臨床・看護で役立つ体液バランス評価①体液生理の理解と異常を知る
2019/6/4
昨年末から更新がストップしてしまいましたが・・そんな間にも読者登録してくださったみなさま、ありがとうございます。嬉しい限りです。
本日は「体液バランスの評価」についてです。
現場で働く看護師さんにとって、体液評価の視点をもっているかそうでないかでは「患者さんの異常にいち早く気付けるか気づけないか。」を大きく左右します。
またICUなどでは水分バランスの管理をしたり、術後のvolume調整に悩まされることも多いのではないでしょうか?
実際、どのような所見や指標を使って体液量の評価をしているのでしょうか?
臨床で困らない知識と見方を知って、役立てていきましょうね〜。
体液生理の理解が要
体液バランスをみていく上で、まずは体液生理を理解することが重要になります。何故ならば、体液の管理は1つの要素では判断しきれず、様々な評価ポイントを複合的に考えていかなければならないためです。
例えば、全身性の浮腫を起こして尿が出ないからといって、安易に溢水や水を引こうと考え利尿剤を使用したりすることはとてもリスキーです。炎症などによる血管内から間質への多量の水分漏出でボリュームが低下し、生理的に循環を保とうとする調節機構が働いて循環を維持している可能性もあります。そういった時期に利尿をかければ、なんとか維持していた循環は破綻し一気に状態が悪化することも考えられます。
上記の事柄だけでも、身体所見・尿量・血液データ・循環動態・モニタリングなど様々な評価ポイントが複合的に絡みあっていることがわかりますね。
そうならないためにも、まずはシンプルに体液生理の理解をすすめましょう。
体液分画を知ろう
まずは体液の全体量を把握します。前回の記事で、成人の体液量はカラダの約60%でしたね。女性はやや少なめとなるので、以下が総体液量になります。(体重あたりのパーセンテージになります)
【総体液量】
男性:体重×60% 女性:体重×50%
【体液分画】
・細胞内液(ICF:intracellular fluid):40%
・細胞外液(ECF:extracellular fluid):20%
-間質:15%
-血管内:5%
↓では、例題で計算してみましょう。
Q:体重60kgの成人男性の場合の体液量は?
A:総体液量 36L
細胞内液 24L
細胞外液 12L(うち間質9L/血管内3L)
という内訳になります。
ここは前回記事「電解質異常の看護管理」でも触れていますので、復習したい方はそちらも確認してください。
体液分布の決め手を知ろう
体液は前項で述べたように3つのエリアに分かれていることが理解できましたね。
次に、この細胞内・外エリアごとの水分バランスを維持するために、決め手となる「水の引き寄せ因子」が存在することを学んでいきましょう。
↓水の引き寄せ因子の決め手
細胞内液:K(カリウム)
細胞外液(血管内と間質):Na(ナトリウム)
細胞外液(血管内):アルブミン
エリアと決め手の主役たちを忘れずに覚えてしまいましょう〜
細胞と細胞外は細胞膜で隔てられていますが、その細胞膜は半透膜という性質を持っており水は自由に行き来できるけれど、引き寄せ因子の主役である電解質は通れません。このように、エリアの組成因子が異なる=電解質組成が異なることで浸透圧により水分バランスが調節されています。
また、細胞外の血管内と間質の間はStarlingの法則により水分バランスが保たれています。
上記から考えると、単純ではありますがナトリウムが増えればそこに水が引き寄せられるため、ナトリウムが主役として存在する細胞外液にたくさんの水が引き寄せられシフトしてくることになります。
医師から「血管内脱水だから、アルブミン入れて〜」なんて言われたことはありませんか?これは血管内の水分ボリュームが不足しているため、引き寄せの主役であるアルブミン製剤を投与して血管内に水を留まらせる目的で、膠質浸透圧による水の移動をねらっているわけです。
というように、この辺の理解ができていると輸液の理解にも繋がっていきますね。
カラダの水分の調節系を知ろう
体液生理さいごのポイントは「体液量の調節系」についてです。
【体液量の調節系】
例えば、 水分の摂取量が低下すると血清Na濃度が上昇し、細胞内から細胞外へ水の移動が起こり細胞内脱水となります。このような場合に、視床下部がセンサーとなって、口渇・水分摂取が促され体内水分量が維持されるようになっています。
これらの恒常性を保つために最終的には効果発現に至る分けですが、この調節系はそれぞれが独立して機能すること、そしてそのほとんどを担っている臓器が「腎臓」であるということを覚えておきましょう。
体液量の異常(溢水と脱水)
体液生理の概要が学べましたので、次は体液量に異常をきたした場合についてです。
体液量の恒常性が保持できなくなったときといえば、過剰になる溢水か不足する脱水かのどちらかですね。健康な人と比べて疾患があることで、溢水・脱水となるリスクは高くなります。まずは、溢水・脱水とはどのようなものなのかをみていきましょう。
溢水(overhydration)とは
体内水分量が正常以上に増加した状態を言います。健常人であれば、水やNa過剰となっても腎によって調節されるため溢水にはなりません。調節系の項でも述べましたが、恒常性の調節のほとんどが腎で行われていることから、腎不全などで腎からNa排泄ができない場合や、有効循環血漿量の減少により腎でのNa排泄が低下した場合などに溢水となります。
脱水(hypovolemia)とは
体内水分量が正常以下に減少した状態を言います。脱水は血漿浸透圧によって、高張性・等張性・低張性に分類されます。
①高張性脱水(水欠乏型:dehydration)
細胞外液中の水がNaよりも多く失われた状態=細胞外液量の減少
↓
細胞外液中のNa濃度が上昇=高張性になる
↓
細胞内から細胞外へ水が移動=細胞内液量も減少
②等張性脱水(混合型)
水とNaの欠乏が比較的同じ割合で失われている状態=細胞外液量の減少
③低張性脱水(Na欠乏型:volume depletion)
細胞外液中のNaが水よりも多く失われた状態
↓
細胞外液中のNa濃度が減少=低張性になる
↓
細胞外から細胞内へ水が移動=細胞外液量の減少
臨床での考え方は?
教科書的に一般的な総論としては上記に書いたような①〜③のように分けられますが、実際の臨床では体液量の絶対値が低ければNaが低くても、細胞内脱水となることもあります。そのため、解剖生理をよく理解し、複合的に考えることが臨床での理解のコツとなります。
以上が体液バランス評価にあたって、基本となる部分です。細かい内容については今回はふれていませんので、有効浸透圧である張度(tonicity)やStarlingの法則などは改定もでていますので各々で掘り下げて学習してみてください。
本日も夜が明けてきたので、ここまでを体液バランス評価の第一回①とさせていただきます。続きを第二回②として実際の判断指標(身体所見やモニタリング・検査データなど)を具体的にどう判断していくかについて、書いていきたいと思います。
それでは、また次回。
おとーふ。