酸素療法と看護⑵酸素化と酸素合併症【酸素化とは・PaO2/SaO2/Hb/CaO2・評価の仕方】
2018/2/13
前回の酸素療法⑴では、日常の酸素療法を行う上で必ず知っておいてほしい基礎知識について書いていきました。
それをふまえて、安全に酸素投与が開始できた・・・と仮定して。
で、その後どうするの?ってところを今回はみていきたいと思います。
酸素投与でSpO2などの数値や呼吸状態が改善したのち、ずっと同じ流量の酸素を評価もせずに投与し続けていたり。酸素は特効薬や魔法のアイテムではないので…不要な酸素投与を続けたことによって、合併症を起こすケースもあります。
そんな時に、絶対におさえておくべきポイントを一緒に整理していきましょう。
酸素化の評価をする上で知っておくべきこと
ここからは、血液ガスについても片足を踏み入れる形でお話していきます。
病棟のナースは血液ガスのデータを目にする機会は少ないかもしれません。ERやICUのナースは日常的に目にすることと思います。
いずれ、血液ガスについても取り上げていきますが、今回は酸素化にフォーカスして関連項目を見ていきます。
1)そもそも酸素化ってどういうこと?
酸素が血液に取り込まれることを酸素化と言います。
肺から取り込まれた酸素は、肺の毛細血管でヘモグロビンと結合し、抹消組織の毛細血管で酸素を放出します。
動脈血中の酸素に関係する指標が、PaO2とSaO2になります。
PaO2とSaO2ってなに?
<PaO2>
動脈血中の酸素分圧=1気圧(760Torr)下に動脈血の中にある酸素の分圧
【正常値】100−(年齢×0.3)Torr→成人の場合:約80~100Torr
<SaO2>
動脈血の酸素飽和度=総ヘモグロビン中の酸素と結合しているヘモグロビンの割合(SaO2は、臨床上SpO2※経皮的酸素飽和度とほぼ等しい)
【正常値】96±2%
PaO2とSaO2の関係性は?(酸素解離曲線)
SaO2は酸素の供給量を表していて、PaO2の圧力によって供給量が決まってきます(=SaO2によってPaO2の値が決められている)。
SaO2とPaO2の関係を示しているのが酸素解離曲線(下図参照)になります。
【代償反応】
生体恒常性で代償が働くと、酸素消費に合わせて酸素解離曲線がシフトします。
<右方偏移>組織への酸素供給を優先
→PaO2が高くてもHbから酸素が離れやすい
例:アシドーシスや発熱時、低酸素血症
- pH低値
- PaCO2高値
- 高体温
- 2,3-DPG高値
<左方偏移>血中酸素飽和度の上昇を優先
→PaO2が低くてもHbに結合しやすい
例:アルカローシス
- pH高値
- PaCO2低値
- 低体温
- 2,3-DPG低値
【SpO2100%での管理は要注意です!】
酸素投与により分圧が増加するためPaO2は100を超えても200、300と上昇していきますが、SaO2100%=酸素が結合できるヘモグロビンは飽和状態であることを示し、100%が上限です。
ですから、血液ガスを採取しなければ分からないPaO2の上昇や低下に気付きにくく、高濃度酸素による合併症のリスクが高まります。
SaO2(SpO2)98%程度を上限にした管理を行うと呼吸状態や酸素化の変化に気付きやすくなります。
2)意外と忘れられがちHbとCaO2も酸素化の押さえどころ
- Hb=ヘモグロビン
- CaO2=酸素含有量
CaO2は酸素がどのくらい含まれているかを表します。SpO2が100%の場合でも、貧血がありましたらHbが半分ならばCaO2も半分になります。
< PaO2もSaO2も良いのに呼吸状態が悪いまま!なぜでしょう?>
この場合、呼吸困難感が続いているからと大量の酸素投与を行いPaO2を上昇させても、酸素の運搬役であるヘモグロビンの総量が少なないので、呼吸状態は良くなりません。
Hbが半分ならば酸素の運び屋も通常の半分だということです。そのため、酸素を組織へ届けられる量も半分になるということです。
…そうなると、酸素の欠乏したカラダは循環する血液量自体を増やして、ヘモグロビンの少なさを補おうと「頻脈」になります。血液に十分な酸素が含まれていないことが原因です。
<そんなときに役立つ指標がCaO2>
ヘモグロビン濃度から酸素含有量を計算します。
CaO2=Hb×1.34×SaO2÷100+0.003×PaO2
正常値:16〜20mg/dL
→値が低ければ、酸素化が不十分となります。
< CaO2が低値ならば…>
上記で酸素化が不十分と書きましたが、酸素増やしてPaO2を上げても、 CaO2は上がりませんし、呼吸状態は変わらないとも言いましたね。
そんな時に行うべきは…輸血で貧血を是正することです。
3)実際、酸素化の評価はどうみる?
PaO2、SaO2、Hbと CaO2は前項でとりあげてきましたね。さらに、患者さんの年齢・基礎疾患・現状の病態を併せて評価していきます。
①PaO2
②SaO2
③Hb/CaO2
④年齢
PaO2の正常値は年齢によって異なります
<年齢別PaO2正常値の計算式>
仰臥位の場合:100−0.3×年齢
座位の場合:100−0.4×年齢
⑤基礎疾患
酸素療法⑴の適応でも取り上げたように、貧血、低心拍出量となる心筋梗塞や心不全、COPDなどがある場合です。
SaO2は100%としPaO2も高めに設定されることや、反対に慢性的に低値の場合は、低めに基準値を設けていきます。
⑥今起きてる現状の病態
①〜④をすべて加味した上で、最終的には呼吸状態だけでなくバイタルサインや、全身状態を含めて酸素化の程度や指標を決め、酸素投与量の評価を行っていきます。
4)酸素投与による合併症
低酸素状態では治療となり、有効な「酸素」ですがやみくもな投与や、高濃度の酸素投与により合併症を引き起こしてしまうことがあります。
✔︎酸素中毒
気管支炎やうっ血性肺水腫などの障害が生じ、咳・胸痛・呼吸困難感・四肢の知覚麻痺・嘔気・嘔吐などから、神経系の障害・全身麻痺となります。
✔︎CO2ナルコーシス
以下3条件を満たす症候群のことです。
①重症呼吸性アシドーシス
②意識障害
③自発呼吸の減弱
COPDや気管支喘息重症発作時などのⅡ型呼吸不全の場合、元々PCO2が高く、慢性的にPO2が低いことが呼吸中枢の刺激をして呼吸の維持ができています。そこへ高濃度酸素を投与することで、低酸素換気刺激がなくなり呼吸抑制がかかります。すると呼吸は減弱、換気量が保てずPCO2はさらに上昇し、意識障害を来します。
✔︎吸収性無気肺
拡散による肺胞内ガスの完全消失および、肺胞虚脱によって無気肺になります。
合併症を防ぐには?
適切にアセスメントを行い、不必要な酸素投与は行わないが原則です!ただし、必要な場合には躊躇なく酸素投与が行えることも大切です。
以上で、酸素療法の基礎については終わりです。血液ガスについては、まだほんの入り口部分です(笑) そのうち取り上げていこうと思います。
おとーふ。