頭蓋内圧亢進の看護|クッシング徴候よりも前に看護師が気をつけること
2018/7/7 更新:2018/7/9
本日は、脳外科・脳卒中科領域では避けては通れないキーワード「頭蓋内圧(ICP)亢進」についてです。
今回一番伝えたいのは、「クッシング徴候などを見逃さず観察することももちろん大切ですが、それ以前にICP亢進を起こさない・または助長しないように予防する看護がもっと大切」ということです。
看護をルーチン化させていると、もしかしたら治療の妨げや症状を悪化させるリスクとなるような看護ケアとなっているかもしれません。日常的なケアでも、今一度見直ししていきましょう。
前回の腹部コンパートメントでも同様でしたが、圧が上がってしまった場合には最終的には外科手術以外の選択肢はありません。そのため、未然に防げるものはなるべく最小限で留められるようにすることが何よりも大切です。
手術適応の場合はよりベターな状態で手術を迎えられるように、すでに厳しい状態の場合はポイントをみながら看護ケアを考えていきましょう。
本日のコンテンツはこちらです↓
【本日の内容で使われる略語】
ICP:頭蓋内圧
Intracranial pressure
頭蓋内圧(ICP)亢進から看護ケアを考える
では、「ICP亢進を予防する看護って何をすればいいの?」と思いましたよね。
それにはまず「ICP亢進がどのように起こるのか」を知らなければなりません。そうすると、引き起こす因子に対して働きかけ除外したり、減らしたりができることもあります。その働きかけこそが看護ケアに当たるわけです。
今回、ここでは「看護ケア」は身体的な世話(療養上の世話)とし、トータル的な視点での「看護」とは分けたニュアンスで読み進めていただけるといいと思います。
1)ICP亢進はどのように起きるか
「ICP亢進とは」
頭蓋内圧がさす頭蓋内は①脳実質②血液③髄液の3つで構成されています。
通常はモンローケリーの法則により、頭蓋内の①〜③は多少の増減が調節され一定に保たれる仕組みになっています。ですが急激にどれかが増加した場合に、この代償機構が破綻し、頭蓋内圧が上昇(亢進)してしまうことを言います。
ICP亢進を起こす原因(疾患・病態)
①脳実質(容積)
→脳浮腫・頭蓋内容積の増大
(脳腫瘍・脳卒中・頭部外傷・髄膜炎・低Na血症など)
②血液
→脳血流増加・静脈還流障害
(心不全・高CO2血症など)
③髄液
→髄液圧上昇
(水頭症・脈絡叢乳頭腫など)
ICP亢進のその先は・・時間との勝負!
ICPがさらに亢進していくことで、意識障害・瞳孔異常・神経症状などの脳ヘルニア徴候、クッシング徴候(血圧上昇・脈圧増大・徐脈)が現れ、代償期から非代償期へ移行し死に至ります。
外科的治療で可逆的な変化が見込めるのは代償期までです。非代償期へと移行すると、外科的処置も無効となります。(医師が早くオペ出しして!と急ぐ理由はここにありますね。急かされる場合もあるかと思いますが、その先にある状態の悪さを見越してのことなのでスピーディーに対応しましょう。)そのため、初期の脳ヘルニア徴候やクッシング徴候を早期発見し、適切なタイミングで治療をすることが望まれます。
ICP亢進の原因となる因子を考えよう
前項の①〜③に原因をあげましたね。次に考えることは、何によってそれが起きるのかというところです。
順番にみていきましょう。
①脳浮腫・頭蓋内容積の増大を引き起こすのは?
〈脳浮腫〉
→低ナトリウム血症による血漿浸透圧の低下
〈頭蓋内容積の増大〉
→脳血流の増加→②へ
②脳血流増加・静脈還流障害を引き起こすのは?
〈脳血流増加〉
→脳血管拡張
→酸素需要の増加
→脳代謝の亢進
〈静脈還流障害〉
→血流低下
→静脈圧上昇
③髄液圧上昇を引き起こすのは?
