酸素療法看護⑴目的・適応・方法・デバイス選び・酸素流量計の違いと酸素の加湿(※追記あり)
2018/2/8 追記:2018/2/11
酸素療法と看護⑴
今日はナースならおそらく誰もが一度はたずさわったことがあるであろう、「酸素療法」についてです。ナースにとってはかなり日常で目にする治療ですね。
「え?今さら酸素?知ってるし・・・」
「1年目のナースが勉強することでしょ。」
「大半が知らない?大半が知ってるの間違いでしょ。」
「酸素?多少多くても少なくても害ないでしょ。」
・・・なーんて思ったナースもたくさんいると思います。ところが、臨床で出会うナースの大半が正し知識のないもしくは、曖昧な知識のまま実施していることがとても多いです。
- 酸素療法と看護⑴
- 1)(目的)酸素療法をするのは何のため?
- 2)(適応)酸素療法はどんな時に必要?
- 3)(システムと種類)酸素療法にはどんな方法があるの?
- 4)(デバイスの選択)酸素投与のデバイスは何を使えばいい?
- 5)(酸素流量計について)流量計って全部同じじゃないの?
- 6)酸素の加湿って少ない投与量でも必要?(酸素投与時の加温・加湿)
なぜ多くのナースが正しく知らないのでしょう?
おそらく、「手技や操作が簡単でありどんなナースでも扱える」というところに利点の反面、最大のリスクがあるのではないかと考えています。
安直なナースは、「SpO2が下がったら酸素投与をたくさんするほどすぐに上がる」と思っています。また、そうでないナースも「酸素がリスクってCO2ナルコーシスになるからでしょ。」くらいの知識で止まっている人もいます。
もちろん、医師の指示のもと酸素投与を行う訳であって大体がSpO2/pO2〇〇〜〇〇の間でコントロール、なんて指示が出ていると思います。
けれど、当直医しか不在の夜間や緊急の場合などは、ナースの裁量に任される部分も出てきます。また、変化に一番早く気付くのも初期対応するのも24時間患者さんの側にいるナースです。
だからこそ、「知って適正な判断ができること」と「予想しうるリスクや合併症を知って、指示に沿った治療を実施すること」はとても大切になってきます。
日常だからこそ、簡単だからこそスルースキルが磨かれてしまいますが・・・それってかなり悲しいお知らせです(笑)
「24時間患者さんの側にいるナースだからこそ!知っててほしい酸素療法のホント」を、この機会に見直してもらえればなと思います。
少し前置きが長くなりました。でも熱量がアガるくらい(笑)きちんと知っておいて欲しい知識なのです。これを知らずして、「レスピが〜、PCPSが〜・・・」などと言っている場合ではありませんね。おとーふも一緒に、復習のつもりで書いていきます。
1)(目的)酸素療法をするのは何のため?
一言でいえば「組織の低酸素症改善のため」になります。
→低酸素症の治療(相対的組織低酸素症を含めた)が目的です
低酸素症に陥るということは供給される酸素の・酸素の取り込みの・酸素運搬経路・運搬された組織側のどこが欠如してもダメで、いずれかに問題があった場合にも生きていく上で「息を吸って、吐く」という無意識に行っている生命維持活動は成り立たないのです。
ようするに、そのどこかの過程に問題がある場合が対象になってきます。
例:低酸素血症、低心拍出量(心疾患)、貧血、一酸化炭素中毒、高熱、SIRS、敗血症、重症外傷、術後など
「低酸素症」と「低酸素血症」は同じではない!
