かんごノート by logical nurse

現役ICUナースによるoutput&どこかのナースのためになればいいなのブログ。キーワードはロジカルシンキング。

胸腔ドレーン看護管理⑷移動時にドレーンクランプ!?トラブル予防と対処法【注意点とトラブル対応】

2018/1/11 

年末年始いかがお過ごしだったでしょうか?
本年もよろしくお願いします。
おとーふ。

さて、年末からのお題続けていきます。


↓胸腔ドレーン看護管理シリーズは⑴〜⑹、この記事は⑷です。

⑴看護師がチェックすべき9項目【適応・目的・挿入部位】

⑵低圧持続吸引・チェストドレーンバック【胸腔ドレーンの仕組み】

⑶ここをチェック!観察ポイントとそこから考えられること【観察ポイント・正常と異常】

⑸ウォーターシールの看護はここをチェック【ウォーターシール管理】 

⑹ドレーン抜去の目安と抜去時の看護【抜去時期・ドレーン抜去】


6.注意点とトラブル時の対応

今回は「注意点とトラブル時の対応」についてです。ここまでの項目で、ドレーンの仕組みや、正常・異常などについては確認できたと思います。

しかし、注意すべき点やトラブルケースを事前に知っていれば予防できるものも多々あります。インシデント・アクシデントの大半は知識不足や思い込みが原因となります。不要なアクシデントは心の余裕まで奪ってしまうので、できる限り起こしたくないですよね。

覚えなくてもいいんです、「あ、そういえばどこかで聞いたな。」レベルで思い出したり、気づくきっかけになればいいのです。

いざという時「知っててよかった」と思える側のナースになりましょう。

1)注意点

①ドレーンクランプ

検査の移動や体位交換時など基本的にはドレーンクランプは行いません。(肺全摘やドレーンバッグ交換・機器の点検、一時的に胸腔よりも高い位置にドレーンバッグを置かなければならない時など、主に医師の指示がある場合以外)昔の古い知識のままの看護師さんでは、いまだに移動時のドレーンクランプが必須だと思っている人もいますが・・・間違いです。

 

「なぜクランプしてはいけないのでしょう?」

理由は・・・緊張性気胸を引き起こすリスクがあるからです。空気をドレナージしているドレーンがクランプされてしまうことで、空気の逃げ場はなくなり胸腔内に流入・貯留・充満し肺虚脱を起こし、縦隔偏位による健側肺の圧排や呼吸・循環異常をきたします。

 

②ドレーンバッグの転倒

ドレーンバッグを転倒させると、水封部の封がなくなり外気孔とドレーン先端(=胸腔内)が交通してしまい肺虚脱を起こすためです。また、交通による感染リスクもあります。

 

「ドレーンバッグを転倒させてしまった場合はどうすればいいの?」

転倒を未然に防ぐため固定するなどの工夫が必要ですが、それでも倒れてしまった場合にはすぐに医師への依頼とバッグ交換の準備をし、ドレーンバッグの交換を行いましょう。

他にも・・・肺虚脱の他に排液が水封室へ移動し逆行性感染を起こす原因となったり、水柱圧の水の移動により適切な吸引圧が保てない等・・転倒によりチェストドレーンバッグの機能がほとんど失われてしまいます。

f:id:logicalnurse:20171130013549j:plain〈これだけ!ドレーンバッグ交換〉

意外と処置にあたることも多いドレーンバッグの交換。速やかな対応が必要となる場合も多いので、簡単に覚えておきましょう。ちなみに実施は医師が行いますので、スムーズに介助につけるようにしましょう。

手順:吸引側を外す→患者側をクランプ
   →消毒+バッグ交換
   →クランプを解除→吸引側を接続

吸引を外してからクランプです、交換が終わったら逆の手順になります。
クランプを忘れると、外気の引き込みや皮下気腫を起こすので必須です!