〈髄液圧上昇〉
→胸腹腔内圧の上昇
→髄液の過剰産生
→髄液循環障害
以上が、ざっと因子になります。これらを踏まえて、この因子に影響を与える看護ケアを考えていきましょう。
2)ICP亢進の因子に影響を与える看護とは
それでは、ICP亢進の因子に沿って看護を考えてきましょう。
⑴低ナトリウム血症
低ナトリウムそのものは輸液や薬剤コントロールなどの治療が主となり、ケアでの予防は難しく看護管理がメインとなります。
【看護】
✔︎水分出納管理・電解質管理
⑵脳血管拡張
高CO2は脳血管を拡張するため、30〜35mmHg程度の管理が望まれます。
【看護】
✔︎高CO2血症の予防:呼吸管理
⑶酸素需要の増加
低酸素血症に陥ると、酸素を多く取り込もうと脳の血流も増加します。低酸素血症を避けるべく呼吸管理を行います。
【看護】
✔︎低酸素血症の予防:呼吸管理
↓低酸素や過剰酸素投与での合併症はコチラ
⑷脳代謝の亢進
高体温による二次性脳損傷として、脳代謝が亢進し脳血流の増加を招きます。
【看護】
✔︎高体温の予防:体温管理
⑸血流低下、静脈圧・髄液圧上昇
【看護ケアのココを見直し!】
とくに脳血管へ直結する、内頸動脈の静脈還流障害は要注意です。
静脈圧・髄液圧の上昇は、胸腔や腹腔内圧の上昇からも引き起こされます。生理現象でも咳嗽やくしゃみ、怒責・疼痛時などは圧が上昇しますし、看護ケアや外部刺激でも同様です。可能な限り最小限となるようケアの必要性を考える必要があります。
✔︎体位・ポジショニング
・頸部の屈曲・過伸展・回旋はしていませんか?
・半側無視や麻痺による頸部の回旋、頭位変換なども注意しましょう。
・舌根沈下やポジショニングでの圧迫など胸・腹腔内圧の上昇因子となります。
→回避できる体位を工夫しましょう。
・腹臥位、半腹臥位、仰臥位、頭低位は現状本当に必要ですか?
→優先順位を考えてみましょう。
↓他にも体位による影響と看護はコチラ
✔︎吸引
・呼吸状態、気道分泌物の有無や位置など考慮し必要最低限にしましょう。
・VS測定の時間だから、ラウンドだからなどのルーチン吸引はNGです。
・吸引時は十分な酸素化を行い、不要な咳嗽反射の誘発をしないよう手技や吸引時間にも注意し、胸腔内圧の上昇以外にも低酸素血症を誘発しないような配慮が必要です。動脈圧の上昇やSpO2低下など、モニターも同時にチェックしていきましょう。
なぜ頭部挙上の指示が出るのか?
脳外科や脳卒中の患者さんを受け持ちすると、医師からの指示で「ギャッジアップ15度」とか「30度くらい頭あげといて〜」なんて言われたりしたナースも多いと思います。なぜでしょう?
これは、頭部を挙上し静脈還流を促すことで頭蓋内圧を低下させると言われているためです。また、挙上しすぎると返って脳還流圧を低下させることから15〜30度程度の頭部挙上を実施しているところが多いです。
実際のところ・・・日本脳卒中学会が発表している脳卒中ガイドラインでは推奨グレードC1と「考慮してもよい」というエビデンスレベルで、強い推奨はされていません。また、急性脳卒中患者を対象にした体位による障害や合併症の発生について研究された論文がNEJMでも報告されましたが、有意差は認めないという結果でした。(軽傷で重症例が少なかったなどのlinitationもありますが・・・)これをどう判断するかは、現状患者さんの状態に合わせて現場の医師や看護師に委ねられる部分が大きいようです。
参考元:日本脳卒中学会 脳卒中治療ガイドライン2015
N Engl J Med2017;376:2437-2447
看護ケアが及ぼす影響の大きいものを代表的に取り上げましたが、これらを循環(血圧)・呼吸・鎮痛・鎮静管理などと組み合わせて、やり過ぎず、不足し過ぎず、患者状態にフィットした看護が行えるといいですね。
看護ケアでできる「限界」ももちろんあります。また、「看護ケアをしない」という選択が看護になることもあることを知っておいてください。
以上が頭蓋内圧亢進時の看護ケアについてです。
普段のケアがより意味のあるものや予後改善につながるとうれしく思います。
早めに書き上げる予定でしたが、うっかりアイス総選挙なるものを見てしまい遅くなりました(笑)ちなみに1位は明治エッセルスーパーカップバニラだそうです。
疲れた時は、アイスで?(笑)好きなもので一息入れましょうね〜。
おとーふ。