低酸素血症は低酸素症の一因です。混同しないように正しく理解しましょう。
低酸素血症と低酸素症の違い 基本的な内容から始める。低酸素血症(hypoxemia) とは,動脈血中の酸素が正常より低い状態にあること である。臨床的には,PaO2 60 mmHg未満または SpO2 90%未満で低酸素血症と考えることが多いが, ここに引用する多くの論文は低酸素血症を明確に数値 で定義していない。低酸素血症は,第一に,酸素が気 道を介して肺胞へ十分に届かない状態(吸入酸素濃度 の低下,肺胞低換気),第二に,酸素が肺胞から血液へ 十分に移動できない状態(肺内シャント,換気血流不 均等の異常,拡散障害)で起こる。 低酸素血症と低酸素症は同じではない。低酸素症と は組織が酸素を十分に利用できない状態のことであ る。低酸素症は,第一に,酸素が組織へ十分に届かな い状態(低酸素血症,低心拍出量,極端な貧血,一酸化 炭素中毒など),第二に,酸素は組織へ届いているが組 織での酸素消費量が極端に多い状態(過高熱,甲状腺 クリーゼなど),第三に,酸素は組織へ十分に届いてい るが組織が酸素を利用できない状態(シアン中毒,一 酸化炭素中毒など)で起こる。低酸素症が起こるとミ トコンドリア内の酸素を必要とする好気呼吸(解糖 系・クエン酸回路・電子伝達系)は障害され,細胞が 生きるためのエネルギーを産生できない。高乳酸血症 と代謝性アシドーシスが進行し,細胞は死滅すること になる。 したがって,低酸素血症は低酸素症の一因であり, 低酸素血症は低酸素症を起こす危険性があるが,低酸 素血症があれば直ちに低酸素症となるわけではない。
J Jpn Soc Intensive Care Med 2016;23:113-6.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/23/2/23_113/_pdf
2)(適応)酸素療法はどんな時に必要?
【絶対的適応:PaO2 50Torr以下またはSpO2(SaO2)が90%以下】
【相対的適応:PaO2 60Torr以下(ルームエア)】
または中心性チアノーゼ出現などの異常兆候があるとき
【低酸素血症に関わらず、酸素投与を要する場合】
→重症外傷、術後、低心拍出量(AMI・心不全など)、敗血症性ショックなど
その他の場合でも、相対的に酸素投与が必要とされた場合には酸素療法が開始されます。基本的に判断は医師が行いますが、医師到着までの間や緊急時などはナースサイドでの評価・判断が必要となってきます。
ただし!慢性呼吸不全(COPD)の場合は、Sa0288〜92%でも許容されます。その場合は、二酸化炭素分圧(pCO2)の値も考慮します。
【呼吸不全の分類】
Ⅰ型呼吸不全:pCO2 45mmHg以下
Ⅱ型呼吸不全:pCO2 45mmHg以上
3)(システムと種類)酸素療法にはどんな方法があるの?
低流量システムと高流量システム
まず「流量」による分類として、高流量と低流量に分けられます。
これは、「1回換気量に対して酸素ガスの供給量が多いか少ないか」によって分類されます。
【低流量システム】
鼻腔カニュラ/フェイスマスク/オキシマスク/リザーバーマスク
・1回換気量が酸素投与量を上回るため、不足分は外気が充当され呼吸パターンによって外気吸入量が異なるため、酸素濃度が不安定
【高流量システム】
ベンチュリーマスク/インスピロン/ハイフローセラピー(高流量鼻カニュラ)
・1回換気量以上の混合ガスを投与できる
・患者さんの呼吸パターンに左右されず、安定した酸素濃度の供給が可能
酸素開始にあたってどちらを選べばよいでしょう?
先ほど、適応でも述べた呼吸不全がⅠ型かⅡ型かによって選択します。
Ⅰ型呼吸不全:PaCO2 45mmHg以下 →低流量システム
Ⅱ型呼吸不全:PaCO2 45mmHg以上 →高流量システム
COPDのようなⅡ型呼吸不全の場合は、高濃度の酸素投与を行うことで呼吸中枢への刺激がなくなり、呼吸抑制によりPaCO2が上昇し意識障害をきたすCO2ナルコーシスを引き起こします。そのため、一定の酸素濃度が保て高濃度酸素投与を避けることができる高流量システムを選択します。
反対にⅠ型呼吸不全の場合には、酸素濃度が一定である必要がなく、かつ高濃度酸素の投与も可能な低流量システムを選択します。
4)(デバイスの選択)酸素投与のデバイスは何を使えばいい?