 

③水封部・吸引部の水の補充

使用中に水封部・吸引圧制御部の蒸留水が蒸発し減ってきた場合に、適正な吸引圧がかからないため補充する必要があります。(ドレーンのしくみでも解説しましたが、各名称が分からない場合は下図でおさらいしましょう。)

f:id:logicalnurse:20171203015822j:plain

胸腔ドレーンの構造・各部名称・しくみ

 

蒸留水を補充の際に吸引側チューブをクランプせずに空気導入口(注水口)をシリンジで塞ぐと、急激な胸腔内の過陰圧による肺損傷を招くため、吸引接続チューブをクランプします。

吸引を外さずにクランプした場合も、同様に過陰圧となる場合があります。

手順:吸引側チューブクランプ(吸引側を外す)
   →蒸留水を足す
   →クランプを解除(吸引側の接続)

吸引側を外して戻す方が確実ですが、各メーカーでの注意喚起としてはクランプとなっていることが多いです。

f:id:logicalnurse:20171126082601j:plain使用製品によっての違い

上記はチェスト・ドレーン・バック(住友ベークライト株式会社)の場合ですが、同一社製品でもQ−1(旧キューインワン)ですと注水口マフラー(緑のキャップ)の小孔(空気導入口)を塞がないようにとの注意喚起のみで、クランプについては省かれています。
そのため、使用時のメーカーによる取扱説明書を確認すると同時に施設基準もあると思うので、よく確認してください。よく携わる手技でありながら、知らない人もかなり多いのが現場での実感です。 

いずれにせよクランプをする場合には、速やかに補充を行い、補充の後のクランプ解除・吸引の再開を絶対に忘れないようにしましょう!

 

④ミルキング 

ミルキングも過陰圧による肺損傷を起こすリスクがあるため、ルーチンでは行いません。ただし、排液性状により必要なこともあるため判断に迷う場合は医師へ確認しましょう。

 

2)トラブルと対応・管理

◉どの場合においても、バイタルサインのチェク、患者状態の観察、不安や疼痛への対応は必要時適宜行っていきます。

接続外れ

・ドレーンバッグとの接続外れの場合、ドレーン側を鉗子でクランプしすぐに医師へ報告します。医師到着後、抜けや異常がなければ再度ドレーンバッグへ接続。

・接続部のゆるみの有無を確認し、再度接続外れがないようにしましょう。

一部・完全抜去

一部抜去の場合は、絶対に残りを抜いてはいけません。直ちに医師へ報告。

完全抜去の場合は、抜去部に清潔なガーゼをあてて速やかに医師へ報告。抜去されたドレーンの先端を確認し、体内への残存がないことをチェック。

緊張性気胸の場合は、ドレーン再挿入までの時間が生命予後を左右するため一刻を争う。直ちに医師へ報告するとともに、ドレーン再挿入の準備を行い、呼吸・循環動態の変調に十分注意する。

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain接続外れ・抜去予防するには・・・

体位交換や処置・検査などによる移動時が多く、患者側の因子として自己抜去なども考えられます。説明・指導により患者協力を得るとともに、不穏・せん妄・意識状態の悪い場合には同意の元、抑制帯の使用なども検討していきます。

また、不安や疼痛など不穏の因子となりうる状態は早期対応を行い、できるだけ誘因とならないようにしていきましょう。

体動のある患者の場合には、動作の範囲を予測した上で固定の工夫を行います。

 

閉塞

・排液性状によるものであればミルキングを行います。

・医師によるドレーン内の洗浄を行うこともあります。

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain閉塞予防するには・・・

排液性状によるもの以外に、クランプの解除忘れや三方活栓が閉塞していたなど処置時の人的ミスがあることも多いです。医療者側の操作忘れがないよう、声かけ・確認を必ず行います。

 

【屈曲・捻れ】

・屈曲や捻れを修正しドレーン固定の位置を工夫し、自然な走行となるようにします。

 

f:id:logicalnurse:20171203015037j:plain屈曲・捻れ予防するには・・・

体動時や体位交換時、移動時などこまめに目配りをし、自然なチューブ走行での固定を行うことが予防にもつながります。

 

 

いかがでしたか?
以上が胸腔ドレーンの注意点とトラブル時の対応になります。今一度、予防策とともにトラブルを未然に防げるよう、確実な手技や工夫を行なっていきましょう。

次回は、ウォーターシール管理についてまとめていこうと思っています。