血液ガス分析のよみ方⑴血ガスで分かること・呼吸状態を知る3ステップ〜臨床ですぐに使える考え方〜
2018/3/11
本日は「血液ガス分析:BGA(Blood Gas Analysis)」についてです。臨床では、「動脈血液ガス分析:ABG(Arterial Blood Gas Analysis)」と記されることも多く、呼び方は概ね省略形で「血(けつ)ガス」と呼ばれます。
ERやICUなどの集中治療、手術室などでは目にする機会も多いのではないでしょうか。ナースの中でも人工呼吸器やPCPSなどの機械類と並んで、苦手意識の高いものの1つに入るのではないかなと思います。研修医や医師でもムズカシイなんて声もちらほら聞こえます。
血液ガス分析は、1回にまとめるとかなり駆け足になってしまいますので、2回にわたって書いて行こうと思います。
簡単に読むステップだけ書いても良いのですが、「ロジカルに理解してもらう」がこのブログのテーマでもありますので、ご理解いただければと思います。一度きちんと向き合えば、「今まで何をみていたんだろう」と実感できる項目でもありますので、じっくりやっていきましょう。
血ガス第一回は、「呼吸を知る」編になります。下記血ガスで分かることの①ですね。
血ガスの読み方・考え方
まず、血ガスを採る大前提の「何を知るために測定したのか。」という目的についてです。裏を返せば「血ガスで何が分かるのか。」を知っていれば、それが目的になります。
1)血ガスで分かること
①呼吸の状態を知る
②体内の酸塩基平衡の状態を知る
以上の2つです。血ガスを読んでいく際には、この「呼吸」と「酸塩基平衡」2点を分けて考えていきます。この「分けて考える」が血ガスを読み解く大事なポイントです。
初療や急変時に血ガスを測定する場合には①②の両方をみて原因検索していくことが多く、ある程度診断がついていて原因がわかっている場合は①を酸素化の指標として使ったり、②だけを追跡していくなど着目する血ガスの項目は、目的により違ってきます。
▽▼▽🔰血ガス初心者さまへ🔰
おそらく、血ガスについて「なんとなく」なイメージしかない人は「酸塩基平衡」の呼吸性アルカローシスや、代謝性アシドーシスなどの分類のイメージでつまづいていると思います。また、「血ガス=呼吸性アシドーシス!」みたいな1つの答えが出ると思っているナースも多いのですが、「1つだけではなく2つや3つ酸塩基平衡異常が併存する」ことも多々あることを認識しておいてください。酸塩基平衡異常とは、酸性かアルカリ性かに傾くことです。
酸塩基平衡異常の併存というのは例えば…
血ガスデータから読める結果が「呼吸性アルカローシス+AG開大型代謝性アシドーシス+AG非開大型代謝性アルカローシス」みたいなことです。
答えが1つと思っていた人には「え!?なにそれ?」な衝撃の事実ですよね(笑)。答えが1つという思い込みは、酸塩基を読み進める上では混乱しか招きませんので、あらかじめ「思い込み」をポイっと捨てておいてもらうと理解しやすいと思います。
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では、それが分かるとどうなの?
この「呼吸」と「酸塩基平衡」が分かると、現状起こっていることの原因がある程度しぼれてくるため、医師は鑑別診断を行うために血ガスの検査オーダーを出します。看護師は疾患の診断は行いませんが、血ガスを理解すれば状態の変化にいち早く気付け、患者状態を把握した上で治療の意味がわかり、原因となることを予測しながら観察の強化が行えたり、より早期に対応できるようになります。
血ガス項目「鍵」となるのはこの4つ
※カッコ()内は正常値です。
✔︎pH(7.35~7.45)
✔︎PaCO2(35~45)
✔︎PaO2(80~100)
✔︎HCO3-(21~28)
これ以外にも血ガスの機械はとても優秀なのでSaO2、ctHb、COHb、Hct、Glu、Cre、BEやAG、電解質(Na+,K+,Cl-,Ca2+)、Lacなんかも測定して結果を出してくれます。パラメーターについては、使用測定器によって異なります。
酸素と結合しているヘモグロビンの割合を示すSaO2も酸素化の指標として、とても大切なのですがSaO2はPaO2に規定されるので、ここではPaO2を主軸に話を進めます。
どの様な関わりがあるかは、以前に「酸素化の評価と合併症」でもとりあげていますので、よろしければ過去記事↓参考にしてください。
2)「呼吸」の状態は3stepで血ガスを読む
「呼吸」を知る上でみる血ガス項目は以下2つです。
①PaCO2
②PaO2
Step1. まずPa02をみる。
《正常値80~100Torr、60Torr以下:呼吸不全》
・PaO2低下↓
→低酸素血症✔️これが問題→Step2へ
・PaO2上昇↑
→過度に高い場合は、酸素投与が過剰なためコントロール
Step2. 次にPaCO2をみる。
《正常値:35〜45Torr》
・PaCO2の上昇がない(<45Torr)
→酸素化障害(Ⅰ型呼吸不全)→Step3-①へ
・PaCO2上昇↑(>45Torr)
→換気障害(Ⅱ型呼吸不全)→Step3−②へ
Step3-①.酸素投与への反応をみる。
※酸素投与は医師の指示範囲内で行いましょう。
・酸素投与に反応がある場合
→肺に問題がある
・酸素投与に反応がない場合
→シャントの存在
Step3-②.A-aDO2を計算し、上昇の有無をみる。
・A-aDO2が正常の場合
→肺胞低換気=肺以外に問題がある(中枢性、神経・筋疾患、胸郭異常など)
・A-aDO2の開大がある場合
→換気障害=肺に問題がある (心内右左シャント含む)
キーワードは「呼吸商」と「肺胞内酸素分圧」
A-aDO2を計算する上で、この2つが必要になります。
【A-aDO2(=肺胞気動脈血酸素分圧差)】=PAO2-PaO2
正常値:10mmHg以下(高齢者「年齢×0.3以下」が正常値)
☆A-aDO2が正常値よりも上昇している場合を「開大がある」と表します。
【PAO2肺胞内酸素分圧】※吸入酸素濃度が違えば、値が変わります
PAO2=(大気圧–水蒸気圧)×酸素濃度−PaCO2/0.8
→酸素濃度を室内気21%(0.21)とした場合
アンダーライン部分を計算すると(760−47)×0.21=150mmHg
【呼吸商】R=0.8
肺胞内の10個のO2に対して、血管内の8個のCO2を交換するので10分の8が呼吸商になります。
以上が、血ガスから「呼吸状態を知る」編になります。あくまでもデータはデータなので、実際の患者さんの状態や症状・既往疾患なども加味してみていきましょう。
次回は、血ガス第二回「酸塩基平衡」の読み方です。血ガス苦手アレルギーの方は、いよいよ本番です(笑)この機会に覚えてしまいましょ〜。
それでは。
おとーふ。
↓血ガス第二回はコチラ↓