デバイスの特徴は使用メーカーにより異なる部分があるため、詳細はメーカーに準ずるものとします。ここでは、各デバイスの特徴についてあげていきます。
【鼻腔カニュラ】
・0.5〜4L/分 多くても6L/分以下それ以上は不快感・刺激が強い
・口呼吸には不向き
【フェイスマスク】
・5L/分以上を推奨、それ以下だと呼気の再呼吸をしてしまう
・口呼吸、鼻呼吸両方に対応
【オキシマスク】→新しいデバイスで使用施設はまだ少ないです
・フェイスマスク型だが、塞ぐ面積が少ないため呼気の再呼吸が少ないよって、5L/分以下の流量でも使用できる
・閉塞感が少なく、開口部からマスクを外さず飲水なども可能
・装着位置のズレで酸素濃度が下がりやすい
【リザーバーカニューレ:オキシマイザー】
・少ない酸素流量で通常より高い酸素濃度の投与ができる
【リザーバーマスク】
・高濃度酸素(60%以上)の投与が可能
〈一方弁あり〉通常こちらが多いです
→呼気ガスの逆流がなし=高濃度酸素の投与
マスクの側壁とマスク〜バッグ間の3点に弁があり
(医師の指示で必要時は外して使用することもあります)
〈一方弁なし〉
→呼気ガスの逆流があり=呼気の再呼吸、高濃度酸素と二酸化炭素の投与となる
・6L/分以上にすると再呼吸しづらい
【ベンチュリーマスク】
・ダイリューター(コマと呼ばれることが多いです)の組み合わせにより、酸素濃度が設定できる
・24%〜50%の酸素濃度調節ができる
・トータルフロー表を目安に30L/分以上が推奨(使用メーカーの表を参照して下さい)
・ネブライザー用フードのあるものはネブライザー(エアゾール)使用が可能
【ネブライザーベンチュリーマスク:インスピロン】
・ベンチュリーマスクにネブライザー機能(常時加湿)が合わさったもの
・酸素濃度の調節にダイリューターの取り換えがなく、ダイヤル式であるため簡便
・気道分泌物の粘稠度の軟化が図れる
・上気道の乾燥防止
・霧状の粒子が発生するため、不快感を伴うこともある
【高流量鼻カニュラ:ハイフローセラピーやネーザルハイフローと呼ばれます】
→比較的新しい治療法で、2016年より診療点数の加算(160点)が行えるようになり使用が広がりつつあります。
・鼻カニュラでの高流量酸素投与が可能
・100%酸素を60L/分まで投与可能
・マスクでないため緊急挿管時の喉頭展開中も、酸素投与の継続が行える
・マスクに比べてストレスが少なく酸素投与が安定して行える、QOLの維持
・死腔のウォシュアウトによりCO2の再吸収を防ぐ(換気補助)
・PEEP効果(平均気道内圧1〜3cmH2O増加、開閉口/性別により変動)と肺胞リクルートメントがねらえるが、一定でない
・加温、加湿効果による気道クリアランスの維持と無気肺予防
・適応、禁忌があるため使用に注意が必要
・中央配管タイプと酸素ボンベのみで使用する、ベンチュリー(外気取り込み)タイプがある(中央配管タイプは酸素、圧縮空気が必要なため移動中の使用ができない)
・現在、保険適応がない
【※2018/2/11追記しました】
5)(酸素流量計について)流量計って全部同じじゃないの?
