍数は120〜130くらいで、バランスはマイナスバランスです。CVPは3まで下がっています。検査ですね、分かりました。
↓
③総合的に判断
Dr:循環血液量が不足している可能性が高いな。検査の結果も考慮すると、血管内脱水もあるようだ。
↓
④診断・治療開始
Dr:ボリュームが不足してきて脱水を起こしているので、補液とアルブミン投与をお願いします。
Ns:分かりました。
新たな症状や異常所見が出ると、このような感じで治療が進んでいきます。Nsが関わるのに大切なポイントは主に①か②の場面で、③④はDrが主ですね。
よって、その場に医師がいる場合はいいのですが、夜間や手術中など不在の場合にNsが状態を伝えなければなりませんよね。その時に、いかに①や②の情報が正確で的を得ているかによって、その全てが判断材料になり、より精度のある的確な判断が可能となり迅速な治療が導かれることになります。
この流れは今回の脱水・溢水のテーマに限らず、初療での対応時や入院患者さんの急な症状の発生時、急変時などどんな場合でも同じです。指示として出される検査・治療の内容が違えど流れは変わりません。
<情報量と正確性>
情報量は持っている知識・経験などによって収集量が変わってきます。(脱水・溢水に関しては、今回習得してしまいましょう!)
ただし、正確性についてはたった一つ。
必ずトラブルシューティングをすることです。
トラブルシューティングとは、トラブル(不具合)を解決するための手順のことです。モニタリングされていると、ついその値を信用してしまうことが多いですがそのデータが本当に正確かどうかをまずは確認してください。
多い事例を挙げると・・・
・血圧が急に下がった!
→マンシェットが肘や前腕までずり落ちていた。巻き方がずれていた。
→カテコラミンの交換後、三活がクランプされたままであった。ルートが漏れて薬剤が投与されていなかった。
・血圧が急に上がった!
→ギャッジアップしたけれど、Aラインのトランスデューサーの位置を調整し忘れていた。
・尿量が減った、出ない!
→下腹部が緊満し膀胱カテーテルが閉塞していた。エアロックがかかっていた。
と、こんな感じです。一度くらいは身の回りで経験があるのではないでしょうか?ないにこしたことはないのですが。
ちょっとしたことのように感じるかもしれませんが、この間違えたデータを鵜呑みにして予測指示を実施してしまったり、医師に報告して新たな指示や治療がなされた場合など・・・本当は下がっていない血圧に昇圧剤や不必要な輸液を行なってしまったり、血圧は上がっていないのに降圧剤を投与してしまったり・・・想像するととても怖いアクシデントが発生してしまう結末になりますよね。
そして、この正確に測定されている確認をすることを習慣化してしまいましょう。このトラブルシューティングを怠る人は、必ずどこかでヒヤリハッとを経験するでしょうし、大きな事故にならないことを願うばかりです。
ちょっと強めに言いましたが、そのくらい大切なポイントになります。
ここまで長々と書きましたが、この見出しの「循環動態に異常が!さてどうする」でやるべきことはもう分かりましたね。
・まずは情報の正確性=トラブルシューティングを行う。
・可能な限りで異常が起きていることへの関連情報を素早く集める。
・情報収集も大切だけれど、時間のかかりすぎはNG!異常はすぐに知らせ、報告のタイミングを逃さない。→より早い対応が先決です。
このポイントを大前提として、いかにスピーディーに観察の目を持って情報収集し報告できるかが異常の早期対応に繋がります。
脱水の見るべき観察項目はココ
<モニタリング >
✔︎血圧低下
→起立時血圧低下、体重の10%以上の水分喪失で仰臥位でも低下・意識障害
✔︎パルスオキシメーターの波形変動
→変動幅大きい=血管内ボリューム減少
✔︎動脈圧波形の変化
・呼吸性変動
・収縮期波形の先鋭化
・ディクロティックノッチの消失
・※SVV≧15%
✔︎心拍数増加
・心房細動
✔︎CVPの低下≦5cmH2O
※SVVについてはフロートラックセンサーの過去記事に詳細あります。
<身体所見>
✔︎尿量減少<0.5ml/kg/hr
✔︎尿比重上昇≧1.020
✔︎体重減少
✔︎マイナスバランス
✔︎口渇・皮膚や粘膜の乾燥
✔︎皮膚ツルゴールの低下
✔︎頸静脈の虚脱
✔︎CRT ≧3秒(成人) / >4秒(高齢者)
✔︎浮腫・胸腹水増加
→手術侵襲や感染などの炎症反応による水分のサードスペースへの移動
炎症データもチェック(CRP/WBC)
<検査所見>
✔︎エコーIVC<15〜20mm/呼吸性変動あり
IVC5mm以下・虚脱して測定不可=血管内脱水
✔︎Ht・Hb・Alb・浸透圧の相対的上昇
✔︎BUN/Cre比>10〜20
✔︎尿中Na<20mEq/L未満/FENa<0.1%未満
溢水の見るべき観察項目はココ
<モニタリング>
✔︎血圧上昇→体液過剰が進行すると低下
✔︎心拍数減少→体液過剰が進行すると増加
※上記過去記事「フロートラックセンサー看護」のFrank-Starlingの法則を参照
✔︎CVP上昇>10〜15mmHg
<身体所見>
✔︎体重増加
✔︎プラスバランス
✔︎体液貯留(浮腫・腹水・胸水)
✔︎肺水腫
✔︎頸静脈の怒張
<検査所見>
✔︎エコーIVC>20〜21mm/呼吸性変動なし
✔︎胸部X線
・心胸郭比拡大
・肺動脈拡大(Butterfly shadow)
✔︎BNP上昇≧18.4〜20pg/mL
✔︎Ht・Albの相対的低下
脱水・溢水への対応と治療
脱水の場合には、細胞外液・内液などどの部分で体液が喪失され喪失されてから更なる水分移動が起こる時間や、電解質量、どこにどのくらいの輸液をとどまらせたいか配分特性なども考えられて、輸液や輸血が選択されます。
循環血液量の不足時には細胞外液、細胞内の水分喪失の場合は維持液(3号液)が投与されます。
よく使用する輸液製剤の種類や特徴・体内分布などを知っておくといいですね。
また、溢水の場合には塩分制限や利尿薬の使用、限外濾過(E-CUM)などが考慮されます。
以上2回にわたって、体液バランス評価をする上でポイントとなる視点をまとめてみましたがいかがでしたか?今回の内容は、「お困りナースシリーズ」も兼ねて書いた部分もあるので「知ってることばっかりだった〜」なんて方も多かったかもしれませんね。学習を深めるキーワードもいくつか出ていたと思います。興味があればもう少し詳しく学習してみてください。
「こんにちは」で書き始めたのに、うっかり更新が深夜になり誤字脱字が増えそうなので、今日はこの辺で。
おとーふ。