流量計についての記事をすっかり忘れていたので、追記しました。
酸素の流量計についても「全部同じでしょ?なにが違うの?」というナースや、実際に使い分けができていないことも多々目にします。ときどき、そんなナース達にため息をつきながら(笑)静かに交換していくMEの姿も目撃します。一番利用頻度が高いのはナースだと思いますので、MEに迷惑をかけずできることは自分たちで(笑)。
何よりも事故や破損のないよう使い分けができるようにしていきましょうね。分類ですが、「供給圧」によるものと「見た目」の違いで2パターンに分けていきます。
【供給圧による分類】フロート式で「大気圧式」か「恒圧式」かに分けられます。
①「大気圧式」=大気圧で酸素を送り出す
・流量計内部の圧力が大気圧(1気圧/0.1MPa…メガパスカル)とされている
・恒圧式に比べ酸素を送り出す力が弱い
→⭕️低流量システムで使用可能 ❌高流量システムはダメ
大気圧式で高流量システムを使用した場合、流量抵抗がかかるため設定量より多く酸素が流れてしまうリスクがあります。
②「恒圧式」=配管圧(中央配管からの圧)で酸素を送り出す
・流量計内部に大気圧の約4倍の強力な圧がかかっている!
→破損したら恐ろしい事故につながることが想定できますね。
・⭕️高流量システム、低流量システム両方に使用できる
強力な圧のため流量抵抗がかかる高流量システムでも、正確な流量を送り出せます
→高流量システム使用時は必ず恒圧式流量計を選びましょう
ただし…恒圧式は配管出口が塞がれていないため、流量計内に常に配管圧力がかかった状態となります。使用しない時には破損の原因となるため、中央配管から外しておく必要があります。
①「大気圧式」と②「恒圧式」実際どう見分ける?
パッとみ流量計の見た目はほとんど同じです(笑)急いでいる時なんて、ホント同じにしか見えません。しかし!「恒圧式」は流量計の目盛りとなりの「FLOW METER」の横に「0.4MPa」とさりげなく書いてあります。(本当にさりげなく、え?これ?って感じです…笑)先ほど説明した、大気圧(1気圧0.1MPaの4倍の0.4MPa)ってやつです。
あとは配管に接続した時に構造上からの違いで下記の特徴があります。
「大気圧式」→フロート(流量計内の浮く玉)が全く動かない
「恒圧式」→フロートが一瞬ふわっと浮き上がる
【見た目による分類】
前項の供給圧による分類はフロート式でしたが、見た目によってフロート以外にもダイヤル式があります。
①フロート式
・フロート式は、調節ツマミの先端スピンドルの位置によって供給圧が異なります。
②ダイヤル式(高圧式・低圧式がある)
・ダイヤル式は流量目盛りのハンドルの後ろにオリフィス板という、流量に応じた穴のあいた板(レンコンみたいな…笑)があり、その穴の大きさが変わることで流量制御をしています。
・フロート式と比べ、トータルフローが少ないため呼吸状態の変動が著しい人や、シビアな呼吸管理をしている場合には注意が必要ですし、その場合にはフロート式を使った方が無難かと思います。
他にも、低流量タイプと呼ばれる0.1L/minで調整のできるものもあります。
流量計の見分け方など少し面倒にも感ることもあると思いますが、慣れれば一瞬で見分けがつきます。後から起こりうる恐ろしいリスクを考えれば「いっ時の確認」で防げますので、確実に使い分けのできるようにしていきましょうね。
【※ここまでが追記記事となります】
6)酸素の加湿って少ない投与量でも必要?(酸素投与時の加温・加湿)
低流量システム:鼻腔カニュラ→3L/分までは不要
高流量システム→酸素濃度40%までは不要
上記以外は、加湿を行なった方が良いと思います。また、気管切開の場合も生理的加湿機能がないため必ず加湿しましょう。
盲目的に加湿を行わず、患者さんの全身状態や水分バランスも考慮して調整していきましょう。また、過度の加湿による回路内の結露や結露による閉塞、感染リスクなども考慮します。
患者さんの顔にも付着し不快感へもつながります。インスピロンなど霧状の粒子による結露も含め、適宜顔の清拭やマスク・カニュラの結露の拭き取りも行なっていくと良いですね。
いかがでしたでしょうか?
「そこは知らなかった〜」なんて思う部分もあったでしょうか?少し長くなってきましたので、本日の酸素療法はここまでとします。酸素療法⑵では、酸素療法時の看護を中心に書いていこうと考えています。
それでは〜
おとーふ。